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Ⅲ
調合
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こうして無事材料を手に入れた私はお店に帰ります。
戻ってくると、サリーが不安そうに尋ねます。
「あの、何人かに紅熱病の薬がないか尋ねられましたが、とりあえず今はないと答えておきましたがよろしいでしょうか?」
「はい、構わないです。これから作る分は殿下からいただいたお金で材料を買っているので、殿下にお渡ししなければなりませんので」
「そうですか。でもこんなことになっていたのによく材料が手に入りましたね?」
「たまたまあまり良くなさそうなお店を教えてもらえて、それでどうにか。それでこれから私は調合にかかりきりになるので、店番を全てお任せしてよろしいですか? 本当に大変な時だけ呼んでもらえれば行きますので」
「分かりました。そうなるんじゃないかと思ってましたので」
そう言ってサリーは苦笑します。
紅熱病が流行しているとはいえ、普通のお客さんの入り自体は変わっておらず、お店は忙しい時間帯と注文のお客様以外はサリー一人で問題なさそうでした。
私は買ってきた材料を持つと、私が勝手に「調合室」と名付けた元々キッチンだった部屋へ入ります。
「あの、頼まれていたお仕事が終わりました」
そこへお使いを終えたエレンがタイミングよく戻ってきます。
「エレンは包丁は使えるよね?」
「はい、もちろん使えますが」
「じゃあこの花の葉っぱを細かく刻んで欲しい」
そう言って私はホウセンを渡します。刻むだけなら彼女に任せてもいいでしょう。私も別に包丁捌きが特別上手い訳でもありませんし。
「分かりました」
そう言って彼女は葉を刻み始めます。
「これくらいでよろしいでしょうか?」
「いえ、もっと細かく、どちらかというと粉に近いぐらいまで刻んでください」
「分かりました」
エレンは器用に包丁を操って葉っぱを粉々にしていきます。
それを横目で見ながら私は以前調合していた時に余っていたサルの糞を取り出し、分量を量ってすり鉢に入れ、次々と混ぜていきます。そしてそこに味を調えるための砂糖を少し、体を休めるため催眠作用のある粉末も少し入れています。
紅熱病にかかると頭痛や吐き気で深い眠りが阻害されるのですが、そうなると余計に体力が回復しづらくなってしまうためです。
もっとも、あまり余計なものを入れすぎると元の薬の効力が落ちるので塩梅は難しいですが。
そして混ぜる時はあまり力を入れすぎるとだめになってしまったり、かといってあまり混ざらないとそれはそれで効きづらくなったりと加減が難しいです。
こうして以前は結構時間がかかってしまった紅熱病治療薬が次々と出来ていくのでした。
また、調合を行いながら、薬の注文に来るお客さんに時々対応するのですが、よほどの急病でない限り紅熱病騒ぎがひと段落するまでは対応は後回しになってしまう旨を伝えるのが心苦しかったです。
そんなことをしているうちにあっという間に日が暮れてしまいます。
サリーと違って正式な店員というよりはお手伝いであるエレンは帰っていきます。
「すみません、店番一人で任せてしまって」
一応売上を確認するために私はお店に出ます。
「セシルさんもずっと仕事をし続けていたようでご苦労様です」
「でも、まだ全然です。ここからが本番ですから」
すでに結構な量を作りましたが、まだまだ材料は残っています。
私の言葉を聞いてサリーは驚きました。
「本当ですか!? あの、でしたら私も手伝いましょうか?」
「ありがとうございます」
こうして私はサリーとともにお店が締まった後も調合を続けたのでした。
戻ってくると、サリーが不安そうに尋ねます。
「あの、何人かに紅熱病の薬がないか尋ねられましたが、とりあえず今はないと答えておきましたがよろしいでしょうか?」
「はい、構わないです。これから作る分は殿下からいただいたお金で材料を買っているので、殿下にお渡ししなければなりませんので」
「そうですか。でもこんなことになっていたのによく材料が手に入りましたね?」
「たまたまあまり良くなさそうなお店を教えてもらえて、それでどうにか。それでこれから私は調合にかかりきりになるので、店番を全てお任せしてよろしいですか? 本当に大変な時だけ呼んでもらえれば行きますので」
「分かりました。そうなるんじゃないかと思ってましたので」
そう言ってサリーは苦笑します。
紅熱病が流行しているとはいえ、普通のお客さんの入り自体は変わっておらず、お店は忙しい時間帯と注文のお客様以外はサリー一人で問題なさそうでした。
私は買ってきた材料を持つと、私が勝手に「調合室」と名付けた元々キッチンだった部屋へ入ります。
「あの、頼まれていたお仕事が終わりました」
そこへお使いを終えたエレンがタイミングよく戻ってきます。
「エレンは包丁は使えるよね?」
「はい、もちろん使えますが」
「じゃあこの花の葉っぱを細かく刻んで欲しい」
そう言って私はホウセンを渡します。刻むだけなら彼女に任せてもいいでしょう。私も別に包丁捌きが特別上手い訳でもありませんし。
「分かりました」
そう言って彼女は葉を刻み始めます。
「これくらいでよろしいでしょうか?」
「いえ、もっと細かく、どちらかというと粉に近いぐらいまで刻んでください」
「分かりました」
エレンは器用に包丁を操って葉っぱを粉々にしていきます。
それを横目で見ながら私は以前調合していた時に余っていたサルの糞を取り出し、分量を量ってすり鉢に入れ、次々と混ぜていきます。そしてそこに味を調えるための砂糖を少し、体を休めるため催眠作用のある粉末も少し入れています。
紅熱病にかかると頭痛や吐き気で深い眠りが阻害されるのですが、そうなると余計に体力が回復しづらくなってしまうためです。
もっとも、あまり余計なものを入れすぎると元の薬の効力が落ちるので塩梅は難しいですが。
そして混ぜる時はあまり力を入れすぎるとだめになってしまったり、かといってあまり混ざらないとそれはそれで効きづらくなったりと加減が難しいです。
こうして以前は結構時間がかかってしまった紅熱病治療薬が次々と出来ていくのでした。
また、調合を行いながら、薬の注文に来るお客さんに時々対応するのですが、よほどの急病でない限り紅熱病騒ぎがひと段落するまでは対応は後回しになってしまう旨を伝えるのが心苦しかったです。
そんなことをしているうちにあっという間に日が暮れてしまいます。
サリーと違って正式な店員というよりはお手伝いであるエレンは帰っていきます。
「すみません、店番一人で任せてしまって」
一応売上を確認するために私はお店に出ます。
「セシルさんもずっと仕事をし続けていたようでご苦労様です」
「でも、まだ全然です。ここからが本番ですから」
すでに結構な量を作りましたが、まだまだ材料は残っています。
私の言葉を聞いてサリーは驚きました。
「本当ですか!? あの、でしたら私も手伝いましょうか?」
「ありがとうございます」
こうして私はサリーとともにお店が締まった後も調合を続けたのでした。
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