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1旅立ち
しおりを挟む"好奇心は猫をも殺す"などと言われるが主人の好奇心で殺される猫はいないと信じたいものである。
知的欲求は誰でもが持っているもの。
少しばかり他人よりも強い好奇心を持つが故にいろいろな苦労を背負い込むのも致し方ないと言えるのかも知れない。
この日、王都バスセラリーセ 防衛軍 機構兵器開発部 中枢制御系研究科第二分室に少年は先輩から"ラフな私服で来るように"との呼び出しで出頭を命じられていた。
『君が気にしていた新しい龍神伝説の地
に手配がついたので向かってみないかね?』
(向かってみないかね?
決定事項をまるで選択権があるように告げるとは…)
少年は先輩のお願いに対し少しだけ訝しんだのだが、元々自分の興味分野だけ に断ると言う選択肢は無かった。
元より話しの大元は少年発信だったのだが…
『勿論、行かせていただきます。
段取りはどのようになっているのでしょうか。』
『先行してティタと迩椰(ニヤ)を向かわせてある 向こうで合流後、段取りの詳細を受け取ってくれたまえ。』
かなり大雑把な指示だったが合流の場所などがメモされた電子記録媒体が用意されていたので事足りている。
『慧人(ケイト)君 あちらでは編入生として生活してもらう事になるが、きっと良い事があると思うから楽しみにしててくれ。』
先輩タンエルントの言葉を額面通りに取るなどと言う事は慧人にとって許容出来ない思考だった。
『そうだ、編入試験を今直ぐ終わらせてくれないか?君なら40分程度で事足りると思うが』
『何科目、有るんです?』
『7科目だ。試験官は私が務める、向こう側の了解は得ている。早速、始めてくれ。』
ーー38分後。
『何とか40分以内で終わらせられました。ギリギリでしたが。』
『……呆れたヤツだな君は…。』
『すみません、自分もまだまだですね。』
『そう言う意味ではない。私は一科目で40分程度と言ったんだ。一度に全ての科目をスクロール出来るようにしておいた私も良く無いが、まさか7科目全部を40分以内で終わらせるとは。少し君を侮っていたよ。平均は95点の文句無く合格だ。結果は私から送っておく。』
『よろしくお願いします。』
(私の一存で無試験でも構わなかったんだがこれでお墨付きと言う事で少し箔が付いただろう)
『それと、言い忘れていたが8番ゲートが行きだけの 直通になってるので使ってくれたまえ』
2分間で発行されたID付きの学生証、多目的携帯端末等を手渡され、黒の長袖Tシャツにジャケット、濃紺のジーンズを纏った慧人は
『ありがとうござます』
と素っ気ない礼を告げ
現地までの片道キップ代わりの
8号フォースフェイズシフトドロー(龍真瑰反応式空間位相転移門)
のハッチを開いたのだった。
チューブから押し出すような仕組みの相転移空間を通るため、ほぼ一方通行の形式となっている。(出口側からの外敵等を進入させない仕様だ)
5月新緑の季節
柔らかい新芽が辺りを埋め尽くし
風かおる穏やかな草原。
夕暮れ少し手前ののどかな時間
慧人は大の字に寝そべり
自分の日常とは、かなり掛け離れた風情を少しの間、楽しんでいた。
慧人はこの地を愛してる。
四季をまだ残し美しい自然も溢れるこの場所を懐かしささえ感じるこの時間を、いつまでも残しておきたいと考えていたのだった。
ふと、少し離れた所に気配を感じる。
(悪意は無いようだ)
少女は大の字に横たわる少年に、そおっと歩み寄る。無垢な寝顔に自分の顔を近づけ覗き込む姿勢のまましばらくその顔を眺めて、少女も表情に柔らかい微笑みを湛えている。
少年がゆっくり瞼を開ける。
目の前に徐々に像が結ぶと
ふんわり少し癖っ毛の真っ白の髪をショートにした
まるで、シロツメクサの花のような可憐で愛らしい少女の顔が息も届きそうな程の所にあった。
『迩椰(ニヤ)俺の事が分かったのか?』
覗き込む深いブルーの瞳に尋ねる。
『慧人の事が解らない訳ない』
ついには慧人の胸に頬を擦りながら、迩椰は当たり前だと言わんばかりだ。
『慧人おかえりなさい』
『おかえりなさい?えーと?』
慧人は返す言葉に戸惑ってしまう
この場合"おかえりなさい"と言う挨拶が
妥当ではないと思い至るからだ。
『おかえりの返事は"ただいま"だよ慧人』
迩椰はどうしてもこの挨拶の言葉にこだわるようで曲げる気は無いようだ。
『そうか…"ただいま" 迩椰』
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