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アルフⅠ

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 また取り返すことが出来なかった。
 でもこれ以上言えば私が悪いみたいになってしまう。そうなれば家族内では恐らくリリーの主張が通ってしまう。

 これまでと変わらぬ状況に私は頭を抱えつつ、翌朝を迎えます。
 そんな解決方法のないことで悩んでいましたが、翌日食卓を囲むとリリーは昨日のことなどまるでなかったかのようにけろりとした表情をしています。

「おはようございます、お姉様」
「お、おはよう」

 そして“怪我してるけど明るく振る舞う健気な妹”を演じているのです。私は内心溜め息をつきつつも、いつものように振る舞うしかないのでした。

「そう言えば今日はアルフが来るんだろう?」
「ええ、そうです」

 父上が言ったアルフというのはリリーの友人でノーランド侯爵家の跡取りです。侯爵家なので家格は落ちますが、彼は真面目で爽やかな好青年といった感じで、父上は密かにリリーと彼を婚約させようと狙っている節があります。

「アルフとは最近どうだ?」
「どうと言われても……普通ですが」

 一方のリリーはあえて父上の意図がよく分かっていない振りをして答えます。
 これはほぼ勘に近い私の予感ですが、リリーはアルフと婚約したくはないのでしょう。それであえて前向きなことを言わず、さりとて父上が気に入っているアルフを悪く言う訳にもいかず、言葉を濁しているように見えます。
 もっとも、ただの勘なので口には出せませんが。

「そうか。今日も来るが、うまくやるんだぞ」
「もうあなた、そんなこと言ってもリリーは困っちゃうでしょう」
「そうだな、済まなかった」

 母上のとりなしで父上は話題を変えます。母上は何となくリリーの気持ちを汲んで父上の話題を逸らしているような気がしますが、どうでしょうか。

 とはいえ、父上だけが気づいていない駆け引きが行われていた朝食が終わります。



 そしてしばらくしてアルフが屋敷にやってきました。私は特段アルフと親しい訳でもないので、いつも通り挨拶だけして邪魔にならないよう自室に戻ります。



 それからしばらくリリーとアルフは様々な話をしていました。私はふととりにいくものがあって部屋を出ます。
 すると不意にアルフが向こうから歩いてい来るのが見えます。トイレにでも行く途中なのでしょうか。

「こんにちは、ミアさん」
「こんにちは、アルフ」

 アルフはリリーと同い年で、私との年もほぼ変わらないのに丁寧に接してきます。

「すみません、急なんですがリリーのことでちょっと相談をしてもいいでしょうか」
「はい、構いませんが」

 私は少し怪訝に思いつつも頷きます。

「では少し来てもらえませんか?」
「構いませんが……」

 外聞をはばかるような話なのでしょうか、と私は少し困惑しながら彼について歩きます。
 するとアルフはリリーがいる応接室から少し離れたところまでくると、周囲を見回して声を潜めて話し始めるのでした。
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