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Ⅲ
紅熱病
殿下が店にいらして繁盛してから二日目の夜。
風邪薬や頭痛薬などの基本的な薬はまだ残っており、そちらの補充は短い時間で済ませられる。最悪なくなりそうであればサリーに店番を任せて営業中に補充することは出来なくもありません。
そのため私はお客さんに頼まれた薬の調合を始めることにします。とはいえ、ありがたいことに店が繁盛しているため、注文の数も三つもありました。
一人目は初老の裕福そうな商人で、慢性の喘息の症状を和らげる薬。今までは別の薬屋で買っていたが、うちが評判だったのでうちの薬も使ってみて今後どうするかを考えたいらしいです。
二人目は若い母親。息子の下痢が止まらないとのことです。
三人目は貧しい身なりをした若い男。兵役から帰ってくるなり父親が南方で激しい発熱、吐き気、頭痛に襲われて途中で任務を外れて搬送されてきたとのことでした。どうも紅熱病にかかっていると伝えると、薬が欲しいとのことでした。ただし代金を提示するとすぐには都合がつかないと言っていました。
この三人のどの薬を作るか、それとも店頭の薬の補充を諦めて依頼をもらった分を先に作るか。決断を迫られた私ですが、店頭の薬の最低限の調合を済ませると、最初に取り掛かったのは紅熱病の薬に決めます。
普通の商人であれば代金が払えるかどうかも分からない男よりも裕福そうなお客さんの依頼を優先するかもしれません。
しかし紅熱病は放っておけば周囲に感染する可能性があります。それに二人目の母親の息子の症状の詳細は不明ですが、一刻の猶予もないという雰囲気ではありませんdせいた。三人目が一番命の危険に瀕しています。
紅熱病の薬は南方に棲息しているホウセンという花の葉に、同じく南方に暮らすサルの糞を使って作ることが出来ます。南方で暮らす動物は大なり小なり体内に紅熱病への耐性を持っているが、サルが一番人への抵抗が少ないかららしいです。恐らく動物の中で一番人間に近いからでしょう。
幸いどちらの材料も王都で仕入れることが出来ました。おそらく王都を探せば薬自体を売っている店もあるだろうが、彼には手が出なかったのでしょう。珍しい薬は作れる人が限られている上にたくさん作っておくことが出来ないため、どうしても高価になりがちです。
私はホウセンの葉を刻んで粉にし、そこにサルの糞を混ぜる。一人分であれば大した量はいらないですが、感染力が高いので周囲に感染してしまった場合に備えて多めに調合しておきます。
この薬を調合するのは初めてだったので、家から持ち出した本を読みながらの作業になって時間がかかり、夜が白みかけてきます。
「ああ、やっぱり依頼分は一日一人が限界そうですね」
そこへドアがノックされ、今日も朝早くからサリーがやってきます。
彼女も少し疲れて見えましたが、目に隈を作っている私を見て驚きました。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん……でも紅熱病の薬だけは速く作っておかないとって思ってしまって。もしかしたら一日の差で症状が変わってしまうかもしれません。ああ、それだと届けに行かないと」
「分かりました。それでしたら私が店番をしておきますので行ってきてください」
「ありがとうございます」
私はサリーに頭を下げると紅熱病の薬を持って昨日の男の家に向かいます。もちろん彼が来てくれるのを待った方が効率はいいのですが、その数時間で症状が変わるかもと思うといても立ってもいられなくなるのです。
私は彼から住所を聞いていた王都の一角に立つ民家に向かいます。
ベルを鳴らすと、朝早いこともあって怪訝な顔をした男が出てきます。そして私の顔を見て驚きました。
「あれ、昨日の薬屋さん!?」
「はい、急ぎの薬なので届けに来ました!」
「わざわざうちまですみません、昼頃に行こうと思っていましたのでありがたいです」
布団や家具の具合を見るに、確かに家計の具合は辛そうです。家には他に十代ぐらいの女子が一人と、幼い少女がいます。
家に上がると、狭い家の中に苦しそうな表情の男が寝かされています。悪寒がする中、手足が小刻みに震えて苦悶の声を上げています。
彼は私を見ると何か言おうとしますが、言葉にならずに激しくせき込みます。そして隣にあったタライに嘔吐します。その血とは少し違った赤色に染まった胃液を見て私はやはりそれが紅熱病のものだと確信します。
すでに大分やつれており、吐く物もあまり残っていないようでした。もう少し遅ければ薬を飲んで病気を治しても衰弱による死が迫っていいたかもしれません。
それを見て私は早めに来て良かったと思います。
「大丈夫ですか、この薬は飲めます?」
「あ、ああ!」
彼は最後に残った気力で私の薬をひったくるようにして口に入れ、近くにあった水で流し込みました。するとようやく彼の顔色が良くなります。数時間経てばもっとはっきりと効果が出るでしょう。
それを見て私はようやくほっと一息つきました。
「良かったです……」
そう思った瞬間私の全身から力が抜けていきました。
そう言えば昨夜は寝てなかった、と思うと気が付くと私は意識を失うのでした。
風邪薬や頭痛薬などの基本的な薬はまだ残っており、そちらの補充は短い時間で済ませられる。最悪なくなりそうであればサリーに店番を任せて営業中に補充することは出来なくもありません。
そのため私はお客さんに頼まれた薬の調合を始めることにします。とはいえ、ありがたいことに店が繁盛しているため、注文の数も三つもありました。
一人目は初老の裕福そうな商人で、慢性の喘息の症状を和らげる薬。今までは別の薬屋で買っていたが、うちが評判だったのでうちの薬も使ってみて今後どうするかを考えたいらしいです。
二人目は若い母親。息子の下痢が止まらないとのことです。
三人目は貧しい身なりをした若い男。兵役から帰ってくるなり父親が南方で激しい発熱、吐き気、頭痛に襲われて途中で任務を外れて搬送されてきたとのことでした。どうも紅熱病にかかっていると伝えると、薬が欲しいとのことでした。ただし代金を提示するとすぐには都合がつかないと言っていました。
この三人のどの薬を作るか、それとも店頭の薬の補充を諦めて依頼をもらった分を先に作るか。決断を迫られた私ですが、店頭の薬の最低限の調合を済ませると、最初に取り掛かったのは紅熱病の薬に決めます。
普通の商人であれば代金が払えるかどうかも分からない男よりも裕福そうなお客さんの依頼を優先するかもしれません。
しかし紅熱病は放っておけば周囲に感染する可能性があります。それに二人目の母親の息子の症状の詳細は不明ですが、一刻の猶予もないという雰囲気ではありませんdせいた。三人目が一番命の危険に瀕しています。
紅熱病の薬は南方に棲息しているホウセンという花の葉に、同じく南方に暮らすサルの糞を使って作ることが出来ます。南方で暮らす動物は大なり小なり体内に紅熱病への耐性を持っているが、サルが一番人への抵抗が少ないかららしいです。恐らく動物の中で一番人間に近いからでしょう。
幸いどちらの材料も王都で仕入れることが出来ました。おそらく王都を探せば薬自体を売っている店もあるだろうが、彼には手が出なかったのでしょう。珍しい薬は作れる人が限られている上にたくさん作っておくことが出来ないため、どうしても高価になりがちです。
私はホウセンの葉を刻んで粉にし、そこにサルの糞を混ぜる。一人分であれば大した量はいらないですが、感染力が高いので周囲に感染してしまった場合に備えて多めに調合しておきます。
この薬を調合するのは初めてだったので、家から持ち出した本を読みながらの作業になって時間がかかり、夜が白みかけてきます。
「ああ、やっぱり依頼分は一日一人が限界そうですね」
そこへドアがノックされ、今日も朝早くからサリーがやってきます。
彼女も少し疲れて見えましたが、目に隈を作っている私を見て驚きました。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん……でも紅熱病の薬だけは速く作っておかないとって思ってしまって。もしかしたら一日の差で症状が変わってしまうかもしれません。ああ、それだと届けに行かないと」
「分かりました。それでしたら私が店番をしておきますので行ってきてください」
「ありがとうございます」
私はサリーに頭を下げると紅熱病の薬を持って昨日の男の家に向かいます。もちろん彼が来てくれるのを待った方が効率はいいのですが、その数時間で症状が変わるかもと思うといても立ってもいられなくなるのです。
私は彼から住所を聞いていた王都の一角に立つ民家に向かいます。
ベルを鳴らすと、朝早いこともあって怪訝な顔をした男が出てきます。そして私の顔を見て驚きました。
「あれ、昨日の薬屋さん!?」
「はい、急ぎの薬なので届けに来ました!」
「わざわざうちまですみません、昼頃に行こうと思っていましたのでありがたいです」
布団や家具の具合を見るに、確かに家計の具合は辛そうです。家には他に十代ぐらいの女子が一人と、幼い少女がいます。
家に上がると、狭い家の中に苦しそうな表情の男が寝かされています。悪寒がする中、手足が小刻みに震えて苦悶の声を上げています。
彼は私を見ると何か言おうとしますが、言葉にならずに激しくせき込みます。そして隣にあったタライに嘔吐します。その血とは少し違った赤色に染まった胃液を見て私はやはりそれが紅熱病のものだと確信します。
すでに大分やつれており、吐く物もあまり残っていないようでした。もう少し遅ければ薬を飲んで病気を治しても衰弱による死が迫っていいたかもしれません。
それを見て私は早めに来て良かったと思います。
「大丈夫ですか、この薬は飲めます?」
「あ、ああ!」
彼は最後に残った気力で私の薬をひったくるようにして口に入れ、近くにあった水で流し込みました。するとようやく彼の顔色が良くなります。数時間経てばもっとはっきりと効果が出るでしょう。
それを見て私はようやくほっと一息つきました。
「良かったです……」
そう思った瞬間私の全身から力が抜けていきました。
そう言えば昨夜は寝てなかった、と思うと気が付くと私は意識を失うのでした。
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