【完結】〝終の山〟と呼ばれた場所を誰もが行きたくなる〝最高の休憩所〟としたエレナは幸せになりました。

まりぃべる

文字の大きさ
25 / 29

25. 国境へ

しおりを挟む
 エレナは、ジェオルジェが向かう国境警備隊の凶暴な野生動物の討伐に共に向かう事となった。名目は、ジェオルジェの両親への挨拶である。




 エレナがアンドレイ邸に来て、一ヶ月目と、二ヶ月目の時はエレナを置いて出掛けていたジェオルジェだった。
 しかし両親が、明らかに顔つきが変わった息子に、何があったのかを無理やり聞き出し、好きな人と一緒に住んでいると聞くやいなや、何度も連れて来いと言ったのだった。
 ジェオルジェは、まだ連れて行きたくなかった。なにせ、自分の気持ちは伝えてもいないのだ。なのに自分の両親に紹介するなんてどう説明すればいいのか分からなかったのだ。
 だから二ヶ月目には連れて行かなかっのに、その事で今までにないほどにしごかれ、帰るのもいつもより遅く二十日ほども滞在してしまった。

 だから結局、三ヶ月目にはエレナを連れて行く事としたのだった。

 ジェオルジェは、エレナと離れたく無いという気持ちもあったから…。


 だからと言って、ジェオルジェはエレナにまだ直接気持ちを伝えてはいない。可愛いだの、素敵だのと伝えても冗談言わないでとエレナは躱しているので、伝えたところで今の関係が壊れてしまうなら、まだ曖昧な今の関係が続くだけでいいと思っていたのだ。


 

 エレナは、両親がエレナに会いたがっているから一緒に来てくれないかという誘いが来た時に、まずかなり驚いた。
なぜって、エレナは借りた服の持ち主母のキャルリも、ジェオルジェの父親ももう生きていないと勝手に思い込んでいたからだ。


(私、大変に失礼な事を思ってしまってたのね…。
だって、ジェオルジェは二十五歳なのにこのアンドレイ邸には一人で住んでいると言っていたもの。
服を借りた時も、もう着る人がいないからエレナが着ると喜ぶとかいろいろと言ってくれていたし。だからてっきり…。
服を借りていたのも、ジェオルジェのお母様にきちんとお礼を言わないといけないわよね。)


 エレナは途端に緊張したが、ジェオルジェと一緒に出掛けられるのは嬉しいとも感じていた。




☆★

「ねぇ、〝最高の休憩所〟を更に増築するって本当?」



 今は、国境警備隊がいる砦まで向かう馬車の中だ。

 エレナは、時折〝終の山〟に遊びに行っている。だが、行く度にその場所の姿は変わっているのだ。

 なぜか。

 それは、改修工事をし始めると、そこは珍しい沸き湯がある為に、そこで作業する工事業者はとても期待した。
 そして、食事もマダリーナが作る為にとても美味しいと評判となった。
元々工事業者はルウサドルイ街の者がほとんどで、そこでマダリーナが営んでいた店の常連でもあった。だが、マダリーナがその店から居なくなり、どうにも味が違うと残念に思ったそうだ。
それなのに、このような場所でまさか食べられるとはと、泣いている者さえいた。


「また、ルウサドイ街で店をやらないのか?」


 と、工事業者の皆に何度も言われたが、マダリーナは再び街へ帰る事を拒んだ。もう息子の店だから、私はここに居ると言って。


 それが噂となり、たまに〝終の山〟へやってくる者が増え始める。
食料を持って来る者や、何か手伝います、と来るのだ。
〝終の山〟の住人達はどうしたものかと顔を見合わせ、でもまぁせっかく来てくれたのだからと感謝の気持ちとしてマダリーナが食事を振る舞ったり、沸き湯に入っていかせたりした。


 それがまた、噂が広まってどんどんと訪れる人の数が増える事となり。

 人がいきなり尋ねてくると自分達のやりたい事が出来ずに応対するのが大変だと、アンがエレナへ愚痴った。
それを聞いたエレナは考え、もうせっかくなら休憩所をやったらどうかと言った。
 人をもてなす職員は募集し、来た客には農作業を手伝ってもらい、沸き湯にも入ってもらう。そしてマダリーナの食事を振る舞う。それからビアンカや他の住人が作ったものもそこで販売をする。
 結果は大成功だったそうで、しかもそこの従業員に就職するのはものすごい倍率で人気な就職先となったのだった。


 二つある沸き湯も整備をし、人が入る場所と、野生動物が入る場所を分ける事とした。野生動物側は壁を取っ払って入り易くして、逆に人が入る側はもっと丈夫な壁を作り隙間が無いようにした。そうする事で、動物達は入りやすい方に入るから、それに怖がる人や、逆に野生動物が驚き危害を加える恐れも無くなったのだ。


「また商売をする事になっちゃったよ。でも、楽しいもんだね。これもエレナのおかげだね!」


 とマダリーナはカッカッと笑い声を上げながらエレナに報告してくれたのだ。

 そこの名前は〝最高の休憩所〟という名前になった。
悲しい気分になる名前では無く、どうせなら嬉しくなるように、とその名前にしたのだ。実際、尋ねてくる人はワクワクと胸を躍らせて来て、帰る人はまた来たいと思うようになっていた。

 そして、ルウサドルイ街から山を上った分かれ道の看板には、今ではこちら側はバツ印ではなく〝最高の休憩所〟としっかり見やすい字で書かれている。





「ん?ミルチャから聞いたのか?そうだよ、もう少しゆったりとした大きな造りにしようという事になったんだよ。
人が来ると、居場所がなくて外に置いたベンチなどに座ってもらっていると言っていたからね。」

「そうなんだ。
良かったわ、受け入れられて。」

「そうだね。風評被害も無く、逆に住人の肌つやがいいから、年齢が上がってもああなりたいと常連客もたくさんいるらしい。」

「あら!私も常連客よ?」

「ハハハ、そうだね。
あの湯は気持ち良いからな。何度も入りたくなる。」

「マダリーナさんの腰が治ったように、体調も調うみたいだもんね!」

「あぁ。我が家にも沸き湯があれば、エレナももっと喜ぶだろうに。」

「私、最初に泊まらせてもらった時、あると思ってたわ。お風呂も、部屋に同じような沸き湯の湯を入れるのかなって。
だって、領地で一番偉い人の屋敷なのに。」

「あの場所は、元々国境警備隊の宿舎だったからね。それを手直ししただけだからね。」

「そうだったのね。
…そういえば、エイデルさんが種や苗を植えてもすぐに花が咲く場所があるって。地面も心なしか温かいみたい。もしかしたら、掘ったら湧き出てくるかもしれないわよ?」

「そうなのか?
よし、帰ったらやってみようか。」

「楽しそう!でも、出なかったらごめんね?」

「いいよ。今までだって無かったんだ。そうそうあるものだなんて思っていない。出たら幸運だけどな。
お、そろそろつくぞ。」


 そう言ったジェオルジェの声に、エレナは馬車の小窓の外へ視線をやった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...