悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい

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第一章 転生先は推しカプの隣だが断罪イベントに進めない

第六話 入学式の新入生代表は私、王子では?

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入学式の会場となる大講堂は、荘厳なパイプオルガンの音色に包まれていた。 磨き上げられた大理石の床、高い天井に描かれた創世の女神のフレスコ画。まさに「これぞファンタジーの入学式!」という神々しさだ。

私は、新入生席の最前列で、冷や汗を流しながら震えていた。 右隣には、私の腰を抱き寄せるようにして座るギルバート様。 左隣には、私の袖をぎゅっと掴んで離さないアリスちゃん。 ……本来、平民の特待生であるアリスちゃんは、公爵令嬢の私の隣になんて座れるはずがないのだが、「リリアーナ様の隣でないと、私、この場で自爆(魔力暴走)します!」という彼女の脅し……もとい、熱意に押された学園側が、特例中の特例で認めてしまったのだ。

(おかしい。絶対におかしいわ……)

私は必死に、記憶の中の『幻想のルミナス』のシナリオを反芻する。 入学式のハイライト。それは、新入生を代表してギルバート様が登壇し、凛々しく誓いの言葉を述べるシーンだ。客席のアリスちゃんがその姿を見て「なんて素敵な王子様……」と恋に落ちる。それが、この物語の「最初の重要フラグ」のはずだった。

ステージ上では、初老の学園長がマイク……魔導拡声器の前に立った。

「――では、新入生代表挨拶。新入生総代、リリアーナ・ヴァン・アストレア」

「…………はい?」

私の喉から、間抜けな声が漏れた。 今、なんて言った? リリアーナ? 私?

(え、ちょっと待って! 総代はギルバート様でしょうが! なんで悪役令嬢が代表挨拶なんてやってるのよ!? シナリオ! シナリオどこ行ったの!?)

混乱する私を余所に、万雷の拍手が講堂を揺らした。


「さあ、リリアーナ。君の美しさを全校生徒に見せつけてくるがいい。私が選んだ、最高の婚約者として」

ギルバート様が、うっとりとした表情で私の背中を優しく押す。

「リリアーナ様、行ってらっしゃいませ! 貴女様の第一声で、この学園の空気は浄化され、私たちは皆、貴女様の信徒となることでしょう……っ!」

アリスちゃんが、ハンカチを握りしめて感涙に咽んでいる。

(違う! 私がやりたいのは、客席から『推しカプ』の出会いを見守ることなの! なんで私がスポットライトを浴びなきゃいけないのよぉぉ!)

だが、名前を呼ばれて拒否できるはずもない。私は半分魂が抜けた状態で、まるで処刑台に向かう罪人のような足取りでステージへと階段を上った。 真っ赤な絨毯が敷かれた壇上に立ち、客席を見下ろす。

そこには、数百人の新入生。 そして、その最前列で、ひときわ異常なオーラを放つ「二人」がいた。

ギルバート様は、腕を組んで傲慢なほどに誇らしげな笑みを浮かべている。その瞳には「私のリリアーナを見ろ、嫉妬しろ、跪け」という猛烈な独占欲が渦巻いている。 【好感度:100(崇拝/独占/ERROR)】

そのすぐ隣で、アリスちゃんは跪かんばかりの勢いで身を乗り出していた。翡翠色の瞳をキラキラと輝かせ、もはや祈りを捧げる聖職者のような敬虔さで私を見上げている。 【好感度:150(狂信/女神降臨/ERROR)】

(…………地獄。ここ、地獄だわ)

二人は、お互いのことなんて一ミリも見ていない。 視線が交差することもない。ただひたすらに、ステージ上の私だけを、食い入るように見つめている。

私は震える手で、渡されたスピーチの原稿を開いた。 ……驚いたことに、そこには『幻想のルミナス』でギルバート様が言うはずだった「高潔で希望に満ちた言葉」が、そのままリリアーナの名前で記されていた。

(世界が……世界が私を主役にしようと、強引にシナリオを書き換えてる……!)

「……新入生を、代表して。わたくし、リリアーナ・ヴァン・アストレアが、誓いの言葉を……」

私は半ば自棄(やけ)になって、格調高い言葉を読み上げ始めた。 悪役令嬢としての完璧な立ち居振る舞い。 前世で培った「推しのセリフへの深い理解」。 そして、この世界で爆上がりしてしまった「魔力」が、私の声に無自覚なカリスマ性を宿らせてしまう。

会場は、水を打ったように静まり返った。 私の声が響くたび、生徒たちの頭上に浮かぶモニターの数値が、ポーン、ポーンと跳ね上がっていくのが見える。

(やめて! 好感度をばら撒きたくないの! 私は嫌われなきゃいけないのよ!)

だが、私が「冷たい視線」を送れば、生徒たちは「高貴な厳しさ!」と感動し、私が「緊張で声を震わせれば」、彼らは「可憐な乙女の震え!」と勝手に解釈する。

そして、スピーチの締めくくり。 私は最後の一縷の望みをかけて、ギルバート様とアリスちゃんを交互に見た。 (さあ、今よ! このスピーチの熱気の中で、二人の目が合えば――!)

「――共に歩みましょう。この光り輝く学園の未来のために」

バッ、と視線を送った。 しかし、現実は非情だった。

ギルバート様は、私の視線が自分に向けられたと勘違いし、「ああ、愛しているよリリアーナ!」と声に出さずに唇を動かした。 アリスちゃんは、私と目が合った(と思い込んだ)衝撃で、「うっ……尊い……」と胸を押さえて座席に沈み込んだ。

(二人とも!! 相手を見なさいよ!! 隣に座ってる美男美女を見なさいよ!!)

拍手の渦。 スタンディングオベーション。 ステージを降りる私の背中に、学園中の「好意」という名の重圧がのしかかる。

私は悟った。 ギルバート様が新入生代表じゃない。 アリスちゃんが王子に恋をしない。 この世界は、もう私が知っている乙女ゲームではないのだ。

「……私の推しカプ、どこ……?」

席に戻った私を待ち構えていたのは、王子の熱烈な抱擁と、聖女の「一生付いていきます!」という宣言、そして、バグり散らかして火花を吹く二つの巨大なメーターだった。

入学式。 それは、私の断罪ロードが完全に「迷子」になったことを告げる、終わりの始まりだった。
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