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2. 言づけ
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「ナターシャ様。よかったのですか?ハンカチを差し上げてしまって。」
キャリーは、少し先を歩くナターシャに後ろから駆け寄り声を掛ける。
キャリーとナターシャは、侍女と侯爵家の令嬢との関係ではあるが、一般的な貴族と侍女との関係とは少し異なっていた。ナターシャのもともとの性格と、ナターシャの両親の育て方によるのかもしれない。侍女との距離感が近いのである。さながら家族のように接しているのだ。
けれど、だからといってキャリーはナターシャを敬っていないわけではない。侯爵家の令嬢の侍女として、線引きしなければならない所はわきまえている。だからこのような他に誰もいない場面でもナターシャ様と敬称を付けて呼んでいるのだ。
「え?いいのよ。あの方はそれなりの貴族か、きっとお金持ちの商家のご婦人だもの。うちの絹が、普段持っているものよりも上質なものだときっと分かってくれると思うわ。それを願って使ってもらえるようにしたのよ。ま、買ってもらえるかは分からないけれどね。それに、御者はあんなに泥だらけで、一生懸命で可哀想だったじゃない?年配であったし、一人でやっていたらいつまで経っても抜け出せなかったわよ。だから労ってあげたかったのよね。」
と、ナターシャはさらりと言った。
テイラー侯爵家で作っている絹を隣のシュナイダー伯爵家でドレスや普段着なんかを作り、販売している。それはやはり上質で、国内の上流階級の貴族や豪商がこぞって購入している。ものがいい為、騎士団や王宮御用達にまでなっているのだ。
隣の領地とは共同事業のようなもので、お互いがなければそんなにも人気が出なかったのだがそこまでナターシャは理解をしておらず、ただ隣の領地とは仲が良いとだけ思っていた。
ハンカチのような簡単なものはテイラー侯爵家でも作っている。今回ナターシャはそれを大量に作って、持ってきたのだ。そして、まだ販売されていないこの隣の国に来て、テイラー侯爵家の絹を知ってもらおうと意気込んで来たのだ。
「まずは、見て、触って、使ってもらわなきゃ分かってもらえないものね。」
ナターシャはその為に、先ほどの貴婦人に渡したのだ。
「太っ腹だなぁ、ナターシャは。お礼って言ってたんだから、購入してもらえばよかったのに。」
「あら!エド、それじゃあよくないわ。初めから交渉しに行っているわけじゃないし、私は十五歳なのだから、私があの場で購入して、と言ってもはいそうですか、と買ってもらえるかは分からないもの。」
「それはそうだけどよ、その持ってきたハンカチ全部売るつもりだろうに。それじゃいつまでかかるか分かったもんじゃないね!」
エドとキャリーが持ってきた荷物には、日常で使う物の他に販売用のハンカチを合わせて大きな麻袋二つ分持ってきたのだ。
ナターシャは、いつか家督を引き継ぐ為に勉強している長兄ジョニーと、長姉のジンジャーにも早く帰っておいでと言われている。もちろん両親にも。
つまり別に頼まれたわけでもないのだが、ナターシャは、自分の実家が行っている事業に誇りを持っていた。だからこそ、更なる発展を遂げたいとまだ見ぬ隣国へと来たのだ。
「でも、まだ販路拡大を抜きにしても、見知らぬ街って楽しいじゃない?私は王立学院にも通ってないし、来年の社交界デビューもするつもりもないもの。貴族の世界よりもこうやって外の世界のが活気があって好きだわ。」
「それこそ、よろしかったのですか?十三歳から通える王立学院に通われた方が…」
「あら。お母様も通っていなかったと言っていたじゃない。お父様は私の気持ちを尊重してくれて家庭教師を付けてくれたし。学院に通うはずだった時間を、領地に目を向ける事が出来て良かったわ。こんな風に、国を出る事もなかったでしょうし。」
「ま、とりあえず旦那様から大量の資金をもらえたし、宿屋を目指そうぜ!荷物を置いたら、商人組合へ登録をしに行かないとな。」
エドがそう言い、宿屋の並ぶ一角を探していく。
商人組合へは、ハンカチを販売するにあたって許可をもらう為に行くのだ。
ナターシャは、これからの事を考えてワクワクしながら向かった。
「まぁ!素敵な宿ね!!良いのかしら。」
そこは、ナターシャの父フォルスが探し出した信頼の置ける高級宿屋だった。
侯爵家の令嬢が泊まるからにはそこらの防犯もしっかりしていない宿屋だと困ると必死に他国の情報を集めて探し出したのだった。
エドもキャリーも、護衛の教育は一通り受けている。それにこの国もそれなりに治安がいい為、護衛を新たに雇う必要も無く、気の置ける間柄でと出発を認めたのだ。
「ナターシャは侯爵令嬢なんだぜ。良いに決まってるだろ。ま、俺達もこんな高級宿屋に泊まれるなんてこの先ないかもしれない!キャリーも楽しもうぜ!」
「ナターシャ=テイラー様、言づけがございます。」
宿屋の受付を済ませ、部屋でゆっくりと荷物を整理してから一階に降りてくると、そう受付に呼び止められた。
「え?言づけ?お父様かしら。」
ナターシャは、受付に近寄った。
「『先ほどは素晴らしいハンカチをありがとう。今日の午後、お迎えに上がるわ』との事です。」
(え?ハンカチって、さっき助けた人だと思うのだけれど、お迎え?どういう事?もしかして、購入してくれるのかしら?)
ナターシャは、
(確かにうちの絹はどこよりも上質だと思うけれどそんなに早く?)
と疑問に思うのであった。
キャリーは、少し先を歩くナターシャに後ろから駆け寄り声を掛ける。
キャリーとナターシャは、侍女と侯爵家の令嬢との関係ではあるが、一般的な貴族と侍女との関係とは少し異なっていた。ナターシャのもともとの性格と、ナターシャの両親の育て方によるのかもしれない。侍女との距離感が近いのである。さながら家族のように接しているのだ。
けれど、だからといってキャリーはナターシャを敬っていないわけではない。侯爵家の令嬢の侍女として、線引きしなければならない所はわきまえている。だからこのような他に誰もいない場面でもナターシャ様と敬称を付けて呼んでいるのだ。
「え?いいのよ。あの方はそれなりの貴族か、きっとお金持ちの商家のご婦人だもの。うちの絹が、普段持っているものよりも上質なものだときっと分かってくれると思うわ。それを願って使ってもらえるようにしたのよ。ま、買ってもらえるかは分からないけれどね。それに、御者はあんなに泥だらけで、一生懸命で可哀想だったじゃない?年配であったし、一人でやっていたらいつまで経っても抜け出せなかったわよ。だから労ってあげたかったのよね。」
と、ナターシャはさらりと言った。
テイラー侯爵家で作っている絹を隣のシュナイダー伯爵家でドレスや普段着なんかを作り、販売している。それはやはり上質で、国内の上流階級の貴族や豪商がこぞって購入している。ものがいい為、騎士団や王宮御用達にまでなっているのだ。
隣の領地とは共同事業のようなもので、お互いがなければそんなにも人気が出なかったのだがそこまでナターシャは理解をしておらず、ただ隣の領地とは仲が良いとだけ思っていた。
ハンカチのような簡単なものはテイラー侯爵家でも作っている。今回ナターシャはそれを大量に作って、持ってきたのだ。そして、まだ販売されていないこの隣の国に来て、テイラー侯爵家の絹を知ってもらおうと意気込んで来たのだ。
「まずは、見て、触って、使ってもらわなきゃ分かってもらえないものね。」
ナターシャはその為に、先ほどの貴婦人に渡したのだ。
「太っ腹だなぁ、ナターシャは。お礼って言ってたんだから、購入してもらえばよかったのに。」
「あら!エド、それじゃあよくないわ。初めから交渉しに行っているわけじゃないし、私は十五歳なのだから、私があの場で購入して、と言ってもはいそうですか、と買ってもらえるかは分からないもの。」
「それはそうだけどよ、その持ってきたハンカチ全部売るつもりだろうに。それじゃいつまでかかるか分かったもんじゃないね!」
エドとキャリーが持ってきた荷物には、日常で使う物の他に販売用のハンカチを合わせて大きな麻袋二つ分持ってきたのだ。
ナターシャは、いつか家督を引き継ぐ為に勉強している長兄ジョニーと、長姉のジンジャーにも早く帰っておいでと言われている。もちろん両親にも。
つまり別に頼まれたわけでもないのだが、ナターシャは、自分の実家が行っている事業に誇りを持っていた。だからこそ、更なる発展を遂げたいとまだ見ぬ隣国へと来たのだ。
「でも、まだ販路拡大を抜きにしても、見知らぬ街って楽しいじゃない?私は王立学院にも通ってないし、来年の社交界デビューもするつもりもないもの。貴族の世界よりもこうやって外の世界のが活気があって好きだわ。」
「それこそ、よろしかったのですか?十三歳から通える王立学院に通われた方が…」
「あら。お母様も通っていなかったと言っていたじゃない。お父様は私の気持ちを尊重してくれて家庭教師を付けてくれたし。学院に通うはずだった時間を、領地に目を向ける事が出来て良かったわ。こんな風に、国を出る事もなかったでしょうし。」
「ま、とりあえず旦那様から大量の資金をもらえたし、宿屋を目指そうぜ!荷物を置いたら、商人組合へ登録をしに行かないとな。」
エドがそう言い、宿屋の並ぶ一角を探していく。
商人組合へは、ハンカチを販売するにあたって許可をもらう為に行くのだ。
ナターシャは、これからの事を考えてワクワクしながら向かった。
「まぁ!素敵な宿ね!!良いのかしら。」
そこは、ナターシャの父フォルスが探し出した信頼の置ける高級宿屋だった。
侯爵家の令嬢が泊まるからにはそこらの防犯もしっかりしていない宿屋だと困ると必死に他国の情報を集めて探し出したのだった。
エドもキャリーも、護衛の教育は一通り受けている。それにこの国もそれなりに治安がいい為、護衛を新たに雇う必要も無く、気の置ける間柄でと出発を認めたのだ。
「ナターシャは侯爵令嬢なんだぜ。良いに決まってるだろ。ま、俺達もこんな高級宿屋に泊まれるなんてこの先ないかもしれない!キャリーも楽しもうぜ!」
「ナターシャ=テイラー様、言づけがございます。」
宿屋の受付を済ませ、部屋でゆっくりと荷物を整理してから一階に降りてくると、そう受付に呼び止められた。
「え?言づけ?お父様かしら。」
ナターシャは、受付に近寄った。
「『先ほどは素晴らしいハンカチをありがとう。今日の午後、お迎えに上がるわ』との事です。」
(え?ハンカチって、さっき助けた人だと思うのだけれど、お迎え?どういう事?もしかして、購入してくれるのかしら?)
ナターシャは、
(確かにうちの絹はどこよりも上質だと思うけれどそんなに早く?)
と疑問に思うのであった。
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