「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

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メルヴィン子爵Ⅳ

 私が固唾を飲んで見守る中、子爵は衣がついた肉を器用にスプーンで切り、米と一緒に少しずつスプーンに乗せて口に運びます。

 そして何度か咀嚼したところでわずかに表情を変え、確かめるように次の分を口に運びます。
 とはいえ私には子爵の表情が何を意味するのか分からず、見守ることしか出来ません。

 それを子爵は何度か繰り返し、半分ほど食べたところで何か頷きながらスプーンを置きます。これで大体分かったというでしょうか?
 私の緊張はいよいよ高まっていきます。

「いかがでしょうか?」
「うむ、衣はサクサクに揚げられており、卵もふわふわだ。また、わしの時と違い米もちょうどいい具合に火が通っている」
「ありがとうございます」

 それを聞いて私はとりあえずほっとしました。
 どうやら最低限はうまく出来ていたようです。

「うむ、他の文献にあったこの料理の感想とも一致するし、恐らくこれが完成なのだろう。初めて見たレシピだろうにここまでの物が作れるとは。このレシピを見せることの出来る身分の者でここまでの腕の者はいないだろう」
「そ、そうでしょうか?」

 言われてみれば貴族令嬢で料理を練習している人はお菓子のようなもっと華やかなものを作りたがる傾向があり、普通の料理が作れる人は案外少ないのかもしれません。
 私は今更ながらに自分が珍しいことを実感します。

「ああ、何にせよわしはこれが食べられて幸せだ。しかしウィルはおぬしの料理をおいしくないと言って妹に手を出したと聞いたが、本当か?」
「本当です」
「何だと!? それは許せん! わしは別に他家の男女がどのような色恋をしようか興味がないが、真に価値のある料理を理解しないとは! あのような愚か者を放置しておくと、我が国で正しい芸術が評価されなくなってしまう!」

 そう言って子爵は突然ウィルに対しての怒りをぶちまけ始めます。
 これまでは一癖ありそうな人物ではあったものの穏やかに話していたため、その豹変っぷりに驚きました。
 そしてまさかそんな理由でウィルが非難されるとは思わず、私は若干困惑しました。

 正直なところ私の料理の腕は評価しなくていいので、むしろ彼の非道に対して腹を立てて欲しかったのですが……
 正しい芸術が評価されるとかもどうでもいい、と思うのですが、せっかく子爵が私のために(?)怒ってくれているのでここは同意しておくことにします。

「そ、そうなんです。恐らくウィルはどれだけ芸術的に価値のある物を作る人がいても、きっと自分の好きな人でなければろくな評価をしないでしょう。彼にとっては自分の好き嫌いが全てなんです」
「そんな男は許しておけん! 彼の非道を白日の元に晒さなければ! よし、待っていろ。すぐにあのメイドは引き渡そうではないか。そして奴の悪辣な行いを明らかにするのだ」
「ありがとうございます!」

 当初は引き渡すためのお金を負けてくれるという話だった気がしますが、子爵はよほどヒートアップしているのでしょう、すぐに引き渡してくれるという話にいつの間にか変わっています。噂で聞いていた以上に彼は変わった人物のようでした。

 とはいえ、それならそれで儲けものと思っておきましょう。

「とりあえずこれから彼女を連れてこよう。待っていてくれ」

 こうして子爵は興奮した面持ちで屋敷の奥へと走っていきました。

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