「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

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ウィルの勝手な怒り

「ウィルさん、今日は趣向を変えてガトーショコラを作ってきました」
「本当か!?」

 あれからしばらくして、再びシエラがうちに来てくれた。
 シエラが差し出した可愛くラッピングされた袋を見て僕はつい期待してしまう。ラッピングからはシエラの可愛らしさがにじみ出ているようだった。

 だが、なぜかシエラ本人は微妙な表情をしている。

「どうしたんだ、シエラ?」
「それが、お姉様に頼んだのですが手伝ってもらえなくて」
「何だって?」

 それを聞いて僕は嫌な気持ちになった。
 もしかしてエレンはまたシエラにくだらない嫌がらせをしているのだろうか。

「そ、それで私は一人で頑張って作ったんです」
「僕のためにそこまでしてくれてありがとう、シエラ」

 僕は一応そう言ったものの、内心では前回の塩クッキーのことを思い出して戦慄する。もしもまたあのようなものを食べさせたらたまったものではない。

 とはいえシエラが僕のために、作ったことのないお菓子を一から作ってくれたと思うとその健気さに打たれてしまう。僕は出来るだけ笑顔を崩さないようにして尋ねる。

「じ、自信のほどはどうだ?」
「分かりませんが……でもウィルさんが言ってくださったように気持ちだけはいっぱいこめたので大丈夫だと思います!」

 シエラが真面目な表情で言う。
 それを聞いて僕はさらに嫌な予感を抱いた。気持ちをこめてくれたのは嬉しいが、裏を返せばそれ以外自信がないということではないか。

 エレンには気持ちがこもっていれば技術なんてとは言ったが、さすがに先週と同じぐらいの味だと僕も参ってしまう。とはいえシエラを傷つけるようなことを言う訳にもいかない。

「わ、分かった。ありがとう」

 シエラがテーブルの上でラッピングを開くと、おいしそうなガトーショコラが出てきて、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 それを見て僕は少しだけ安堵した。とりあえず外見は普通だ。

「じゃあいただこうかな」

 そう言って僕はフォークで一口、ガトーショコラを口に入れる。
 その時だった。甘いチョコの中からなぜかどろっとしたクリームのようなものがあるのが分かる。しかも普通のクリームの味であればいいのだが、なぜかそこに塩気のような味を感じる。

 甘いはずのお菓子の中に変な味が混ざっているという異物感。
 それが僕の感覚を刺激した。

「!?」

 気が付くと、僕は口元を抑えて吐きそうになっていた。

「あの……もしかしてまずかったですか?」
「いや、そんな訳はないが、ちょっと朝食べた卵が古くなっていったようでお腹の調子が悪くてね」

 僕はとっさに適当な言い訳をする。

「大丈夫でしょうか? すみません、そんな時にお菓子を持ってきてしまって」

 シエラが申し訳なさそうに目を伏せる。
 そんな彼女を見て今度は僕の方が申し訳なくなってしまった。

「き、気にしないでくれ、ほら、家に保管しておいてまたお腹が治ったら食べるから」
「わ、分かりました」

 しかし僕には一瞬見せた彼女の悲しそうな表情が忘れられなかった。

 そうだ、エレンさえシエラにちゃんとお菓子作りを教えてあげていればこんなことにはならなかったのに。彼女が悲しんでいるのも元を正せばエレンが嫌がらせをするのが悪いのだ。きっと彼女も、心のどこかで自分が持っていないものをシエラが持っているのを分かっていて、それで彼女を嫉んでいるのだろう。
 そのせいでずっとシエラに対してきつく当たっているに違いない。

 そう思うと僕はエレンに対する怒りが込み上げてくるのだった。

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