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Ⅱ
クロードとエリエ Ⅱ
「ごほ、ごほ……」
「大丈夫ですか? すぐ薬を取り寄せるのでもう少しの辛抱ですわ」
そのころ、クロードは時々発症する咳に苦しんでいた。最初はそれほどでもなかったが、セシリアと別れて時間が経っていくにつれ、だんだん咳が出る頻度は上がっていき、さらにその時の苦しみ方も酷くなっていった。
今日もせっかくエリエの部屋に遊びに来たクロードだったが、突然せき込んでしまい、今は憔悴した表情で彼女の部屋のソファに横たわっていた。
彼は献身的に看病してくれるエリエに弱々しい声で言う。
「済まないな、こんな姿を見せてしまって」
「いいえ、婚約者ぐらいですからそれぐらい当然です」
「だがこれは一度医者に診てもらった方が……」
「それはいけませんわ」
クロードが言うとエリエがぴしゃりと拒否する。クロードも何度か家の医者に診てもらおうと思ったが、エリエが頑なに拒否するのでまだそれをしないでいた。
「カンタール伯爵家のクロードともあろう方が医者にかかったなどということが知れ渡れば、病弱ではないかと侮られますわ」
「そこまで気を遣ってくれてありがとう」
とは言うものの、エリエの真意はそこではなかった。エリエの前にクロードと婚約していたセシリアは彼の病気を薬で渡すだけで治していた。
それなのに彼が医者にかかれば、自分はセシリアよりも役に立たないと認めるようなものである。クロードのためを思うのであれば医者に診せた方がいいのだろうが、エリエは自身のエゴを優先していた。
「お嬢様、薬を買ってきました!」
「でかしたわ」
そこへどたどたという足音とともにエリエの実家であるグランド侯爵家のメイドが大量の包みを持って走ってくる。
病名がよく分からないエリエは咳と咳に関連する病気に効く薬を全部買って来させた。これでクロードが治れば何の問題もない。
すぐにエリエはクロードの前にたくさんの薬を並べる。
「さあ、全部飲んで」
「本当に? ごほっ」
そんなことをして大丈夫なのか、とクロードは疑問に思ったものの、いつもなら自然に落ち着いてくるはずの咳が今日はどんどん苦しくなっていく。仕方なく彼は片っ端から薬を口に入れて水で流し込んでいった。
「うぅ……苦い。だが全部飲んだぞ」
「これできっと大丈夫ですわ」
それを見てエリエは安堵する。確かにクロードも何となく体調がよくなったような気がした。
「ありがとう、さあ、ティータイムの続きをしよう」
「良かったですわ」
そう言って二人は再びティーセットとお菓子を囲む。
が、クロードがケーキを一口食べた時だった。不意に胃がきゅるきゅるとよじれるような痛みを覚える。
「痛っ」
「ど、どうしたのですか!?」
「急にお腹が痛いんだ!」
クロードは何が起こったのかよく分からなかったが、いきなり大量の薬を同時に服用したため、一時的に症状は落ち着いたものの、胃に負担がある薬が複数含まれていたため、今度は急激な腹痛に襲われたのだ。
すぐにクロードは目にも留まらぬ速さでトイレに駆け込んだのだった。
一時間ほどしてげっそりした表情のクロードが戻ってくる。
彼にとっては咳だけの病気が咳と腹痛の症状に悪化したように思えた。
「治ったと思ったらもしかしたら悪化してしまったのか?」
「今日はもう帰って休んだ方がいいと思いますわ」
「済まないね、迷惑をかけて」
「大丈夫ですわ、もう咳は治った以上、これからは思う存分愛し合うことが出来ますもの。これはお持ちください」
そう言ってエリエはメイドに買いにいかせた大量の薬をクロードに手渡す。
「ありがとう、これできっと大丈夫だ」
薬を受け取ったクロードは自分の屋敷に戻る。とはいえ、彼の症状が落ち着いていたのは中に入っていた咳止めで一時的に咳が止まったからというだけであった。
「げほっ、ごほっ!」
その夜一人になったクロードは咳止めの効果が切れたため、再び咳に襲われる。
「くそ、何なんだこれは!」
苛立ったクロードはもらった薬の袋を開くが、全部一気に飲んだせいでどれが効いたのかも分からない。仕方なく、クロードは再び全部の薬を服用するが、当然再び腹痛を覚えた。
「くそ、やはりこれは咳と腹痛の病気なのか? ……こうなったらエリエに見つからないように医者にでもかかるか。でも、有名な医者を呼ぶと彼女の耳に入ってしまうかもしれないな」
彼はトイレで首を捻る。
すると、外の廊下から使用人たちが噂話をしているのが聞こえてくる。
「そう言えばセシルっていう薬屋が隣国のエドモンド王子の使用人を治して褒美をもらったんだって」
「それはすごいな。一介の薬屋が直々に褒美をもらうとは」
「何でも、わざわざ屋敷に赴いて医師の診察の誤りを指摘したらしい」
「それはすごいな」
そんな会話をしながら使用人たちは去っていく。
それを聞いたクロードは思った。一介の薬屋に会うぐらいならエリエにばれることもないだろう、と。
「大丈夫ですか? すぐ薬を取り寄せるのでもう少しの辛抱ですわ」
そのころ、クロードは時々発症する咳に苦しんでいた。最初はそれほどでもなかったが、セシリアと別れて時間が経っていくにつれ、だんだん咳が出る頻度は上がっていき、さらにその時の苦しみ方も酷くなっていった。
今日もせっかくエリエの部屋に遊びに来たクロードだったが、突然せき込んでしまい、今は憔悴した表情で彼女の部屋のソファに横たわっていた。
彼は献身的に看病してくれるエリエに弱々しい声で言う。
「済まないな、こんな姿を見せてしまって」
「いいえ、婚約者ぐらいですからそれぐらい当然です」
「だがこれは一度医者に診てもらった方が……」
「それはいけませんわ」
クロードが言うとエリエがぴしゃりと拒否する。クロードも何度か家の医者に診てもらおうと思ったが、エリエが頑なに拒否するのでまだそれをしないでいた。
「カンタール伯爵家のクロードともあろう方が医者にかかったなどということが知れ渡れば、病弱ではないかと侮られますわ」
「そこまで気を遣ってくれてありがとう」
とは言うものの、エリエの真意はそこではなかった。エリエの前にクロードと婚約していたセシリアは彼の病気を薬で渡すだけで治していた。
それなのに彼が医者にかかれば、自分はセシリアよりも役に立たないと認めるようなものである。クロードのためを思うのであれば医者に診せた方がいいのだろうが、エリエは自身のエゴを優先していた。
「お嬢様、薬を買ってきました!」
「でかしたわ」
そこへどたどたという足音とともにエリエの実家であるグランド侯爵家のメイドが大量の包みを持って走ってくる。
病名がよく分からないエリエは咳と咳に関連する病気に効く薬を全部買って来させた。これでクロードが治れば何の問題もない。
すぐにエリエはクロードの前にたくさんの薬を並べる。
「さあ、全部飲んで」
「本当に? ごほっ」
そんなことをして大丈夫なのか、とクロードは疑問に思ったものの、いつもなら自然に落ち着いてくるはずの咳が今日はどんどん苦しくなっていく。仕方なく彼は片っ端から薬を口に入れて水で流し込んでいった。
「うぅ……苦い。だが全部飲んだぞ」
「これできっと大丈夫ですわ」
それを見てエリエは安堵する。確かにクロードも何となく体調がよくなったような気がした。
「ありがとう、さあ、ティータイムの続きをしよう」
「良かったですわ」
そう言って二人は再びティーセットとお菓子を囲む。
が、クロードがケーキを一口食べた時だった。不意に胃がきゅるきゅるとよじれるような痛みを覚える。
「痛っ」
「ど、どうしたのですか!?」
「急にお腹が痛いんだ!」
クロードは何が起こったのかよく分からなかったが、いきなり大量の薬を同時に服用したため、一時的に症状は落ち着いたものの、胃に負担がある薬が複数含まれていたため、今度は急激な腹痛に襲われたのだ。
すぐにクロードは目にも留まらぬ速さでトイレに駆け込んだのだった。
一時間ほどしてげっそりした表情のクロードが戻ってくる。
彼にとっては咳だけの病気が咳と腹痛の症状に悪化したように思えた。
「治ったと思ったらもしかしたら悪化してしまったのか?」
「今日はもう帰って休んだ方がいいと思いますわ」
「済まないね、迷惑をかけて」
「大丈夫ですわ、もう咳は治った以上、これからは思う存分愛し合うことが出来ますもの。これはお持ちください」
そう言ってエリエはメイドに買いにいかせた大量の薬をクロードに手渡す。
「ありがとう、これできっと大丈夫だ」
薬を受け取ったクロードは自分の屋敷に戻る。とはいえ、彼の症状が落ち着いていたのは中に入っていた咳止めで一時的に咳が止まったからというだけであった。
「げほっ、ごほっ!」
その夜一人になったクロードは咳止めの効果が切れたため、再び咳に襲われる。
「くそ、何なんだこれは!」
苛立ったクロードはもらった薬の袋を開くが、全部一気に飲んだせいでどれが効いたのかも分からない。仕方なく、クロードは再び全部の薬を服用するが、当然再び腹痛を覚えた。
「くそ、やはりこれは咳と腹痛の病気なのか? ……こうなったらエリエに見つからないように医者にでもかかるか。でも、有名な医者を呼ぶと彼女の耳に入ってしまうかもしれないな」
彼はトイレで首を捻る。
すると、外の廊下から使用人たちが噂話をしているのが聞こえてくる。
「そう言えばセシルっていう薬屋が隣国のエドモンド王子の使用人を治して褒美をもらったんだって」
「それはすごいな。一介の薬屋が直々に褒美をもらうとは」
「何でも、わざわざ屋敷に赴いて医師の診察の誤りを指摘したらしい」
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