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31 境界線の向こう側
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旅行の感想を語らいながらの帰路。
小休止のために立ち寄った公園で、月島は、スマホの地図を眺めながら不思議そうに首を傾げていた。
「この道は少し遠回りなのではないか?」
「ちょっと寄りたい場所があるんだよ」
「ほう?」
「着いてからのお楽しみだ」
興味深そうな月島を、ウインク一つで焦らす。月島は、唇を曲げて拗ねて見せたが、そんなポーズも長くは持たずに口元が緩んでいく。
「やれやれ、君は私を焦らすのが好きだね」
「いつも俺の方が焦らされてるんだから、たまにはやり返さないと帳尻合わないだろ」
「……君のそういう煽るような台詞は無自覚なのか? もし、わざとだとしたら期待に応えない訳にはいかないのだが」
「ばか、こんなところで盛るなよ」
危険な色を滲ませて顔を寄せてきた月島を押し返し、慌てて立ち上がって車へと向かう。
後ろから「冗談だ」と軽く笑う声が追いかけて来たが、俺は油断なく距離を保ち続けた。
「おい、信用無いな」
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ」
軽くじゃれ合いながら車に乗り込み、薄暗い山道を駆け抜けていく。
ようやく目的地に着いた頃には、すっかり日も沈んでいた。
「それ、着いたぞ」
「ここは?」
俺が目指していた場所は、特にこれといった目印も無い、道の途中である。あまりにも唐突な到着の合図に、月島が訝しげに辺りを見回していた。
ここに何があるのかと考え込んでいる様子だが、無理もない。何も知らない人間には、本当にただの山道にしか見えないのだから。
「真っ暗で何も見えないのだが……」
そう、街灯の隙間に位置するここは、足元が危うくなるほど暗い。街明かりすらも遠く、山道らしく崖になっているガードレールの向こうに、控えめに瞬いている程度だ。
この暗さこそが、何も無い山道を特別たらしめているのだ。
「横じゃないんだな。上、見てみろよ」
「……おお!」
俺に倣って空を見上げた月島が感嘆の声を上げた。
頭上に広がるのは満天の星空だ。雲一つ無く澄んだ秋の夜空には、無数の星々と、消え入りそうなほど細い月が浮かんでいる。絶好の天体観測日和だった。
「どうだ、凄いだろ」
「日本でもこんなに星が見える場所があるのだな。驚いたよ」
「……ここは誰も連れて来たことがない、俺だけの場所なんだぜ」
この場所を見つけたのは偶然だった。
いつものように夜の山道を走っている最中、ほんの気まぐれでいつもと違う道を辿った末に辿り着いたのだ。 最初に来た時も、今日と同じく澄み透った空をしていた。
あの時は一人だった上に、酷くささくれ立った心を抱えていたのだけれども。
鬱屈とした心を忘れさせるような星空を見て、救われた心地になったことを覚えている。
「それまで星に興味はなかったんだが、この空を見たら一気に魅了されてさ。気分転換したいときには来てるんだ。実はこう見えて、多少は星にも詳しいんだぞ?」
「それは……知らなかった」
「だろ? 誰にも言ってなかったからな」
何故か少し悔しそうな月島に、したり顔を返して笑う。
俺は自分の言葉を証明するかのように、空に向かって指を突き出した。夏の大三角や、こぐま座、カシオペア座など、分かりやすいものから指でなぞって形を作っていく。
そうしている内に自然と月島と寄り添う体勢になり、解説する口調に甘さが滲み始めたその時、視界の端で一筋の光が流れた気がした。
「……! 今の、見えたかい?」
どうやら月島も気付いたらしい。頷いて、上げたままの指先を東の空に向ける。
「この時期はおうし座流星群が見られるんだ。ほら、スバルがあるのは分かるだろ? あれはおうし座の一部なんだが……その辺りから放射状に星が流れてるんだよ」
そう言っている傍から、光の筋が空を横切っていく。
「あ、流れた。見えたか?」
「……む、見逃していた」
「運の無いヤツめ」
悔しそうな表情を浮かべる月島を見て笑う。月島はじとっとして目で俺を見据えると、何か思いついたような表情を浮かべた。
「見逃してしまったのは残念だが、問題ない」
耳元で甘く囁き、腰に手を這わしてくる。冷えた手を服の裾から差し込まれ、ぞくりと震えが走った。
「私の一番の願いは、もう叶っているからな」
「……っ!」
耳たぶを噛まれ、思わず狭い車内で後退る。
助手席から身を乗り出して俺を組み敷いた月島は、星空を背に微笑んでいた。
「誰も知らない君の姿を教えてもらえて、嬉しいよ」
「生意気にも俺のことを知った気になっている男の鼻を、明かしてやりたくてな」
「ふ、君の偽悪的な言葉も理解できるようになってきたんだよ、私は。君の大切なものを、分かち合おうとしてくれたんだろう?」
「……ふん。勝手に言ってろ」
図星を突かれて目を反らし、効果的な誤魔化しの言葉も思いつかずに口を閉ざす。
月島は、まるで俺の心の底を見通そうとしているかのように、澄んだ目で俺の顔を眺め続ている。根負けして視線を戻せば、目が合った瞬間、月島は綻ぶような笑みを見せた。
その向こうにまた流れて行った星に向かって、口には出さず胸中だけで願う。
この時間がずっと続きますように、と。
◆
旅行先から遅い時間に帰宅した俺たちは、着の身着のままベッドに転がり込み、翌日、日も高くなってから活動を再開していた。
「さて、今日はお前の家に行くという話だが」
「何か物言いたげだな」
「感慨に耽っているのが半分、呆れているのがもう半分だよ」
「呆れる要素があったかな?」
月島の訝し気な視線を受け流し、俺は窓の外へと目をやる。
レンタカーを返却してから、月島の運転する車で月島家を目指しているのだが。
「お前、俺と同じ通勤ルートだったよな? 何で俺の最寄り駅からどんどん離れていくんだよ」
薄々察してはいたが、俺と月島の家は近くとも何ともなかったらしい。
どおりで、俺を抱きに来るたびに泊まっていくわけだ。
「なに、歩ける距離だよ」
「歩いてって、四十分以上はかかるだろ」
「軽いジョギングには丁度いい距離だね」
「走ってるじゃねーか」
頭の中に地図を思い描きながら嘆息する。
それにしても、だ。
「お前さ、この辺に住んでるなら最寄り駅は違うだろ」
「少し遠くても君と同じ駅に通っていた理由について、説明が必要か?」
「だよなー、いらないわ……」
浮かんだ疑問をとりあえずぶつけてみたが、分かりきった回答にやりとりを省略する。
いつものヤツ、である。
もはや説明する方も聞く方も面倒になっていた。
毎日遠回りすることを厭わず、同じ電車に乗り込んでは影から俺の姿を眺めていたのだろう、この男は。
そんな光景がありありと想像できてしまって、苦く笑った。
「さて、着いたぞ」
「お、おお……!」
月島が運転する車は、大きな家が建ち並ぶエリアへと進入していき、一際目立つ家の前で停車した。
月島に指し示された家を見て、思わず言葉を失う。
でかい。
それがようやく絞り出された感想だった。
動揺を露にする俺を尻目に、月島は慣れた手つきで門を開いて車庫へと車を滑り込ませていく。
高級車が似合う家だなと謎の感心を抱きながらも、恐る恐る月島へと話しかけた。
「お前って、もしかして結構良いところの坊ちゃんだったりする?」
「ふ、何を言うかと思えば」
「いや冗談ではなく」
向こうは軽く笑っているが、聞いてるこっちは大真面目である。
こんな家に住むような家庭の長男様が、俺のような男に現を抜かしていて良いのだろうか。いや、良い訳がない。
「遠慮せずに上がってくれ」
「お、お邪魔します」
気を取り直して玄関の扉をくぐったところ、案の定一歩目で息を飲むことになる。
外観から抱いた敷居の高そうなイメージを、一切裏切ってくれない内装だ。
磨き抜かれた板張りの廊下に、高そうな調度品の数々。花瓶一つとってもいくらするのか、俺には想像もつかなかった。
正直、今すぐ回れ右して帰りたい。
神原辺りなら、この気持ちを分かってくれることだろう。
間違っても転ばないよう慎重に靴を脱ぎ、控えめに隅の方に整えて、ふかふかの玄関マットとスリッパの感触に落ち着かないまま月島の背を追いかけた。
当然といえば当然だが、月島は慣れた足取りで奥へと進んで行く。
各部屋の説明を聞きながら、俺はふと月島の服や持ち物が洗練されていたことを思い出していた。
こんな家で暮らしていれば、否が応でも目が肥えていくだろう。英才教育である。
「それで、あちらが客間で手洗いはここ。このすりガラスの扉がリビングだ」
「うわ……!」
月島がリビングのドアを開けた瞬間、大きな水槽とその中を泳ぐ鮮やかな熱帯魚たちが目に飛び込んできた。俺が両手を伸ばしても端から端までは届かないほどの水槽が、リビングの一角を占めている様は圧巻だ。
改めて室内を見渡してみれば、その他にも小さめの水槽が数個置かれており、さながら水族館の様相を呈していた。
「どうだ、ちょっとした物だろう」
「一般家庭に置いておくレベルではないな……」
「驚いたか?」
「もちろん。むしろ驚かない人間の方が少ないだろ」
真っ直ぐと吸い寄せられるようにして水槽を覗き込む。
赤、青、黄色、鮮やかな色彩を翻し水草を揺らしながら泳ぐ魚の群れは、いつまで眺めていても飽きそうになかった。
その後ろで月島が腕を組んで考え込んでいる姿が、薄っすらとガラスに映りこんでいる。
「うむ。実はあまり、人を家に上げたことがなくてね。思いつくのはカズくらいだが、彼は小さい頃から見慣れているからな」
「……そうか」
予想外の言葉に面映くなって頬を掻く。
月島のプライベートに踏み込んだ数少ない人間。その一人に加えてもらえたことが嬉しかった。
小休止のために立ち寄った公園で、月島は、スマホの地図を眺めながら不思議そうに首を傾げていた。
「この道は少し遠回りなのではないか?」
「ちょっと寄りたい場所があるんだよ」
「ほう?」
「着いてからのお楽しみだ」
興味深そうな月島を、ウインク一つで焦らす。月島は、唇を曲げて拗ねて見せたが、そんなポーズも長くは持たずに口元が緩んでいく。
「やれやれ、君は私を焦らすのが好きだね」
「いつも俺の方が焦らされてるんだから、たまにはやり返さないと帳尻合わないだろ」
「……君のそういう煽るような台詞は無自覚なのか? もし、わざとだとしたら期待に応えない訳にはいかないのだが」
「ばか、こんなところで盛るなよ」
危険な色を滲ませて顔を寄せてきた月島を押し返し、慌てて立ち上がって車へと向かう。
後ろから「冗談だ」と軽く笑う声が追いかけて来たが、俺は油断なく距離を保ち続けた。
「おい、信用無いな」
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ」
軽くじゃれ合いながら車に乗り込み、薄暗い山道を駆け抜けていく。
ようやく目的地に着いた頃には、すっかり日も沈んでいた。
「それ、着いたぞ」
「ここは?」
俺が目指していた場所は、特にこれといった目印も無い、道の途中である。あまりにも唐突な到着の合図に、月島が訝しげに辺りを見回していた。
ここに何があるのかと考え込んでいる様子だが、無理もない。何も知らない人間には、本当にただの山道にしか見えないのだから。
「真っ暗で何も見えないのだが……」
そう、街灯の隙間に位置するここは、足元が危うくなるほど暗い。街明かりすらも遠く、山道らしく崖になっているガードレールの向こうに、控えめに瞬いている程度だ。
この暗さこそが、何も無い山道を特別たらしめているのだ。
「横じゃないんだな。上、見てみろよ」
「……おお!」
俺に倣って空を見上げた月島が感嘆の声を上げた。
頭上に広がるのは満天の星空だ。雲一つ無く澄んだ秋の夜空には、無数の星々と、消え入りそうなほど細い月が浮かんでいる。絶好の天体観測日和だった。
「どうだ、凄いだろ」
「日本でもこんなに星が見える場所があるのだな。驚いたよ」
「……ここは誰も連れて来たことがない、俺だけの場所なんだぜ」
この場所を見つけたのは偶然だった。
いつものように夜の山道を走っている最中、ほんの気まぐれでいつもと違う道を辿った末に辿り着いたのだ。 最初に来た時も、今日と同じく澄み透った空をしていた。
あの時は一人だった上に、酷くささくれ立った心を抱えていたのだけれども。
鬱屈とした心を忘れさせるような星空を見て、救われた心地になったことを覚えている。
「それまで星に興味はなかったんだが、この空を見たら一気に魅了されてさ。気分転換したいときには来てるんだ。実はこう見えて、多少は星にも詳しいんだぞ?」
「それは……知らなかった」
「だろ? 誰にも言ってなかったからな」
何故か少し悔しそうな月島に、したり顔を返して笑う。
俺は自分の言葉を証明するかのように、空に向かって指を突き出した。夏の大三角や、こぐま座、カシオペア座など、分かりやすいものから指でなぞって形を作っていく。
そうしている内に自然と月島と寄り添う体勢になり、解説する口調に甘さが滲み始めたその時、視界の端で一筋の光が流れた気がした。
「……! 今の、見えたかい?」
どうやら月島も気付いたらしい。頷いて、上げたままの指先を東の空に向ける。
「この時期はおうし座流星群が見られるんだ。ほら、スバルがあるのは分かるだろ? あれはおうし座の一部なんだが……その辺りから放射状に星が流れてるんだよ」
そう言っている傍から、光の筋が空を横切っていく。
「あ、流れた。見えたか?」
「……む、見逃していた」
「運の無いヤツめ」
悔しそうな表情を浮かべる月島を見て笑う。月島はじとっとして目で俺を見据えると、何か思いついたような表情を浮かべた。
「見逃してしまったのは残念だが、問題ない」
耳元で甘く囁き、腰に手を這わしてくる。冷えた手を服の裾から差し込まれ、ぞくりと震えが走った。
「私の一番の願いは、もう叶っているからな」
「……っ!」
耳たぶを噛まれ、思わず狭い車内で後退る。
助手席から身を乗り出して俺を組み敷いた月島は、星空を背に微笑んでいた。
「誰も知らない君の姿を教えてもらえて、嬉しいよ」
「生意気にも俺のことを知った気になっている男の鼻を、明かしてやりたくてな」
「ふ、君の偽悪的な言葉も理解できるようになってきたんだよ、私は。君の大切なものを、分かち合おうとしてくれたんだろう?」
「……ふん。勝手に言ってろ」
図星を突かれて目を反らし、効果的な誤魔化しの言葉も思いつかずに口を閉ざす。
月島は、まるで俺の心の底を見通そうとしているかのように、澄んだ目で俺の顔を眺め続ている。根負けして視線を戻せば、目が合った瞬間、月島は綻ぶような笑みを見せた。
その向こうにまた流れて行った星に向かって、口には出さず胸中だけで願う。
この時間がずっと続きますように、と。
◆
旅行先から遅い時間に帰宅した俺たちは、着の身着のままベッドに転がり込み、翌日、日も高くなってから活動を再開していた。
「さて、今日はお前の家に行くという話だが」
「何か物言いたげだな」
「感慨に耽っているのが半分、呆れているのがもう半分だよ」
「呆れる要素があったかな?」
月島の訝し気な視線を受け流し、俺は窓の外へと目をやる。
レンタカーを返却してから、月島の運転する車で月島家を目指しているのだが。
「お前、俺と同じ通勤ルートだったよな? 何で俺の最寄り駅からどんどん離れていくんだよ」
薄々察してはいたが、俺と月島の家は近くとも何ともなかったらしい。
どおりで、俺を抱きに来るたびに泊まっていくわけだ。
「なに、歩ける距離だよ」
「歩いてって、四十分以上はかかるだろ」
「軽いジョギングには丁度いい距離だね」
「走ってるじゃねーか」
頭の中に地図を思い描きながら嘆息する。
それにしても、だ。
「お前さ、この辺に住んでるなら最寄り駅は違うだろ」
「少し遠くても君と同じ駅に通っていた理由について、説明が必要か?」
「だよなー、いらないわ……」
浮かんだ疑問をとりあえずぶつけてみたが、分かりきった回答にやりとりを省略する。
いつものヤツ、である。
もはや説明する方も聞く方も面倒になっていた。
毎日遠回りすることを厭わず、同じ電車に乗り込んでは影から俺の姿を眺めていたのだろう、この男は。
そんな光景がありありと想像できてしまって、苦く笑った。
「さて、着いたぞ」
「お、おお……!」
月島が運転する車は、大きな家が建ち並ぶエリアへと進入していき、一際目立つ家の前で停車した。
月島に指し示された家を見て、思わず言葉を失う。
でかい。
それがようやく絞り出された感想だった。
動揺を露にする俺を尻目に、月島は慣れた手つきで門を開いて車庫へと車を滑り込ませていく。
高級車が似合う家だなと謎の感心を抱きながらも、恐る恐る月島へと話しかけた。
「お前って、もしかして結構良いところの坊ちゃんだったりする?」
「ふ、何を言うかと思えば」
「いや冗談ではなく」
向こうは軽く笑っているが、聞いてるこっちは大真面目である。
こんな家に住むような家庭の長男様が、俺のような男に現を抜かしていて良いのだろうか。いや、良い訳がない。
「遠慮せずに上がってくれ」
「お、お邪魔します」
気を取り直して玄関の扉をくぐったところ、案の定一歩目で息を飲むことになる。
外観から抱いた敷居の高そうなイメージを、一切裏切ってくれない内装だ。
磨き抜かれた板張りの廊下に、高そうな調度品の数々。花瓶一つとってもいくらするのか、俺には想像もつかなかった。
正直、今すぐ回れ右して帰りたい。
神原辺りなら、この気持ちを分かってくれることだろう。
間違っても転ばないよう慎重に靴を脱ぎ、控えめに隅の方に整えて、ふかふかの玄関マットとスリッパの感触に落ち着かないまま月島の背を追いかけた。
当然といえば当然だが、月島は慣れた足取りで奥へと進んで行く。
各部屋の説明を聞きながら、俺はふと月島の服や持ち物が洗練されていたことを思い出していた。
こんな家で暮らしていれば、否が応でも目が肥えていくだろう。英才教育である。
「それで、あちらが客間で手洗いはここ。このすりガラスの扉がリビングだ」
「うわ……!」
月島がリビングのドアを開けた瞬間、大きな水槽とその中を泳ぐ鮮やかな熱帯魚たちが目に飛び込んできた。俺が両手を伸ばしても端から端までは届かないほどの水槽が、リビングの一角を占めている様は圧巻だ。
改めて室内を見渡してみれば、その他にも小さめの水槽が数個置かれており、さながら水族館の様相を呈していた。
「どうだ、ちょっとした物だろう」
「一般家庭に置いておくレベルではないな……」
「驚いたか?」
「もちろん。むしろ驚かない人間の方が少ないだろ」
真っ直ぐと吸い寄せられるようにして水槽を覗き込む。
赤、青、黄色、鮮やかな色彩を翻し水草を揺らしながら泳ぐ魚の群れは、いつまで眺めていても飽きそうになかった。
その後ろで月島が腕を組んで考え込んでいる姿が、薄っすらとガラスに映りこんでいる。
「うむ。実はあまり、人を家に上げたことがなくてね。思いつくのはカズくらいだが、彼は小さい頃から見慣れているからな」
「……そうか」
予想外の言葉に面映くなって頬を掻く。
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