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リュウのケイトウ レガシィ10 繋ぐ思い
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『慧人さん、
お風呂のご用意が出来ました。
どうぞ、お先にお使いくださいな。』
あらかた片付け物が終わると
ティエナから声が掛けられる。
『サレフより先に入ってしまって
いいのか?。』
『ええ、サレフは別室でまだ
会議中ですので。』
『そうか、すまない。
それなら先に使わせてもらおう。』
『この家自慢の大浴場です。
どうぞ、ご存分に。』
慧人に浴場の場所を教えると
その姿を見送りながらそっとほくそ笑む
ティエナ。
『男湯、女湯。
まるで温泉旅館にでも遊びに来たようだな…。』
脱衣場に入る。
天然木を多用し、広々とした落ち着いた作り。
正に温泉旅館さながら。
当然、脱衣場には誰も居ない。
慧人は脱衣カゴに服を簡単に畳んで
用意されていたタオルを手に
浴場の扉を開いた。
目の前の光景に一瞬
感嘆をもらす。
『凄いな。
温泉旅館のようだ等と思っていたが、
その感覚すら越える…。
高級温泉旅館…いやリゾートだなまるで。』
視線の先が湯気で霞んで見えなくなる程の
立派な石造りの長大な湯船。
その隣には檜造りの浴槽も見える。
湯船に手を浸し極めて適温である事を
確認して少し掛け湯で身体を流すと
ゆっくり浸かって一息つく。
(いつも思うが、最初に温泉を発見して
浸かろうと考え付いた者は素晴らしい
発想の持ち主だったのだろう。
いや、相当突飛なヤツだったかもしれないな。
なんせ適温とは限らんし恐怖は無かったん
だろうか…。
最初は罰だった可能性もあるか。
何れに〈いずれに〉せよ
今に繋がっているんだ
感謝しない訳には行かないな。)
慧人もリラックスすると
少しは情緒などを楽しむのかもしれない。
かと思えば世間とズレた思考を
巡らせていた。
『だーれだっ!!ウフフっ。』
不意に視界が掌に寄って
塞がれる。
『ネイっ!。』
慧人が咄嗟にその掌の主人の
名を吐き出す。
その背中には柔らかな
二つの感触。
まともな男性なら思考が沸騰し兼ねない
状況なのだが、
そこはそれ朴念仁な慧人の事…。
特段 派手なリアクションも無い。
『当たりです。
でも、半分だけ かな。』
ネイの嬉し気な
しかし、落ち着いた答え。
声音は後半違って聞こえたような。
錯覚ではなく
明らかに違う声色だった。
『夏。
夏なのか?。意識を…
目を覚ましたのか?。』
慧人は振り向かないままに
問う。
その声には喜びが隠しきれない。
『うん、さっきね。
良かった。
またお兄ちゃんの声を聞けて
こうしてまた体温を感じられて。』
夏は再生シリンダー内にて養生中だが
身体の完全回復まではネイに精神を
シンクロさせ一つのフギュエイドのボディを
二人で共用している。
夏は慧人の首筋へ背中から腕を回したまま
慧人の肩に頬を擦り
更に額を押し付けた。
『良かった。
お帰り、夏。』
『うん、ただいま
お兄ちゃん。』
そんな感慨深い再会の余韻に浸っては
いたものの、慧人は気付いてしまう。
毎度の事とは違う
今この感触を含めた実際問題を。
『夏、
いや、ネイ。
なんで今日に限って"水着"を
着けていない。』
少しの間、
湯殿に静寂が訪れる。
そして慧人は決して振り返らない。
『夏様と慧人様の再会を
ドラマチックな物にしたくて…
で、ございます。ポッ!。』
『ドラマチック か。
それだけか?。』
慧人は大した抑揚も無い声で
問いただす。
『それだけじゃないよ…。』
夏は今迄以上に慧人の首に回す
腕に力を込める。想いをのせるように。
『…………………。』
慧人は黙ったまま。
身じろぎ一つ取らない。
夏はいつもの自分とは違う大胆な
行為に頭が沸騰寸前だった。
しかし、全く反応を示す事の無い
慧人に、慧人の心に
自分の想いが届いていないものと
考えに至ってしまい次第に
冷えて行く心の芯に気がついてしまう。
『ごめんなさい…。
こんなんじゃダメだよね。
こんな作り物の身体じゃお兄ちゃんに
届かないよね。』
寂しい声を隠すように
少しおどける風を装う夏、
そしてネイ。
『ちがう。』
慧人は負の感情をのせる事の無いよう
抑揚のない真っ直ぐな声で答える。
『ちがうんだ。
夏、ネイ、お前達の気持ちは嬉しい。
そして勿論お前達の心、感情も
俺に届いている。
しかし、俺は世間様のような
愛情表現をお前達にしてやれない。
その意味はリンクにより解ってくれるな。
それと作り物だとかそうじゃ無いとか
そんな事は関係無い。
俺がそんな些細〈ささい〉な事を
とやかく思う人間で無いのは
お前達が一番知っていてくれているものと
信じている。』
『ごめんなさい…
うんん ちがう
ありがとうお兄ちゃん。』
夏は慧人の背に自分の背を合わせるように
寄りかかり、背中越しに今の淡く
しかし、はっきりと感じられるお互いの
愛情を噛み締めていた。
そんな夏、ネイの手を
後ろ手のまま
指を絡ませ繋ぐ慧人だった。
お風呂のご用意が出来ました。
どうぞ、お先にお使いくださいな。』
あらかた片付け物が終わると
ティエナから声が掛けられる。
『サレフより先に入ってしまって
いいのか?。』
『ええ、サレフは別室でまだ
会議中ですので。』
『そうか、すまない。
それなら先に使わせてもらおう。』
『この家自慢の大浴場です。
どうぞ、ご存分に。』
慧人に浴場の場所を教えると
その姿を見送りながらそっとほくそ笑む
ティエナ。
『男湯、女湯。
まるで温泉旅館にでも遊びに来たようだな…。』
脱衣場に入る。
天然木を多用し、広々とした落ち着いた作り。
正に温泉旅館さながら。
当然、脱衣場には誰も居ない。
慧人は脱衣カゴに服を簡単に畳んで
用意されていたタオルを手に
浴場の扉を開いた。
目の前の光景に一瞬
感嘆をもらす。
『凄いな。
温泉旅館のようだ等と思っていたが、
その感覚すら越える…。
高級温泉旅館…いやリゾートだなまるで。』
視線の先が湯気で霞んで見えなくなる程の
立派な石造りの長大な湯船。
その隣には檜造りの浴槽も見える。
湯船に手を浸し極めて適温である事を
確認して少し掛け湯で身体を流すと
ゆっくり浸かって一息つく。
(いつも思うが、最初に温泉を発見して
浸かろうと考え付いた者は素晴らしい
発想の持ち主だったのだろう。
いや、相当突飛なヤツだったかもしれないな。
なんせ適温とは限らんし恐怖は無かったん
だろうか…。
最初は罰だった可能性もあるか。
何れに〈いずれに〉せよ
今に繋がっているんだ
感謝しない訳には行かないな。)
慧人もリラックスすると
少しは情緒などを楽しむのかもしれない。
かと思えば世間とズレた思考を
巡らせていた。
『だーれだっ!!ウフフっ。』
不意に視界が掌に寄って
塞がれる。
『ネイっ!。』
慧人が咄嗟にその掌の主人の
名を吐き出す。
その背中には柔らかな
二つの感触。
まともな男性なら思考が沸騰し兼ねない
状況なのだが、
そこはそれ朴念仁な慧人の事…。
特段 派手なリアクションも無い。
『当たりです。
でも、半分だけ かな。』
ネイの嬉し気な
しかし、落ち着いた答え。
声音は後半違って聞こえたような。
錯覚ではなく
明らかに違う声色だった。
『夏。
夏なのか?。意識を…
目を覚ましたのか?。』
慧人は振り向かないままに
問う。
その声には喜びが隠しきれない。
『うん、さっきね。
良かった。
またお兄ちゃんの声を聞けて
こうしてまた体温を感じられて。』
夏は再生シリンダー内にて養生中だが
身体の完全回復まではネイに精神を
シンクロさせ一つのフギュエイドのボディを
二人で共用している。
夏は慧人の首筋へ背中から腕を回したまま
慧人の肩に頬を擦り
更に額を押し付けた。
『良かった。
お帰り、夏。』
『うん、ただいま
お兄ちゃん。』
そんな感慨深い再会の余韻に浸っては
いたものの、慧人は気付いてしまう。
毎度の事とは違う
今この感触を含めた実際問題を。
『夏、
いや、ネイ。
なんで今日に限って"水着"を
着けていない。』
少しの間、
湯殿に静寂が訪れる。
そして慧人は決して振り返らない。
『夏様と慧人様の再会を
ドラマチックな物にしたくて…
で、ございます。ポッ!。』
『ドラマチック か。
それだけか?。』
慧人は大した抑揚も無い声で
問いただす。
『それだけじゃないよ…。』
夏は今迄以上に慧人の首に回す
腕に力を込める。想いをのせるように。
『…………………。』
慧人は黙ったまま。
身じろぎ一つ取らない。
夏はいつもの自分とは違う大胆な
行為に頭が沸騰寸前だった。
しかし、全く反応を示す事の無い
慧人に、慧人の心に
自分の想いが届いていないものと
考えに至ってしまい次第に
冷えて行く心の芯に気がついてしまう。
『ごめんなさい…。
こんなんじゃダメだよね。
こんな作り物の身体じゃお兄ちゃんに
届かないよね。』
寂しい声を隠すように
少しおどける風を装う夏、
そしてネイ。
『ちがう。』
慧人は負の感情をのせる事の無いよう
抑揚のない真っ直ぐな声で答える。
『ちがうんだ。
夏、ネイ、お前達の気持ちは嬉しい。
そして勿論お前達の心、感情も
俺に届いている。
しかし、俺は世間様のような
愛情表現をお前達にしてやれない。
その意味はリンクにより解ってくれるな。
それと作り物だとかそうじゃ無いとか
そんな事は関係無い。
俺がそんな些細〈ささい〉な事を
とやかく思う人間で無いのは
お前達が一番知っていてくれているものと
信じている。』
『ごめんなさい…
うんん ちがう
ありがとうお兄ちゃん。』
夏は慧人の背に自分の背を合わせるように
寄りかかり、背中越しに今の淡く
しかし、はっきりと感じられるお互いの
愛情を噛み締めていた。
そんな夏、ネイの手を
後ろ手のまま
指を絡ませ繋ぐ慧人だった。
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