リュウのケイトウ

きでひら弓

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3レガシィ リュウの伝承1

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不安に思う心も
全てのストレスも
今は微塵も思考する事無く
ただただ揺蕩って(たゆたって)いた。

自我を意識する事なく
享受される感覚のみ
漫然と受け止める
一つの塊(かたまり)。

或いは精神。

其れを合わせ持ち
姿のみ成していたのだ。

白い空間を見ている。
しかしその認識は無い。
だか、徐々に温度、熱を
感じ始める。

それは、ほんの少しの目覚め。
覚醒には程遠い。

うろんと微睡む意識に
更に音から喧騒へ
いや、喧騒と言うには
和やかな感覚だ。

『…トさ  ん   イトさん   ケイトさん。』

塊は声を認識し
それが自らを呼んでいるものだと
自覚し始める。

『ケイトさん、慧人さん、慧人さん。』

清々しいフルートの
音色にも似た
暖かな声音を
鼓膜を通じ聴覚野を
心地よく刺激する。

『ん……… うっ。』

塊だった物は
今、目覚めと共に
慧人と言う構成に落ち着こうとしていた。

『うっ…………
…………………君は?。』

麗しい声音の主へ尋ねる。

『私は、………。』

茶色の長い髪を大きく結い
左肩から下げる
色白の細面の美少女の顔は
嬉しさと心配の色を面に浮かべ
しかし、ホッと一安心する様
一旦微笑むと目尻に薄っすら
涙を滲ませていた。

纏まらぬ思考の中、
懐かしい響きの
名前を思い出す。

『ティタ!?。』

『いいえ。
私はティエナと申します。』

『ティエナ………
          そうか…。
俺はいったい…
    どう  なってしまったんだ。』

◇       ◇

あの人をどうしても救いたい。
しかし、巡る未来は
あの人の死と言う現実。

私は、自らの命と引き換えても
あの人を救いたかった。

ある未開の原生林の奥深く
己を捧ぐ事で願いを叶える
神が在ると伺い知り
其処へ旅立った。

捜索は困難ではなかった。
あまりにも導かれる様に
森の奥
人知れぬ洞窟に

神龍は住まっていた。

私は願った 
自らの命と引き換えても
かまわないと。

しかし、
龍は私の命を奪ったり
身体を束縛する事なく
緋く眩い輝きを放つ美しい石を
私に授けると

『この石を
その者の運命が変わり
助かった時に渡してほしい。

その約束で
お前の願いは叶えよう。

ただ、簡単には叶わぬぞ  
諦める事なく願い続けよ。

上手く行かなければ
其の石に何度でも願え。

さすれば
きっと其の願い成就しよう。

決して諦めるな。

ゆめゆめ忘れ忘れる事なかれ。』

あの人と出会い
あの人が死んでしまうまでを 
幾度も繰り返す。

あの人が死んでしまった時
石に願い時間を巻き戻す。

何度巻き戻しても
やはり結果は同じ道を辿り
やはりあの人は死んでしまう。

私はその度に絶望するも
諦める事無く
巻き戻し直す。

そんな事を繰り返すうち
私は疲れきって
崩れ落ちるように
地面に這い蹲ばり
遂には石に恨み言を吐き
掌から血が滲む程
石を握りしめた。

私の血を受けた石は
緋い光を眩く放ち
此れ迄に無かった  
願いへのヒントを
導き出したのだ。

"時間を巻き戻すだけでなく
     並行する空間へも繋げよう
きっと運命は大きく変わる。

その分岐点を見逃すな。"

石の輝きは
元の状態に戻り 
私はあの人と出会った
時間へと舞い戻った。

そして今までで起こった事の無い 
異邦の者の行倒れを
保護するに至るのだった。

この異邦の者
慧人こそが
私の待ち望んだ分岐点の証。

そう、
私はこの出会いを
待ち焦がれていた。

◇        ◇

部屋に大きな暖炉があり
その火を囲むように
リビングでは
四月のまだ少し肌寒さを凌ぐよう
懸念の拭いされぬ
一行が暖を取り
ため息まじりに
会話も少なに首を垂れていた。

『慧人さん、目を覚まされました!。』

そのリビングに少し勢い良く
ティエナが吉報をもたらすのだった。

『慧人様、やっと!!。』

メイド服を纏ったネイは
目尻に涙を浮かべ
嬉しさにくずれた表情で
破顔している。
まあ、美しい娘は
破顔したといっても
可愛らしさを損なうものでは
なかったが。

レピとハピは飛び上がって
抱き合いキャキャと
はしゃいだ。

ネコ耳がチャーミングな
銀髪の獣人の娘
ミャウは崩れるばかりの笑顔を作ると
嬉しさ余ってじゃれ合うレピ、ハピに
大ジャンプで覆い被さり
二人を抱きしめる。

この家の主人
サレヒュトは
ごんぶとなゴツい大きな掌へ
右手の拳を打ち付け
『よっしゃぁっ!!。』と
不敵 しかし優しさのカケラのある
不器用な笑みを作るのだった。

サレヒュトが
ティエナの入って来た
扉へ立ち上がりって振り向いた時には
既にネイは部屋から飛び出し
慧人が寝かされいる部屋へと
到着していたのだった。

『慧人様っっ!。』

ベッドから上体を起こし
まだ意識定まらぬ表情の慧人へ
ネイは飛び込み抱きすがる。

『慧人様っ、慧人様っ!。』

涙こぼれる顔を慧人の胸へと
擦り付けるネイに慧人は
声をかける。

『ネイ、いや夏、心配掛けたな。』

『いえ、そんな…
     戻って来てくださって本当に良かった。
  ネイは心から嬉しいのです。

それと、まだ夏様は完全に覚醒されて
いません。
私の精神とリンクさせて今の状況は
把握されている状態です。

しかし、夏様の喜びも
ひしひしと伝わってまいります。』

『そうか…夏はまだ…

思ったよりも回復に時間が掛かって
しまったようだな。

ネイ リンクにより
状況を把握させてくれるか?。』

『か、かしこまりました。』

ネイはなぜかほんのり頰を染めている。
次の瞬間、慧人がその表情に
疑問を持つよりも早く
オオカマキリが飛ぶ獲物を
一瞬で捕らえるような
いや、その素早さを上回る速度で
慧人をもう一度しっかり抱きしめると
自らの唇をしっかり
慧人の唇へ押し付けていたのだ。

『ん、んぅ  ん   ちゅっ!。』

慧人の記憶領域に
足りない部分を補うように
ココへ辿り着いてからのあらましを
瞬時に補完するデータが送られて来る。
同時、部屋の扉が勢い良く開いた。

『いやんっ!!。』

『マス   た………!?。』

『ちゅーーーぅっ!!。』 

『あらあら…まぁまぁ。』

『ほほぅ。』

部屋で繰り広げられている光景に
五人の感嘆が放たれるのだった。

慧人は微動だにしない。
いや、出来ない!?。

ネイは夏の分の愛情も注ぐように
今一度、自身の喜び愛しさを
唇を通して慧人へ
目一杯 伝える事を躊躇わなかった。
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