「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

文字の大きさ
33 / 77

事件 ウィル視点Ⅰ

しおりを挟む
 それから数日して、待ちに待った週末がやってきた。
 今まで日々というのは気が付くと過ぎていたものだったが、今週ばかりは首を長くしてシエラがやってくる日を待ち望んでいた。こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。

 最初のうちはシエラのことを、気の合うエレンの妹、というぐらいにしか見ていなかった。しかし次第にエレンと気が合わなくなってくるのと反比例するように、僕はシエラのことを想うようになってきた。
 もしかしたらエレンが僕に義務感で接していたように、最初は義務的にエレンのことを好いてみようと思っていたのかもしれない。

 だとすればエレンとのことは僕の方にも非があったのかもしれない。
 だが、僕はシエラの純情にふれて本心に気づかされたんだ。

 それなのにエレンはシエラのことをいじめるし、しかもそれを認めようとしない。それなら外見上はエレンとの婚約を維持する代わりに僕はシエラと楽しく過ごすんだ。
 エレンとの婚約は嫌だが、シエラと親戚でいるためと思えば我慢できる。

「ウィル様、シエラ様がお越しになりました!」
「そうか!」

 その日、執事の言葉を聞いて僕は思わず顔をほころばせてしまう。
 僕が玄関まで出迎えると、そこにはいつもよりおめかししたシエラが立っていた。
 僕はその姿に一瞬見惚れてしまう。

「シエラ、ようこそ我が屋敷へ」
「はい、今日はわざわざ私のために料理を教えてくださりありがとうございます」

 そう言って彼女は礼儀正しくぺこりと頭を下げる。

「シエラは今日は一段ときれいだね」
「はい、今日は友人とお茶会することになっていたので、そのためと言っておめかししてきました」

 普段シエラと会う時は僕がエレンに会いにいったついでか、エレンが所用のついでにこの屋敷に来るときなのでそれまで普段着の彼女しか見ていなかったが、今日はお出かけ用のドレスを着て髪型もきちんとセットしているため、一段ときれいだった。

 そう言えばエレンも時々やたら着飾っていた時があったが、こんな風には思わなかった。

「あ、でも料理を教えてもらうのにこの格好では不便ですよね……すみません、ちょっと浮かれていて」
「いや、全然気にすることはない!」

 シエラが落ち込みかけるので僕は慌てて否定する。
 料理を教わるという話になっているにも関わらず、僕に可愛いところを見せたいためにおめかししてくるとは何て可愛いんだ。
 若干抜けてるところもあるが、それはそれでシエラの可愛いところだと思う。
 逆にエレンのやつは完璧を求めすぎて人間味がない気がする。

「僕もシエラの可愛い姿が見れて嬉しいよ」
「そうですか、それなら良かったです」

 シエラは安心したように息を吐いた。

 そんなことを話しつつ、僕らはキッチンに移動する。
 そして今日のために仕事を空けておいてもらったメイドを一人紹介する。

「今日料理を教えてくれるメイドのレーナだ。レーナ、シエラはあまり経験がないから優しくあげてくれ」
「はい、分かりました……よろしくお願いします」

 そう言ってレーナがシエラに頭を下げる。
 彼女はこの屋敷のキッチンで僕が生まれる前からずっと料理をしているという。うちに大事な客を招くときはいつも彼女に料理を頼んでいた。エレンなんかよりもよほど先生として頼りになるだろう。

「こ、こちらこそわざわざ時間をとってくれてありがとうございます!」

 シエラも少し緊張したように頭を下げる。
 僕自身は別に料理が出来る訳ではないから基本的にレーナがシエラに教えているのを見守りつつ、シエラに励ましの言葉をかけようというぐらいの軽い気持ちだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...