「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃

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悪あがきを続けるウィル

「何だと!? ヘレンがエレンの手に渡った!?」
「はい、どうもそのようです……」

 家臣の報告を聞いて僕は驚愕した。
 ヘレンが向こうの手に渡ったという事実自体も衝撃的だったが、金に汚いメルヴィン子爵がリーン家のような貧乏貴族の要求を呑むとも思えなかった。
 もしかしたらリーン家が他家の協力で金策に成功したのかもしれないが、だとしたらこちらに「相手はこれだけ出すらしいのでもっと金額を上げろ」という要求が来るはずだ。それもせずにいきなり向こうに渡すとは一体どういうことだ。
 僕はまずその事実を受け入れることが出来なかった。
 何かの間違いとしか思えない。

「どうしてこんなことになったのだ! まさか今更子爵が正義感に目覚めた訳でもあるまい!」
「それは分かりませんが……エレンが屋敷を出た後に子爵に問い合わせたところ、ウィル様に対して『あんなやつは知らん!』といたくお怒りのようでして……」
「何と言うことだ……」

 それならお互いに賄賂を要求するような手紙をわざわざ送ることはないはずだ。子爵が正義感から僕に怒りを抱いているのであればさっさと向こうの家にヘレンを送り届ければ済む話である。

 とはいえ、どんな事情があろうとエレンが向こうに行ってしまったという事実は変えられない。
 ならばこれからどうするかを考えなければいけない。
 普通に考えて向こうが証拠を手に入れてしまった以上もはや全てを認めて謝ることしか出来ない。

 とはいえ、証拠隠滅までしようとしてしまった以上今更認めたところで許されるとは思えない。婚約者の妹に薬を盛って事に及ぼうとして逃げられた挙句、証拠隠蔽を図って失敗したなど、人格も最悪だが無能の極みでもある。
 そんなことが知れ渡れば、今後表舞台で生きていくことは出来ないだろう。それならまだ一か八か悪あがきした方がましではないか。

「くそ、子爵め……。待てよ? それまで金をせびりとるつもりだった子爵が急にエレンにヘレンを渡したのはどう考えても変だ。これはきっとエレンと子爵がそういう関係になったから子爵は僕とエレンがさっさと婚約を破棄出来るように仕向けたに違いない」

 恐らく周辺の者たちも子爵がエレンが来た瞬間に心変わりした理由は分からないだろう。それなら「これは二人がそういう関係になったからだ」と言えばそれが信じられるかもしれない。
 確かにヘレンがあの事件を証言すれば僕の信用は滑り落ち、婚約は破棄される。
 それから満を持して子爵とエレンが婚約する。確か子爵にも妻がいたような気がするが、もしかしたら妾にでもするのかもしれない。

 メルヴィン家とリーン家の家格の差、さらにヘレンを渡すという条件と引き換えであればそれが成立してしまう可能性がある。

 僕は即興で自分が考え付いたストーリーに感動した。
 この噂が広まれば向こうは姉妹揃って信用が失われるに違いない。

「ならばこの噂を周辺に流すんだ! 新しい噂が広まればどうせ人々は昔のことなどすぐに忘れてしまうだろう」
「確かにエレンがメルヴィン子爵の屋敷に向かったのは事実。やってみます」
「そうだ。エレンの信用が失墜すれば今回の件もエレンが適当なことを言っているだけということに出来るかもしれない! それにエレンの信用が落ちればその妹であるシエラの話も信憑性がなくなるだろう!」

 僕の思いついた案はこの状況を打開するのにうってつけの名案と言えるだろう。僕は自分の思い付きに思わず膝を打つ。待っていろ、僕に恥をかかせたシエラもそれを暴こうとしたエレンもそれに協力した子爵も全員評判を地の底まで落としてやる。

 その後僕はすぐに家臣たちを集めてエレンと子爵が出来ているという噂を流させることにした。

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