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Ⅰ
シエラとの料理
「……と言う訳で今週末、またウィルが来てくれることになりました」
「えぇ!?」
翌日、私が朝食の席でその話をすると、両親は顔を見合わせて驚きました。
「そう言ってもらえるのはありがたいが……まさかうちがそんなに気に入ってもらえるとはな」
父上は困惑したように言います。
父上もウィルの実家であるランカスター子爵家は格上の家なので、ウィルがうちに来る時は最初はいつも粗相がないか気にしていたものです。
もっとも、次第にウィルがそういうことで気を悪くすような性格ではないことが分かっては来ましたが。
「それはとても嬉しいけど……怖いわね」
そう言って母上も首をかしげます。
格上の相手と婚約出来ただけでもすごいのに、その相手がうちの良く言えば質素、悪く言えば見すぼらしい屋敷を気に入ってくれるというのは確かに怖いです。
とはいえ両親の前ではウィルは普通に振る舞っているので、二人はそれ以上の疑問を抱くことはありませんでした。
「期待に応えられるようにするんだぞ、エレン」
「は、はい」
そんなことを話しているうちに、私たちは朝食を食べ終えました。
するとそれまでずっと黙って何かを考えていたシエラが急に声をかけてきます。
「お姉様、お願いがあるのですが」
「どうしたの?」
「また私と一緒にクッキーを作っていただけませんか?」
「いいけど、どうして?」
私が尋ねるとシエラは一瞬びくりとしたような気がします。
先ほど私がウィルがまた屋敷に来る、と話したことが関係あるのでしょうか。
そう思ってしまってまた胸がぞわぞわします。
「い、いえ、この前うまく出来ましたが、随分お姉様に手伝わせてしまったので、自分一人で焼けるようになりたい、と思ったのです」
「なるほど、そういうことなら構わないわ」
それだけにしてはシエラは随分動揺しているように感じましたが、気のせいでしょうか。
とはいえ、今日は特に用事もないので特に断る理由もありません。シエラにも料理を覚えて欲しいという気持ちはありますし。
上流貴族の家に生まれると手習いや社交会で毎日忙しいとは聞きますが、うちは高名な先生を呼ぶお金も、毎日パーティーを開いたり出席したりするお金もないので自然と他の家よりも暇になるのです。
それに私がウィルの元に嫁げばそれまで私が手伝っていた家事をシエラが手伝うことになります。そのために練習しておこうということでしょう。
「では今日は出来るだけシエラがやってみて。何か間違いとかあれば私が言うから」
「分かりました」
シエラが頷きます。
そして私たちはキッチンに向かい、まずは小麦粉や卵、牛乳などの材料を用意しました。そしてボールに材料を入れて生地を作るのですが……
早速彼女はとんでもない量の牛乳を入れようとするので私は慌てて止めます。
「シエラ、生地を作る時はちゃんと分量を量って!」
「えぇ、でもお姉様はいつも料理の時に目分量でやってますよね?」
「それは私がある程度慣れているからです! 最初は十分すぎるほど丁寧にやらないと大変なことになりますよ」
「はあい」
シエラは頷くと、今度はきちんと量を量って生地を作るのですが……
「お姉様、このバニラエッセンス、もっと入れた方が良くないですか?」
「そういうアレンジも慣れてからやって!」
シエラはちょっと目を離すと、すぐにレシピとは違う分量で作ろうとします。彼女は料理自体はこれまでも何度か一緒にしたことがあるので特別下手という訳でもないのですが、いかんせん独自のセンスでアレンジしようとするので大変です。しかも彼女は量の感覚がおかしいので、ちょっと何かの味を足す、という程度ではすみません。
気が付くと、私は料理を教えるというよりも彼女の脱線を止める係のようになっていました。
とはいえ、どうにか生地作りは終わり、いよいよ後は焼くだけというところまでたどり着きます。
「お姉様、焼く前に最後にもう一つぐらい隠し味を入れたいです。私、珍しいハーブをこの間もらいまして……」
「隠し味はもう入れたので二つも三つも入れてはだめ」
というかそもそも今回のクッキーにはレーズンが入っているので、隠し味はいらないはずなのですが。
「はあい……」
私が止めると、シエラは渋々といった様子で手を止め、クッキーをオーブンに入れるのでした。
彼女が将来誰と結婚するのかは分かりませんが、もし嫁入り先で料理をすることがあればその時にはレシピ通りに作るということを徹底して欲しいと思うばかりです。
「えぇ!?」
翌日、私が朝食の席でその話をすると、両親は顔を見合わせて驚きました。
「そう言ってもらえるのはありがたいが……まさかうちがそんなに気に入ってもらえるとはな」
父上は困惑したように言います。
父上もウィルの実家であるランカスター子爵家は格上の家なので、ウィルがうちに来る時は最初はいつも粗相がないか気にしていたものです。
もっとも、次第にウィルがそういうことで気を悪くすような性格ではないことが分かっては来ましたが。
「それはとても嬉しいけど……怖いわね」
そう言って母上も首をかしげます。
格上の相手と婚約出来ただけでもすごいのに、その相手がうちの良く言えば質素、悪く言えば見すぼらしい屋敷を気に入ってくれるというのは確かに怖いです。
とはいえ両親の前ではウィルは普通に振る舞っているので、二人はそれ以上の疑問を抱くことはありませんでした。
「期待に応えられるようにするんだぞ、エレン」
「は、はい」
そんなことを話しているうちに、私たちは朝食を食べ終えました。
するとそれまでずっと黙って何かを考えていたシエラが急に声をかけてきます。
「お姉様、お願いがあるのですが」
「どうしたの?」
「また私と一緒にクッキーを作っていただけませんか?」
「いいけど、どうして?」
私が尋ねるとシエラは一瞬びくりとしたような気がします。
先ほど私がウィルがまた屋敷に来る、と話したことが関係あるのでしょうか。
そう思ってしまってまた胸がぞわぞわします。
「い、いえ、この前うまく出来ましたが、随分お姉様に手伝わせてしまったので、自分一人で焼けるようになりたい、と思ったのです」
「なるほど、そういうことなら構わないわ」
それだけにしてはシエラは随分動揺しているように感じましたが、気のせいでしょうか。
とはいえ、今日は特に用事もないので特に断る理由もありません。シエラにも料理を覚えて欲しいという気持ちはありますし。
上流貴族の家に生まれると手習いや社交会で毎日忙しいとは聞きますが、うちは高名な先生を呼ぶお金も、毎日パーティーを開いたり出席したりするお金もないので自然と他の家よりも暇になるのです。
それに私がウィルの元に嫁げばそれまで私が手伝っていた家事をシエラが手伝うことになります。そのために練習しておこうということでしょう。
「では今日は出来るだけシエラがやってみて。何か間違いとかあれば私が言うから」
「分かりました」
シエラが頷きます。
そして私たちはキッチンに向かい、まずは小麦粉や卵、牛乳などの材料を用意しました。そしてボールに材料を入れて生地を作るのですが……
早速彼女はとんでもない量の牛乳を入れようとするので私は慌てて止めます。
「シエラ、生地を作る時はちゃんと分量を量って!」
「えぇ、でもお姉様はいつも料理の時に目分量でやってますよね?」
「それは私がある程度慣れているからです! 最初は十分すぎるほど丁寧にやらないと大変なことになりますよ」
「はあい」
シエラは頷くと、今度はきちんと量を量って生地を作るのですが……
「お姉様、このバニラエッセンス、もっと入れた方が良くないですか?」
「そういうアレンジも慣れてからやって!」
シエラはちょっと目を離すと、すぐにレシピとは違う分量で作ろうとします。彼女は料理自体はこれまでも何度か一緒にしたことがあるので特別下手という訳でもないのですが、いかんせん独自のセンスでアレンジしようとするので大変です。しかも彼女は量の感覚がおかしいので、ちょっと何かの味を足す、という程度ではすみません。
気が付くと、私は料理を教えるというよりも彼女の脱線を止める係のようになっていました。
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「お姉様、焼く前に最後にもう一つぐらい隠し味を入れたいです。私、珍しいハーブをこの間もらいまして……」
「隠し味はもう入れたので二つも三つも入れてはだめ」
というかそもそも今回のクッキーにはレーズンが入っているので、隠し味はいらないはずなのですが。
「はあい……」
私が止めると、シエラは渋々といった様子で手を止め、クッキーをオーブンに入れるのでした。
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