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婚約発表
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あの騒動から一か月ほどして、ルイード殿下は正式に別家を立ち上げて独立した。この国では王子が家を興す場合、「準王家」という扱いになり、継承権を失う代わりにいくばくかの領地を得ることが出来る。昔後継争いで泥沼の内戦が勃発したとき、第二位以下の王子を穏便に王位継承争いから外すために作られた決まりらしい。
ルイード殿下は王家の直轄領から王都付近の一部の土地をもらって独立した。そしてそれまでは王宮の隅に暮らしていたのを、王都の隅の方に小さいながらも綺麗な屋敷を立ててそちらに移り住んだ。
そして今日はいよいよそのお披露目である。例の騒動からの電撃独立でルイード殿下には世間の注目が集まっていた。そのため、その殿下が新築した屋敷でパーティーを開催すると発表すると、王都にいる有力貴族は続々と集結した。
そのため殿下が立てた小ぢんまりとした屋敷の広間はすぐに人でいっぱいになってしまった。彼らは皆最近噂の人であるルイードが王国の未来を担う若者なのかただの異端児なのかを見定めようとしていた。
「これは困ったな。これまでこんなことはなかったのに、王族の地位を捨てた瞬間にこんなに人が集まるなんて皮肉なものだな」
隣室からそんな広間の様子を見ながら殿下はそう言って苦笑する。
「そうですね。私もこれまでこんなにたくさんの人が集まるパーティーに出たことはなかったかもしれません」
一方の私ももうあの時のような見すぼらしい姿ではない。ルイード殿下が呼んでくれた服飾屋さんと一緒にきれいなドレスを選んだ。
昔の私を知る人が今の私を見ても別人と思うかもしれない。
「では僕はそろそろ行く。エレナは僕が呼んだら入ってきてくれ」
「分かりました」
そう言ってルイードは颯爽と広間へ入っていく。
すると自然と人が割れて通路が出来、彼は広間の前に立った。これまで互いに雑談していた参列客たちの視線が一斉に彼に集まる。
「お待たせしました。本日はお忙しい中ルイードのお招きに応じていただきまことにありがとうございます。ではまず僕がなぜ独立することを選んだかについて、そして今後の目標について話していこうと思います。まず独立する理由ですが、王家には立派な兄上がおり、最近は活躍が聞こえてくることも増えてきました。そうなった以上、不肖の弟である僕がこれ以上王家にいる必要はないと悟ったからです。では独立した後何をやっていきたいか」
そこで殿下は言葉をきって反応を伺う。
聴衆はこれまで表にあまり出てこなかったルイードの堂々とした話しぶりに驚いたようである。とはいえここまでは事前に草稿を作っておけば誰でも出来るような演説だ。
「我らがカルリム王国の支配は数百年に渡って続いていますが、時が経っていくにつれて変わらなければならないこともあるでしょう。そのため僕はこれまでの貴族だけでなく、生まれに関わらず能力有る者を登用してその力を王国のために生かしていきたいと思うのです」
殿下の言葉に広間はざわめく。それもそのはず来客はほとんど古くからの貴族ばかりだ。
この男が力を手に入れれば自分たちの権力にメスを入れられるのではないか、と彼らは恐れた。
「とはいえ皆さんをないがしろにしようと言う訳ではありません。まず僕は王家から独立したばかりでほとんど家臣がおりません。そこでまず僕の家で、能力ある者を登用する仕組みを作っていき、それを他の家にも広めていこうと思っています」
それを聞いて貴族たちはひとまずほっとする。殿下の家の中でなら誰が登用されようが関係ないからだ。そしてそれがうまくいくかどうかは数年、もしくは十数年経たなければ分からない。
「もちろん伝統的な貴族の皆様との関係も強化していきたいと思っています。そこで急ではありますが、独立と同時に婚約者も発表させていただきます。エレナ、こちらへ」
「はい」
名前を呼ばれた私は殿下の元へ歩いていく。
私の姿を見て貴族たちは驚いた。これまで私はオードリーたちの嫌がらせで大したドレスを着させてもらえなかったのはもちろん、家で虐められているという劣等感からどこか自信が持てなかったせいで地味に見えたのだろう。それが今は殿下が私を認めてくれているという事実があるおかげで、自信を持って堂々と歩くことが出来ている。
だから周囲もそんな私の変わりっぷりに驚いたのだろう。
「すでに噂で察していた方も多いと思いますが、こちらが僕の婚約者であるエレナ・エトワールです」
おおお、と参加者たちはどよめく。
私は殿下の口上を聞いてうまいと思った。エトワール公爵家は王国有数の貴族である。殿下が改革を始めると言えば貴族の特権を削るのではないか、と心配になる貴族たちもエトワール公爵家から婚約者を迎えると聞けば安心するのではないか。
婚約の経緯が先にあっての後付けの理由ではあるが、こう話すことで貴族の支持を得るのはうまい。
そして私は参加者たちに一礼する。
「エレナ・エトワールです。今後はルイード殿のお傍で彼のことを全力で支えていこうと思います。そのため、皆さんも是非ご助力をお願いします」
私の言葉に参加者たちから割れんばかりの拍手が起こった。
こうして私たちの船出はまずは順調に始まったのだった。
ルイード殿下は王家の直轄領から王都付近の一部の土地をもらって独立した。そしてそれまでは王宮の隅に暮らしていたのを、王都の隅の方に小さいながらも綺麗な屋敷を立ててそちらに移り住んだ。
そして今日はいよいよそのお披露目である。例の騒動からの電撃独立でルイード殿下には世間の注目が集まっていた。そのため、その殿下が新築した屋敷でパーティーを開催すると発表すると、王都にいる有力貴族は続々と集結した。
そのため殿下が立てた小ぢんまりとした屋敷の広間はすぐに人でいっぱいになってしまった。彼らは皆最近噂の人であるルイードが王国の未来を担う若者なのかただの異端児なのかを見定めようとしていた。
「これは困ったな。これまでこんなことはなかったのに、王族の地位を捨てた瞬間にこんなに人が集まるなんて皮肉なものだな」
隣室からそんな広間の様子を見ながら殿下はそう言って苦笑する。
「そうですね。私もこれまでこんなにたくさんの人が集まるパーティーに出たことはなかったかもしれません」
一方の私ももうあの時のような見すぼらしい姿ではない。ルイード殿下が呼んでくれた服飾屋さんと一緒にきれいなドレスを選んだ。
昔の私を知る人が今の私を見ても別人と思うかもしれない。
「では僕はそろそろ行く。エレナは僕が呼んだら入ってきてくれ」
「分かりました」
そう言ってルイードは颯爽と広間へ入っていく。
すると自然と人が割れて通路が出来、彼は広間の前に立った。これまで互いに雑談していた参列客たちの視線が一斉に彼に集まる。
「お待たせしました。本日はお忙しい中ルイードのお招きに応じていただきまことにありがとうございます。ではまず僕がなぜ独立することを選んだかについて、そして今後の目標について話していこうと思います。まず独立する理由ですが、王家には立派な兄上がおり、最近は活躍が聞こえてくることも増えてきました。そうなった以上、不肖の弟である僕がこれ以上王家にいる必要はないと悟ったからです。では独立した後何をやっていきたいか」
そこで殿下は言葉をきって反応を伺う。
聴衆はこれまで表にあまり出てこなかったルイードの堂々とした話しぶりに驚いたようである。とはいえここまでは事前に草稿を作っておけば誰でも出来るような演説だ。
「我らがカルリム王国の支配は数百年に渡って続いていますが、時が経っていくにつれて変わらなければならないこともあるでしょう。そのため僕はこれまでの貴族だけでなく、生まれに関わらず能力有る者を登用してその力を王国のために生かしていきたいと思うのです」
殿下の言葉に広間はざわめく。それもそのはず来客はほとんど古くからの貴族ばかりだ。
この男が力を手に入れれば自分たちの権力にメスを入れられるのではないか、と彼らは恐れた。
「とはいえ皆さんをないがしろにしようと言う訳ではありません。まず僕は王家から独立したばかりでほとんど家臣がおりません。そこでまず僕の家で、能力ある者を登用する仕組みを作っていき、それを他の家にも広めていこうと思っています」
それを聞いて貴族たちはひとまずほっとする。殿下の家の中でなら誰が登用されようが関係ないからだ。そしてそれがうまくいくかどうかは数年、もしくは十数年経たなければ分からない。
「もちろん伝統的な貴族の皆様との関係も強化していきたいと思っています。そこで急ではありますが、独立と同時に婚約者も発表させていただきます。エレナ、こちらへ」
「はい」
名前を呼ばれた私は殿下の元へ歩いていく。
私の姿を見て貴族たちは驚いた。これまで私はオードリーたちの嫌がらせで大したドレスを着させてもらえなかったのはもちろん、家で虐められているという劣等感からどこか自信が持てなかったせいで地味に見えたのだろう。それが今は殿下が私を認めてくれているという事実があるおかげで、自信を持って堂々と歩くことが出来ている。
だから周囲もそんな私の変わりっぷりに驚いたのだろう。
「すでに噂で察していた方も多いと思いますが、こちらが僕の婚約者であるエレナ・エトワールです」
おおお、と参加者たちはどよめく。
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そして私は参加者たちに一礼する。
「エレナ・エトワールです。今後はルイード殿のお傍で彼のことを全力で支えていこうと思います。そのため、皆さんも是非ご助力をお願いします」
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