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Ⅳ
父への相談
その日、私は家に帰ると久しぶりに自分から父上に声をかけることにした。
基本的に父上は政務で忙しいので、時々夕食の時に一緒に会話をするぐらいしか会話することはない。
父上も私が女だからか、それとも大丈夫と思われているからか、婚約者の件以外で声をかけてくることはあまりなかった。
だから私は少し緊張しながら父上の部屋のドアをノックする。
「すみません、リアナです」
「リアナか。珍しいな、まあ入りなさい」
「うん」
ドアを開けて私は中に入る。父上はいつものように難しい顔で何かの書類にペンを走らせていた。
「最近メイナード家が王国にて私利私欲のための法律を作ろうとしていると聞きましたが」
「やはりそのことはもう知れ渡っているのか」
「はい」
「しかしなぜリアナがそのことについて尋ねるのか?」
父上は怪訝な表情で尋ねる。
「一番の理由は私の友人たちの家がメイナード家の脅迫を受けて困っているからです」
「そうだな。今王宮ではメイナード家が徒党を組もうとしたばかりに、メイナード派と反メイナード派の二派に分かれようとしている」
確かにメイナード家がなりふり構わず数集めをした結果、それに応じない者は自動的に“反メイナード派”になっていくのだろう。
「メイナード家からお金を借りている家は結構たくさんあり、このままでは向こうに押し切られてしまうかもしれません。ですが皆で一致団結すればメイナード家の脅迫に対抗することは出来ると思います」
「それはそうだろうな」
父上も頷く。おそらく、父上も私とは多少視点は違うものの、似たようなことをやっているのだろう。
「実はわしもメイナード家の誘いを断ったところ、自動的に反メイナード派の旗頭のようになってしまったのだ」
この国の大貴族はそんなにいくつもない。そのため、うちのような大きな家が誘いをきっぱりと断ると必然的に旗頭になってしまうのだろう。
他にもいくつか大きな家はあるが(例えばクリフの家であるアンドリュー家とか)、向こうについたか様子を見ているのだろう。
「そこで私もメイナード家の脅迫を受けている生徒たちに声をかけようと思っています」
「ほう……一体なぜそこまでする?」
「それは、特にグランド家を助けたいからです」
どうせ隠してもそのうちばれてしまうだろうと思い、私はカーティスの家の名前を出す。
それを聞いて父上は小さく唸った。
「正直なところわしもクリフとの婚約は解消しようということをアンドリュー公爵と話していたところだ。しかしこのような事件があったため、それも迂闊に出来ずにいた」
うちからクリフとの婚約解消を持ちかければそれに怒ったアンドリュー公爵家が向こうに回ってしまうかもしれないということだろうか。
相変わらず婚約の問題は面倒くさい。
だとすると父上はこれ以上私がカーティスと親しくなっても困るから、私に動くなと言うのだろうか。
が、父上の口から出た言葉は予想とは違った。
「とはいえ、その辺の事情は置いておくとして、リアナが他の家を説得してくれるというのであれば頼んでみよう。正直なところわしも猫の手も借りたい気持ちではある」
「はい。でしたらメイナード家からお金を借りている家のリストをいただけないでしょうか。学園に生徒がいるのであれば話してみます」
「分かった。少し待っていろ」
そう言って父上は机の上の書類をがさがさとあさり、束を取り出す。
そしてそれを私に差し出した。そこにはメイナード家や他家との関係、さらに父上なりの考察や最近の動向などがびっしりと書かれていた。
私が学園に通っている間も父上は父上なりに色々手を尽くしていたようだ。
「ありがとうございます……必ずや父上のお力になります」
「うむ、だが先ほどは猫の手も借りたいとは言ったが、最悪わしがどうにかすることは出来る。だから決して無理はするな。あくまでこれはわしがすべきことだ」
父の言葉に私は少し安心する。
やることは変わらないが、自分の後ろに父がどっしり構えていると思うと自然と安堵する。
「分かりました、それでは失礼します」
こうして私は父上からリストを預かり、部屋を出たのだった。
基本的に父上は政務で忙しいので、時々夕食の時に一緒に会話をするぐらいしか会話することはない。
父上も私が女だからか、それとも大丈夫と思われているからか、婚約者の件以外で声をかけてくることはあまりなかった。
だから私は少し緊張しながら父上の部屋のドアをノックする。
「すみません、リアナです」
「リアナか。珍しいな、まあ入りなさい」
「うん」
ドアを開けて私は中に入る。父上はいつものように難しい顔で何かの書類にペンを走らせていた。
「最近メイナード家が王国にて私利私欲のための法律を作ろうとしていると聞きましたが」
「やはりそのことはもう知れ渡っているのか」
「はい」
「しかしなぜリアナがそのことについて尋ねるのか?」
父上は怪訝な表情で尋ねる。
「一番の理由は私の友人たちの家がメイナード家の脅迫を受けて困っているからです」
「そうだな。今王宮ではメイナード家が徒党を組もうとしたばかりに、メイナード派と反メイナード派の二派に分かれようとしている」
確かにメイナード家がなりふり構わず数集めをした結果、それに応じない者は自動的に“反メイナード派”になっていくのだろう。
「メイナード家からお金を借りている家は結構たくさんあり、このままでは向こうに押し切られてしまうかもしれません。ですが皆で一致団結すればメイナード家の脅迫に対抗することは出来ると思います」
「それはそうだろうな」
父上も頷く。おそらく、父上も私とは多少視点は違うものの、似たようなことをやっているのだろう。
「実はわしもメイナード家の誘いを断ったところ、自動的に反メイナード派の旗頭のようになってしまったのだ」
この国の大貴族はそんなにいくつもない。そのため、うちのような大きな家が誘いをきっぱりと断ると必然的に旗頭になってしまうのだろう。
他にもいくつか大きな家はあるが(例えばクリフの家であるアンドリュー家とか)、向こうについたか様子を見ているのだろう。
「そこで私もメイナード家の脅迫を受けている生徒たちに声をかけようと思っています」
「ほう……一体なぜそこまでする?」
「それは、特にグランド家を助けたいからです」
どうせ隠してもそのうちばれてしまうだろうと思い、私はカーティスの家の名前を出す。
それを聞いて父上は小さく唸った。
「正直なところわしもクリフとの婚約は解消しようということをアンドリュー公爵と話していたところだ。しかしこのような事件があったため、それも迂闊に出来ずにいた」
うちからクリフとの婚約解消を持ちかければそれに怒ったアンドリュー公爵家が向こうに回ってしまうかもしれないということだろうか。
相変わらず婚約の問題は面倒くさい。
だとすると父上はこれ以上私がカーティスと親しくなっても困るから、私に動くなと言うのだろうか。
が、父上の口から出た言葉は予想とは違った。
「とはいえ、その辺の事情は置いておくとして、リアナが他の家を説得してくれるというのであれば頼んでみよう。正直なところわしも猫の手も借りたい気持ちではある」
「はい。でしたらメイナード家からお金を借りている家のリストをいただけないでしょうか。学園に生徒がいるのであれば話してみます」
「分かった。少し待っていろ」
そう言って父上は机の上の書類をがさがさとあさり、束を取り出す。
そしてそれを私に差し出した。そこにはメイナード家や他家との関係、さらに父上なりの考察や最近の動向などがびっしりと書かれていた。
私が学園に通っている間も父上は父上なりに色々手を尽くしていたようだ。
「ありがとうございます……必ずや父上のお力になります」
「うむ、だが先ほどは猫の手も借りたいとは言ったが、最悪わしがどうにかすることは出来る。だから決して無理はするな。あくまでこれはわしがすべきことだ」
父の言葉に私は少し安心する。
やることは変わらないが、自分の後ろに父がどっしり構えていると思うと自然と安堵する。
「分かりました、それでは失礼します」
こうして私は父上からリストを預かり、部屋を出たのだった。
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