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本編

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私がこちらの世界に来て、1ヶ月程が経った。
もう、護衛の方達の顔もだいぶ覚え、王宮も、図書館などの普段行くところなら迷わずに行けるくらいになった。護衛の人は、人数が多いのか、昼夜問わず居てくれるらしい。申し訳ないくらいだわ。






「今日のお茶の時間は、誰か来るの?」

いつものお茶の時間としか聞いていなかったけれど、タリアとサンディが飾りがたくさん付いた服を用意してくれていた。

「はい!久しぶりにルークウェスト様が来られるのですわ!」
「ルークウェスト様?」
「ルーク様でごさいますよ。マリア様は早々に愛称でお呼びされていましたから、本名をお忘れですか?公式の場では、本名でお願いしますよ。」
そ、そうだったわ…。すっかり忘れてたわ。

「え?でも、こんなにステキなワンピース、いつもは着なかったわよね。」

「ルークウェスト様が来られるのですから、おめかしは当然ですよぅ。そのワンピース、お色が青ですよね。ルークウェスト様の瞳の色!良いですね!私も早く、好きな人の色に包まれたい…!」
「これ、サンディ。手が止まってますよ。」
「サンディ…。そう言われると恥ずかしいじゃない。違う色の服はないの?」
「まあ!私どもに不手際がありましたか!?ルーク様の色は気に入らないと…」
「タリア!そんな事は言っていないわ。そう指摘されると、恥ずかしいのよ…。」
「大丈夫ですよぉ。ルークウェスト様もお喜びになりますって!マリア様も、嬉しいですよね?」
「ま、まあ…。」

でも、ルーク様、自分の色だなんて気付くかしら。やっぱり、包まれるだなんて、恥ずかしい…。

「でも、ダンスパーティーとかだと、婚約者の色を纏うのは普通って言うじゃないですか-?ステキですよぅ!」
「そうなの?」
「男性は、自分のものだ!って感じで、女性は、貴方のものですって意味合いがあるみたいですよ-!」
「ほらほら、遅れるといけませんよ。サンディ、手を動かしなさいな!」
「はーい。」

ダンスパーティーかぁ。そういえば、タリアから教わったけれど、実際に踊った事はまだないな…。






「夜会ですか?」
「ああ。父上も兄上も、元気に動き回れるようになってきた。だから回復祝いの舞踏会を開こうと言う事になった。」
「そうなんですね。」

回復してきて、本当良かった!

「それで、マリアも参加して欲しいのだが、いいだろうか?それでだな…ドレスを送ろうと思うのだか、いいか?」
「え!良いのですか?ドレスって、あるものではいけないのですか?」
「いや、出来れば、新しいものを準備したいのだが…。」
「よ、よろしくお願いします…。」

恥ずかしいな…。もう。サンディが変な事言うから!







ドレスは、結局、タリアとサンディ、そしてルーク様が私よりも張り切って考えてくれた。ま、私は正直ドレスは流行も含めて良く分からないから考えてくれて助かったけど。ただルーク様も一緒になって考えてくれたのは意外で。ちょっと…嬉しかったな。

「マリア様、出来上がりを楽しみにして下さいね!もうこれ以上ないドレスになってますから!」
サンディがウットリした表情で、両手を胸の前で組みながら言ってくれた。

「あ、ありがとう。心強いわ。」






    ☆★☆★☆★☆★

あれから、ドレスを作ってもらったり、ダンスの復習をしたり、忙しく時は過ぎいつの間にか本番の日になった。
夕方から夜会らしいのだけど、昼食を食べたら湯浴みをしたりマッサージをしてもらったり。いつもにも増して全身磨き上げられた気がする。
支度が済んだ頃には、まだ始まってもいないのにグッタリしてしまった。

「はー。夜会って、こんなに準備が大変なのね。知らなかったわ。」
ソファにもたれ掛かりたいわ!でも、ドレスのスカートの下にパニエを履いているから、スツールに座るしかない。姿勢を正しつつ、深いため息をついてしまう。

「マリア様、大丈夫ですよぅ。会場はキラキラしてますよ!楽しめますから!あ、お腹空きませんか?会場ではそんなに食べられませんから、今のうちに少し摘まんじゃって下さーい。」
と、サンディがワゴンに乗せて軽食を持って来てくれた。

サンディが入れてくれる紅茶は、いつもとても美味しい。疲れた体に染みわたるようだ。
お腹も空いていたので、一口大にカットしてくれたサンドイッチと、これまたフルーツを頂く。んー美味しい!

最近タリアは、元気になってきた第一王子殿下に付いている時間が増えてきている。なかなか、後任の侍女探しが難航しているみたい。第一王子殿下が好き過ぎて事件を起こしたみたいだから、万が一にでもまたそうならない様に下心がない人がいいらしいんだけど、それを見分けるのが難しいとタリアが愚痴を零していた。見目麗しいと、そんな贅沢な悩みがあるのね。
あら?そうしたら、ルーク様にも侍女がいるのかしら?んーそう考え出したらちょっとモヤモヤしてきちゃったわ。何でだろう…。



今、この部屋にはサンディしかいない。いつもお茶の時間は、街で新しい店が出来たとか、雑貨店の品物が珍しかったとか、いろんなおしゃべりをしてくれるけれど、今日は静かに扉の近くで立ってくれている。私は食べているから有り難い。

コンコンコン。

と、扉をノックする音がした。サンディが確認してくれて、私に礼をして、出て行ってしまう。それと入れ替わるように入って来たのは、ルーク様だった。
ルーク様も、正装らしくいつもに増して格好いい…。
上は濃い青色のタキシード。金糸で刺繍がそこかしこに施してある。首には真っ白いウィングカラーシャツがシワもなく見えている。下のズボンは黒色で、これまたシワもない。

「あ!ルーク様、もうお時間ですか?すみません、食べておりました。」
「いや、まだ時間ではない。俺も頂こう。」
「はい、どうぞ。」

サンディは、ルーク様が居るときは大抵部屋の外へ出て行ってしまう。別に居てくれてもいいと思うのにな。
なので、私がルーク様に紅茶を入れる。

「ありがとう。マリア、そのドレスとても良く似合っている。思った通りだ。ああ、夜会になんて出たくないな…。」
「あ…ありがとうございます。ルーク様もとても…素敵です。」

私のドレスは、上半身は体にフィットして、腰の所からパニエでふんわり広がったドレスだ。
色はルーク様の瞳の色と同じ青。深い海の様な色だ。それに金糸で刺繍が施してある。なんと、王族の象徴である鷹のような鳥が翼を広げたような模様まである。
色味は、ルーク様とお揃いだ。
サンディが言っていた、ルーク様の見た目である、金髪と青眼の色に包まれているようで実はずっとソワソワしている。でも、ルーク様が似合っていると言ってくれたので、なんだかとても安心した。

「マリア…言っておきたいことがあるんだが。」

そう言って、ルーク様は私が入れた紅茶
を一気に飲み干すと、一呼吸おいて、今座ったソファから立ち、私の横に跪いた。

えっ!?

「マリア。この世界に来てくれてありがとう。いや…母上が勝手に連れて来てしまったとはいえ、マリアで良かった。傍で生活し、話をするうちにマリアと一緒にいるのが嬉しくある自分に気づいた。毒を飲まされそうになって倒れた時は、目覚めるまで気が気でなかった。これからの時間を共に歩んで欲しい。結婚して欲しいんだ。」

そう言って、私の右手を取る。

えー!うそ!!
私は、自分の顔に熱が溜まるのが分かった。熱いもの。きっと真っ赤になっていると思う。とっても嬉しいかも。

「どうだろうか。」
「…はい!」

私はルーク様の手を握りしめた。
すると、ルーク様はタキシードの内ポケットに入っていた指輪を取り出し、私の手にはめてくれる。
小さくて真っ青な宝石がついた指輪。

「これは、俺の魔力が込められている。身の危険があった時に俺に知らせるようになっている。王家の名前もリングに彫られているんだ。身分の証明にもなるし、いつも付けていて欲しい。」

小ぶりな宝石は、普段使いが出来るようになのかな。私は派手過ぎるのは苦手だから、ありがたい。でもこんな高そうな…ん?王家の、身分の証明…そうだった!ルーク様は王子様だった!!

「やっぱり、結婚は無理です!」
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