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エトワール公爵家後日譚
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「ぐすん、ぐすん」
「どうしたの、マリー」
ある日、家に帰って来たマリーが涙を流しているのを見て義母のオードリーはすぐさま駆け寄った。こんな天使のような誰からも愛される娘が泣いているなんて一体何があったのだろうか。
確か今日は他の貴族家のご令嬢たちとお茶会に行ったはずだが、そこで何かあったのだろうか。もしかしたらマリーの可愛さに嫉妬した誰かに虐められたのかもしれない。
「それが、私がお茶会に出たら皆が私の悪口を言うの」
「そんな、酷いわ! 一体どこのどいつ!?」
実際のところ姉の婚約者を寝取ろうとしたことがばれたのに、堂々と他家のお茶会に出向いているマリーの神経が異常なだけなのだが、マリーは未だに自分はオリバーに騙された、という謎の被害者意識を持ち続けていた。
言われていた悪口もほぼ事実に基づくものであったが、マリーにとってはそんなことは関係なかった。
「……家の……と、……家の……、あと……家の……」
マリーは自分の悪口を言った令嬢たちの名前を挙げる。
それを聞いたオードリーは決意した。自分の愛娘を泣かせた意地悪な女たちを絶対に許さない。娘を守るためにも彼女らにがつんと言ってやる、と。
翌日、オードリーはマリーが名前を挙げた家に単身乗り込んだ。
エトワール家のオードリーである、と名乗ると執事は若干嫌そうな顔をしたがすぐに取り次いでくれた。その家は伯爵家だったため、どれだけ評判が悪くても公爵家が相手だと会わずに追い返す訳にはいかない。
やがてその家の当主である伯爵が出てくる。その彼に向かってオードリーは早速啖呵を切った。
「昨日お茶会でおたくの娘がうちの娘の陰口を言ったらしいの。一体どういう教育をしているのかしら」
それを聞いた伯爵は耳を疑った。言っては何だが、貴族令嬢同士が集まれば陰口が発生するのは日常茶飯事である。本人が文句を言うならともかく、親が出てくるとは一体どういう了見だろうか。しかも相手は悪口よりももっと酷い、姉の婚約者を寝取ろうとした人物である。
それを聞いた伯爵は吹っ切れた。もし公爵夫人に盾つけば今後は報復を受けることがあるかもしれないが、だからといってここまで理不尽な言いがかりに屈することは出来ない。彼はそう思って腹をくくる。
「それを言うならあなたのお嬢様は姉の婚約者と不倫していたと聞きましたが。他人の家の教育をどうこう言う資格があるのでしょうか」
「何ですって!? あの娘はあいつに騙されていただけなのに何てことを言うの!?」
それを聞いてオードリーは激昂した。
「騙されていた? 何をどう騙されれば他人の婚約相手と浮気するのでしょうか。もしかして『姉とは別れてあなたを選ぶよ』というようなことをささやかれたというのでしょうか? もしそうだとすれば余計に問題だと思いますけどね」
「何を言っているの? オリバーは純情なマリーを言葉巧みにたぶらかしたのよ! マリーは……そう、彼に洗脳されただけなの!」
もはやその場の思い付きでしゃべっているためオードリーの話は支離滅裂であった。
「話を聞く限り大分前から密通していたらしいですが、もしそんなに長く洗脳されていたのであればそれを気づかない両親の目が節穴だったのでしょうね」
「何を言うの!? そ、それほどオリバーの洗脳は巧みだったのよ!」
「あなたには何を言っても無駄なようだ。一度娘ともども頭を冷やしてはいかがでしょうか」
「くっ、この私にそんな暴言を吐いて許されると思っているの!? 覚えてなさい!」
そう言ってオードリーは席を立つ。
そして驚くべきことに次の家に向かった。そしてほぼ似たようなことを言って追い返される、というやりとりをあと二回繰り返したのである。
全ての家で門前払いを受けたオードリーは怒りが収まらなかった。
「全く、どいつもこいつもありえないわ! よってたかって私のマリーを責め立てて!」
帰ってくるなりオードリーは夫ウルスの部屋に乗り込んで不満をぶつける。
しかしすでに彼は何もかもが嫌になっていたのでオードリーの愚痴を適当に聞き流す。
「何とか言ったらどうなの、ねえ!? あなたの力でやつらの家を取り潰してよ!」
「わしはそんなことは知らない。お前たちのせいで我が家の評判はもう滅茶苦茶だ。この上は好きにしてくれ」
「何て冷たいの!? あなたには人の血が流れていないの!?」
その後もオードリーは何度もウルスを怒鳴りつけたが、ウルスは無気力なままだった。
「どうしたの、マリー」
ある日、家に帰って来たマリーが涙を流しているのを見て義母のオードリーはすぐさま駆け寄った。こんな天使のような誰からも愛される娘が泣いているなんて一体何があったのだろうか。
確か今日は他の貴族家のご令嬢たちとお茶会に行ったはずだが、そこで何かあったのだろうか。もしかしたらマリーの可愛さに嫉妬した誰かに虐められたのかもしれない。
「それが、私がお茶会に出たら皆が私の悪口を言うの」
「そんな、酷いわ! 一体どこのどいつ!?」
実際のところ姉の婚約者を寝取ろうとしたことがばれたのに、堂々と他家のお茶会に出向いているマリーの神経が異常なだけなのだが、マリーは未だに自分はオリバーに騙された、という謎の被害者意識を持ち続けていた。
言われていた悪口もほぼ事実に基づくものであったが、マリーにとってはそんなことは関係なかった。
「……家の……と、……家の……、あと……家の……」
マリーは自分の悪口を言った令嬢たちの名前を挙げる。
それを聞いたオードリーは決意した。自分の愛娘を泣かせた意地悪な女たちを絶対に許さない。娘を守るためにも彼女らにがつんと言ってやる、と。
翌日、オードリーはマリーが名前を挙げた家に単身乗り込んだ。
エトワール家のオードリーである、と名乗ると執事は若干嫌そうな顔をしたがすぐに取り次いでくれた。その家は伯爵家だったため、どれだけ評判が悪くても公爵家が相手だと会わずに追い返す訳にはいかない。
やがてその家の当主である伯爵が出てくる。その彼に向かってオードリーは早速啖呵を切った。
「昨日お茶会でおたくの娘がうちの娘の陰口を言ったらしいの。一体どういう教育をしているのかしら」
それを聞いた伯爵は耳を疑った。言っては何だが、貴族令嬢同士が集まれば陰口が発生するのは日常茶飯事である。本人が文句を言うならともかく、親が出てくるとは一体どういう了見だろうか。しかも相手は悪口よりももっと酷い、姉の婚約者を寝取ろうとした人物である。
それを聞いた伯爵は吹っ切れた。もし公爵夫人に盾つけば今後は報復を受けることがあるかもしれないが、だからといってここまで理不尽な言いがかりに屈することは出来ない。彼はそう思って腹をくくる。
「それを言うならあなたのお嬢様は姉の婚約者と不倫していたと聞きましたが。他人の家の教育をどうこう言う資格があるのでしょうか」
「何ですって!? あの娘はあいつに騙されていただけなのに何てことを言うの!?」
それを聞いてオードリーは激昂した。
「騙されていた? 何をどう騙されれば他人の婚約相手と浮気するのでしょうか。もしかして『姉とは別れてあなたを選ぶよ』というようなことをささやかれたというのでしょうか? もしそうだとすれば余計に問題だと思いますけどね」
「何を言っているの? オリバーは純情なマリーを言葉巧みにたぶらかしたのよ! マリーは……そう、彼に洗脳されただけなの!」
もはやその場の思い付きでしゃべっているためオードリーの話は支離滅裂であった。
「話を聞く限り大分前から密通していたらしいですが、もしそんなに長く洗脳されていたのであればそれを気づかない両親の目が節穴だったのでしょうね」
「何を言うの!? そ、それほどオリバーの洗脳は巧みだったのよ!」
「あなたには何を言っても無駄なようだ。一度娘ともども頭を冷やしてはいかがでしょうか」
「くっ、この私にそんな暴言を吐いて許されると思っているの!? 覚えてなさい!」
そう言ってオードリーは席を立つ。
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「わしはそんなことは知らない。お前たちのせいで我が家の評判はもう滅茶苦茶だ。この上は好きにしてくれ」
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