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14. 屋敷の中

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 部屋を出ると、廊下の窓を拭いているリュセと同じワンピースを着た、リュセよりも年上の女性がいた。


「!」


 リュセは、エレナに素早く断りを入れ、その侍女へと近付き、小さな声で話し掛ける。


「ちょっと!ここはお客様がいらしたからやらないってさっき決まったでしょう?聞いてなかったのですか?」

「あら。でもお客様がいるからこそ綺麗にした方がいいのでしょ?」


 そのやりとりはエレナにも聞こえ、エレナは自分がいきなり滞在する事になったからなのだと申し訳なく思い、口を開いた。


「ごめんなさい。私が部屋を使うから、変更になったのよね。
…あら?でも、窓を拭いていたの?」

「ええ、そうよ。」

「ちょっと、スーザン!その言葉遣い!」

「リュセ、いいわ。
ねぇ、あなたやり方を知らないのかしら。雑巾は水を良く絞るのよ?そしてその後にから拭きしないと拭き筋が残るわ。ほら。」


 見ると、雑巾をしっかりと絞っていない為に水が垂れ、窓を滴っていたのだ。これでは、窓を拭いているとはいえないだろうとエレナは助言する。


「良く絞ったわ。これ以上絞ったら、手が痛くなるもの。」

「スーザン。あなたは今仕事をしているのでしょう?手が痛くなる事もあるわよね。でも、そうならないように工夫するのも、仕事の効率を上げる為に必要だと思うわ。」

「工夫?
仕事なんて、時間がくれば終わるのだもの。工夫なんてするだけ面倒だわ!」

「スーザン!
…申し訳ありません、エレナ様。良く言って聞かせますから。少し部屋でお待ちいただけますか?」

「痛っ!ちょっと、リュセ、何よ?離してよ!」


 リュセは同僚の振る舞いが恥ずかしく思い、注意するも聞く耳を持たない為に、お客様であるエレナにはこれ以上聞かれないように別室へ連れて行こうと腕を引っ張った。


「いいのよ、リュセ。離してあげて。
ねぇ、もしかしてスーザンはいつもなの?」

「…はい。」

「こうってなによ!?」


 リュセは怒られるのではないかとビクビクとしながらそう答える。
一方スーザンは、苛立ちを抑えずに強い口調でそう答えた。


「ここって、領主様のお屋敷じゃなかったかしら?」

「そうでございます。」

「領主様…そうね。ジェオルジェ様の屋敷よ。あんた、知らないの?」

「スーザン!!」


 リュセは顔色を真っ青にして叫んだ。もう今にも倒れそうである。



「リュセ、私は大丈夫。それ以上怒ったら体に悪いわ。
ねぇ、スーザン。もし私がとても位の高い人だったらどうするの?粗相したら、それって侍女のスーザンのせいではなく、このお屋敷の主のジェオルジェ様のせいって事になるのではない?スーザン、違う?」

「!そ、それは…」

「ジェオルジェ様のせいってなったら良くないと思わない?」

「……」


 エレナの言葉に、スーザンは何も答えられなくなった。


「やり方が分からないなら教えてもらえばいいのよ。
雑巾だって、こうやって縦に持って絞れば、横で持って絞るよりもたくさん水が切れるし。」

「へー、よく知ってるのね。あんたも侍女なの?」


 開き直ったスーザンはそう言った。


「私は侍女ではないわ。
それよりも、与えられた仕事はしっかりやった方が身の為よ?どこで誰に見られているか分からないわよ。」

「な…!え、まさかジェオルジェ様が見てるとでも!?やだ!そうよね、頑張ったら見初めてもらえるかも!」

「…そうかもしれないわよ。頑張ってね。」

「ええ、ありがと!やる気出てきたわ!」


 そう言ったスーザンは鼻歌を歌いながら、窓拭きを再開し始めた。


「リュセ、行きましょ。」

「あ…はい。エレナ様…申し訳ありませんでした。」

「あら、リュセはもうさっき謝ってくれたでしょ?リュセのせいではないわよね?
スーザンの意識の問題だったもの。」

「あの…怒ってはおられないのですか?」

「怒る?私が?怒ってないわ。」

「そう、ですか…。」


(?リュセ、不思議そうだわ。どうしてなのかなぁ?あ、スーザンさんの口調の事?
そういえば、私スーザンって呼び捨てにしたけど良かったのよね…?ヨシフもリュセも呼び捨てにしてって言ったから、ああいう使用人の仕事をしている人は呼び捨てにするのかと思ったのだけど、違ったらどうしよう…まぁ、スーザンも良く分からないけれどご機嫌だったから大丈夫よね。)


「スーザンは、いつも仕事は適当にやるので困っていたのです。ですから…ありがとうございました。」

「そうなのね。リュセが助かったなら良かった!
ねぇ、私スーザンさんの事いきなりスーザンって呼んでしまったけど、良かったのかな。」

「はい。私共使用人の事は呼び捨てで構いません。
…こちらから、外へ出られます。」


 そう言ってエレナが案内された先は、植物園に来たような、どこか広い公園に来たような気がするほど手入れが行き届いた庭であった。



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