悪役令嬢、二度目の人生は「愛」が痛い。〜冷酷王子の執着から逃れるために国外追放(スローライフ)を目指します〜

りい

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第一章 転生悪役令嬢は冷酷だったはずの王子に溺愛されています

第七話 推し活と氷点下の嫉妬

「リナリア、もう十分だろう。こんな埃っぽい場所に長居は無用だ。……さあ、帰るよ」

アルフレッド様の冷たい手が、私の腰をぐいっと引き寄せます。その力加減には「これ以上の妥協は許さない」という強い意志がこもっていました。 普通なら、ここで「はい、殿下」とおとなしく馬車に乗り込むところでしょう。でも、今の私はただの悪役令嬢ではありません。中身は、推しカプの尊い絡みを何よりも優先する、崖っぷちの転生オタクなのです!

「嫌ですわ! せっかく街に来たんですもの、もう少しだけ、あちらの様子を見てみたいんですの!」

私はわざとらしくアルフレッド様の腕を振り払い、地団駄を踏んで見せました。前世で見た「わがまま放題な悪役令嬢」のテンプレ行動です。

「リナリア? 急にどうしたんだい、そんなに駄々をこねて……」

「だって、あそこにいた聖女様……マリア様とおっしゃるのかしら? とってもキラキラしていて、見ているだけで心が洗われるようですわ。あんなに素敵な方、王都にはなかなかいらっしゃらないもの!」

私はあえて、マリアちゃんを絶賛しながら、彼女がいる教会の階段の方へとズカズカと歩き出しました。 アルフレッド様は一瞬、呆気に取られたような顔をしましたが、すぐに焦った様子で私の後を追ってきます。

(よし、食いついた! これで至近距離で二人を引き合わせるわよ!)

私はマリアちゃんまであと数メートルの距離まで近づくと、わざとらしく彼女の方を指差して、隣に並んだアルフレッド様に微笑みかけました。

「ねえ殿下、さっきのマリアさん、本当にお可愛らしかったですわね? あの金糸のような髪に、澄んだ瞳……。殿下のような気品溢れるお方のお隣に立ったら、さぞかし絵になると思いませんこと?」

これよ! これが言いたかったの! 「あんたたちのカップリング、最高だから早く私を捨ててくっつきなさい!」というメッセージを、悪役令嬢風の嫌味(の皮を被った激推し)に変換してぶつけてやったのです。

マリアちゃんは、私たちの接近に気づき、ポッと頬を染めてこちらを見つめています。その瞳には、先ほどよりもさらに強い「憧憬」の色が浮かんでいました。

(さあマリアちゃん、今よ! 殿下に渾身の微笑みを向けて! 殿下も、この天使のような可愛さを見れば、私のことなんてどうでもよくなるはず……!)

期待に胸を膨らませ、私はアルフレッド様の横顔を覗き込みました。 しかし、そこで私が見たものは、恋に落ちる男の顔ではありませんでした。

「……リナリア」

アルフレッド様の声は、地を這うような低さで響きました。 彼がゆっくりと私の方を向いた時、その瞳の奥には、見たこともないような「暗黒の嫉妬」が渦巻いていたのです。

「君は……あんな平民の女に、見惚れていたのかい?」

「えっ? いや、見惚れていたというか、可愛らしいなと……」

「私という婚約者が隣にいながら、他の女を褒め、挙句の果てに私とその女を並べようとするなんて。……君は、そんなに私を試したいのか?」

アルフレッド様の指先が、私の頬を強引に上向かせます。その瞳は完全に座り、焦点が合っているのかすら怪しいほどです。

「……ああ、わかった。君はあの女が『綺麗』だから、私に近づけたくない……のではなく、君自身が、あの女に興味があるということだね?」

(……は? 殿下、今なんつった?)

「殿下、何を仰って……」

「安心しなさい、リナリア。君の視界を奪うものは、男だろうと女だろうと、私が全て排除してあげる。……ヴィンセント!」

アルフレッド様が鋭く叫ぶと、影のように控えていた秘書官が即座に現れました。

「は。ここに」

「あの女を、今すぐこの広場から消せ。二度とリナリアの目に触れぬよう、教会の奥にでも閉じ込めておけ。……慈悲深く、一生『聖女』としての祈りだけで人生を終えさせてやるんだ」

「かしこまりました」

(ちょ、ちょおーーーーーっと待ったあああ!!)

私の脳内はホワイトアウトしました。 違う! 違うのよ殿下! 私は二人の恋を応援してただけで、私がマリアちゃんを百合的な意味で狙ってるわけじゃないの! というか、聖女マリアをいきなり「幽閉」って、ヒロインの人生を初手で詰ませる気!?

「殿下、お待ちになって! 私はただ、殿下にふさわしい方はどんな方かしらって——」

「私にふさわしいのは君だけだ。それを疑うような口は、二度と開けないようにしてあげようか?」

アルフレッド様の顔が近づき、その唇が私の耳元を掠めます。

「……それとも、あの女の『噂』を君も知っているのかい? 『血の聖女』……。彼女が触れた者は、一時の治癒と引き換えに、魂を蝕まれるというあの話を」

その言葉に、私は背筋が凍りつきました。 先ほど街の人が囁いていた噂。アルフレッド様は、それをただの迷信としてではなく、確定した「害悪」として認識しているようでした。

「彼女は毒だよ、リナリア。……君を害する可能性のあるものは、例え神に選ばれし聖女であろうと、私の手で握りつぶす。……いいね?」

彼の瞳には、一点の曇りもない狂信的な愛だけが宿っていました。 私は、あまりの恐怖に声も出せず、ただコクコクと頷くことしかできませんでした。

教会の階段では、ヴィンセント様と騎士たちに囲まれ、困惑したような、でもどこか不気味に静かな微笑みを浮かべたまま連行されていくマリアちゃんの姿が見えました。 彼女と目が合った一瞬、彼女の唇が「……アルフレッド様」と、音もなく動いたような気がしました。

(……私の知ってる『聖女の祈りと、銀の誓い』が、木っ端微塵に砕けていく音がする……)

推しカプ成立作戦、大失敗。 どころか、ヒロインを「不審な猛毒」として排除したアルフレッド様の独占欲は、ついに限界突破してしまいました。

「さあ、帰ろう、リナリア。……今日のご褒美に、君を離宮の奥深くで、誰にも見られずに愛してあげよう」

「あ、あはは……。……スローライフ、どこ……?」

夕日に照らされた王都の広場。 私は、かつてない絶望感を抱えながら、ガタガタと震える足で馬車へと連行されていくのでした。
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