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親切
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それから瞬く間に一週間が経過した。縁談に対する関心はほぼなかったが、一つ嬉しかったのはリリーが準備で忙しくなり、私に構わなくなったことだ。私もおしゃれや洋服の準備をすることも出来たのかもしれないが、面倒だった上に誰も協力してくれなさそうだったのでいつも通りの日々を送っていた。それにどうせ付け焼刃に着飾ったところでリリーには敵わず、むしろ恥を晒すだけだろう。
それにもしリリーが嫁げば、私をいじめることもなくなるだろう。ウルムート侯爵家の息子が酷いとは言っても、今より酷くなることはないだろう。私はそう思うしかなかった。
そして当日のことである。私たちは王都の屋敷で暮らしているが、たまたま近隣に屋敷がある貴族に訃報があり、私とリリーで弔問に行くことになった。
リリーはこの大事な日にと不満がっていたが、兄は領地にいるし、父母はパーティーの準備で忙しく行けるのは私たちしかいなかった。本来なら私一人でも良かったのだが、どうせ父上のことだし私一人では恥ずかしいとでも思ったのだろう。
「全く、この大事な日にこんなどうでもいい役目を押し付けられるなんて困りましたわ。お姉様がもっと頼りがいある方でしたらわざわざ私が行かずに済みましたのに」
帰りの馬車の中でリリーは愚痴をこぼす。元々はそっちが私の評判を貶めるようなことをしたからこうなったのだろう、と思ったが私は口を閉じていた。
とはいえ今日はこれから殿下が来るパーティーがあるためか、リリーは上機嫌であった。いつもなら黙っていると執拗に嫌がらせをしてくるのだが、今日はパーティーに話題を移していく。
「楽しみだわ、あのクリストフ殿下と直接お会いできるなんて。遠目から見てもあんなにお美しい方ですから、間近で見たらもっとすごいのでしょうね」
歌うように言う彼女に対して、私はずっと黙っている。もっとも、私の相槌など求められてはいないのだろうが。
仕方なく私はぼーっと窓の外を眺めていた。
すると、道端に一人の男がうつ伏せで倒れているのが見える。見た感じ若そうであるが、男は体調が悪いのか、非常にぐったりして見える。
「あの、リリー」
私は彼女の名を呼んで、男を指さす。リリーは面倒くさそうにそちらを見て言う。
「それが何? 今日は殿下がパーティーに来て下さる大事な日ですのよ」
「じゃあ彼を放っておくって言うの?」
「この道は往来もありますし、そのうち誰か助けるでしょう。私たちがわざわざ助ける必要はないでしょう」
「でも」
とはいえ次に通る人がいつになるかは分からないし、その人もリリーのように彼を見捨てていくかもしれない。
私がなおも放っておけずに食い下がると、リリーははあっとため息をついた。
「そんなに気になるならお姉様が行けばいいのでは? どうせお姉様が殿下に選ばれることはありませんし」
「……分かった」
言われてみればそうだ。どうせリリーが選ばれるなら私がパーティーに遅れても問題はないだろう。
私は意を決して御者に声をかける。
「降りるので止めてください」
「馬鹿じゃないですか」
馬車が止まると、リリーは小声で言う。先ほど自分で煽っておきながら、彼女にとっては私の選択は信じられないらしい。
私はその言葉を無視して馬車を下りた。
倒れている男に駆け寄ると、うつ伏せになった彼の表情はとても青白かった。服はぼろぼろで息も絶え絶えであるが、意識はありそうだ。
「大丈夫ですか!?」
私が駆け寄ると男はよろよろと首を動かしてこちらを見る。
「あ、ああ……頼む、家まで送ってくれ……」
男はかすれそうな声で言う。
「家の場所はどこでしょう? 歩ける?」
「すまない、立てそうにない……」
そう言って彼は一枚のメモを私に差し出してくる。そこには大ざっぱな街の地図が掛かれており、一か所に印がついている。
知らない男性に触れることに一瞬の躊躇はあったものの、彼の青白い表情を見ているとそうも言ってられない。私は意を決して彼の腕を引くと、肩を貸すようにして立たせる。
男性の体重は意外と重く、私は思わずよろけてしまいそうになる。
「あ、ありがとう」
「大丈夫、今送るから」
そう言って私は地図に沿って歩いていく。
途中彼がどんな人なのか見ようとしたが、ずっと顔を伏せている上に、ぼさぼさになった髪が顔にかかっていてよく見えない。ただ体格は意外とがっしりしているような感じがする。
そんなに遠かった訳ではないが、肩を貸しながらだった上にあまり街を歩いたことがなかったために一時間ほど時間がかかってしまった。
家の前までくると彼はようやくほっと一息つく。
「ありがとう、このご恩は一生忘れない」
「いえいえ、お大事に」
見たところ普通の家に見えますが、彼はどういった人物でどうして倒れていたのだろうか。もっとも、今はそれを聞くよりはすぐにでも休んで欲しいという気持ちが強いが。
こうして、私はパーティーが始まる時刻を過ぎてからようやく家を目指したのだった。
それにもしリリーが嫁げば、私をいじめることもなくなるだろう。ウルムート侯爵家の息子が酷いとは言っても、今より酷くなることはないだろう。私はそう思うしかなかった。
そして当日のことである。私たちは王都の屋敷で暮らしているが、たまたま近隣に屋敷がある貴族に訃報があり、私とリリーで弔問に行くことになった。
リリーはこの大事な日にと不満がっていたが、兄は領地にいるし、父母はパーティーの準備で忙しく行けるのは私たちしかいなかった。本来なら私一人でも良かったのだが、どうせ父上のことだし私一人では恥ずかしいとでも思ったのだろう。
「全く、この大事な日にこんなどうでもいい役目を押し付けられるなんて困りましたわ。お姉様がもっと頼りがいある方でしたらわざわざ私が行かずに済みましたのに」
帰りの馬車の中でリリーは愚痴をこぼす。元々はそっちが私の評判を貶めるようなことをしたからこうなったのだろう、と思ったが私は口を閉じていた。
とはいえ今日はこれから殿下が来るパーティーがあるためか、リリーは上機嫌であった。いつもなら黙っていると執拗に嫌がらせをしてくるのだが、今日はパーティーに話題を移していく。
「楽しみだわ、あのクリストフ殿下と直接お会いできるなんて。遠目から見てもあんなにお美しい方ですから、間近で見たらもっとすごいのでしょうね」
歌うように言う彼女に対して、私はずっと黙っている。もっとも、私の相槌など求められてはいないのだろうが。
仕方なく私はぼーっと窓の外を眺めていた。
すると、道端に一人の男がうつ伏せで倒れているのが見える。見た感じ若そうであるが、男は体調が悪いのか、非常にぐったりして見える。
「あの、リリー」
私は彼女の名を呼んで、男を指さす。リリーは面倒くさそうにそちらを見て言う。
「それが何? 今日は殿下がパーティーに来て下さる大事な日ですのよ」
「じゃあ彼を放っておくって言うの?」
「この道は往来もありますし、そのうち誰か助けるでしょう。私たちがわざわざ助ける必要はないでしょう」
「でも」
とはいえ次に通る人がいつになるかは分からないし、その人もリリーのように彼を見捨てていくかもしれない。
私がなおも放っておけずに食い下がると、リリーははあっとため息をついた。
「そんなに気になるならお姉様が行けばいいのでは? どうせお姉様が殿下に選ばれることはありませんし」
「……分かった」
言われてみればそうだ。どうせリリーが選ばれるなら私がパーティーに遅れても問題はないだろう。
私は意を決して御者に声をかける。
「降りるので止めてください」
「馬鹿じゃないですか」
馬車が止まると、リリーは小声で言う。先ほど自分で煽っておきながら、彼女にとっては私の選択は信じられないらしい。
私はその言葉を無視して馬車を下りた。
倒れている男に駆け寄ると、うつ伏せになった彼の表情はとても青白かった。服はぼろぼろで息も絶え絶えであるが、意識はありそうだ。
「大丈夫ですか!?」
私が駆け寄ると男はよろよろと首を動かしてこちらを見る。
「あ、ああ……頼む、家まで送ってくれ……」
男はかすれそうな声で言う。
「家の場所はどこでしょう? 歩ける?」
「すまない、立てそうにない……」
そう言って彼は一枚のメモを私に差し出してくる。そこには大ざっぱな街の地図が掛かれており、一か所に印がついている。
知らない男性に触れることに一瞬の躊躇はあったものの、彼の青白い表情を見ているとそうも言ってられない。私は意を決して彼の腕を引くと、肩を貸すようにして立たせる。
男性の体重は意外と重く、私は思わずよろけてしまいそうになる。
「あ、ありがとう」
「大丈夫、今送るから」
そう言って私は地図に沿って歩いていく。
途中彼がどんな人なのか見ようとしたが、ずっと顔を伏せている上に、ぼさぼさになった髪が顔にかかっていてよく見えない。ただ体格は意外とがっしりしているような感じがする。
そんなに遠かった訳ではないが、肩を貸しながらだった上にあまり街を歩いたことがなかったために一時間ほど時間がかかってしまった。
家の前までくると彼はようやくほっと一息つく。
「ありがとう、このご恩は一生忘れない」
「いえいえ、お大事に」
見たところ普通の家に見えますが、彼はどういった人物でどうして倒れていたのだろうか。もっとも、今はそれを聞くよりはすぐにでも休んで欲しいという気持ちが強いが。
こうして、私はパーティーが始まる時刻を過ぎてからようやく家を目指したのだった。
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