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追放という名の…
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「アンネッタ。コジーモが悪かったね。」
アンネッタは、一つの客間に連れて行かれるとすぐに国王陛下からそう言われた。
「え…いいえ。」
アンネッタは、何と答えればいいのか迷いながらそんな言葉をこぼす。あれは完全にコジーモが悪い。公の場で大きな声を上げたからだ。だが、それをはっきり指摘していいものかアンネッタには分からない。国王陛下にも今日初めて会った。初対面の人には自分の名前をしっかり告げなくていいのか、それさえも分からず、失敗だったとあとから男爵を落胆させないといいけれど、とそれだけを思っている。
「アンネッタ。君は、男爵家に養女に入ったんだったね?」
「は、はい!ご挨拶が遅れて申し訳ありません!私は…」
「よいよい。
それでな…君はこの半年、社交界での人気は上り詰め。そうだな?」
「え?えっと…いえ、私ごときがそんな…」
アンネッタは、それにも何と返してよいから迷い、どうにかそのような返事をして俯く。返答に困る時には謙遜し、照れたように俯けばいいと男爵家での教育で教わっていたからだ。
「わが国では見ないその見事な桃色の髪は、そなたにとても良く似合っておる。さながら人間離れしているようにも感じるな。
だか今は愛らしいが、更に成長すれば、国をも揺るがす悪女になるやもしれん。わしももう少し若ければ……」
最後の方はぼそぼそというものだからアンネッタには聞き取れなかったが、それよりも悪女と言われ、顔を上げたアンネッタ。
「!」
「いやいや!わしは踏みとどまった!!あ、いやそうじゃなくだね…アンネッタは、まだ成人しとらん。そうだな?」
「は、はい…私はあと二カ月ほどで十四歳となります。」
この国では十八歳になると大人と認められる。十四歳といえば、まだ子供ではあるがその年齢で婚約者を持つ者もいるし、ガーデンパーティーにも参加出来、大人への階段を登っている最中でもある。
「十四でその色香…やはり危ういな。
アンネッタよ、わしはな、国のトップとして年若い君に言い渡さないとならない言葉があるのだ。」
そういうと、ふーっと大きく息を吐き出してから国王は悪いな、と漏らすと続ける。
「アンネッタ、君を追放させねばならん。」
「……!」
「だがね、わしは鬼畜ではない。これはこの国の未来の為なんだよ、アンネッタに罪は無いんだがね。いや、あるとすればアンネッタのその魅力的な容姿か…
何にせよ、今日でさえアンネッタを巡って言い争いになってしまっただろう?まぁ、あれば愚息の暴走といえばそうなんだが、これから先、同じような事が起きてアンネッタにも実害が及ばないとも限らん。
これは、この国の未来とアンネッタを守る為なんだよ分かっておくれ。」
分かっておくれと言われても、理解が追いつかないアンネッタ。
追放という言葉は重く、何も悪い事してないのに、男爵の言われたように仕事をしていただけなのにと思うアンネッタ。
もしかしたらもう美味しいものが食べられず、遠い昔、母に置いていかれる前の生活に戻るのかと悔しくて目頭が熱くなる。一日に一度、食事を口に出来るかどうかの生活は辛い。母親の顔も覚えていないし、どう生活をしていたのかなんて遥か彼方に置いてきた記憶であるが、お腹がいつも痛かったような思いはなんとなく覚えている。それは、食べた物が傷んでいたのかもしれないし、空腹感を痛みだと勘違いしていたのかもしれない。
雨が降れば濡れない場所を探し、風が強い日には風避けとなる場所を探すそんな生活もしたくない。
「おお、泣くな泣くな!
言ったであろう?わしは鬼畜ではないと。
アンネッタはな、これから貴族とは関わりのない場所で暮らしてもらうだけだ。ロッセッティ男爵家ではない場所だ。そこで、これからの生涯ゆっくりと過ごすがいい。」
優しく労うように言われたアンネッタは、首を傾げる。
「王都の外れの教会だ。ちょっと古めかしいかもしれないが、好きに使えばよい。な?
あとは、従者に聞いてくれるか。
悪いね、愚息とその婚約者の所にも行かねばならんからな。
アンネッタよ、そなたもわが国の民の一人だ。息災でな。」
そう言って、アンネッタの頭をよしよしと優しく撫でてから、部屋の隅に立っていた従者に視線を送ると、国王は名残惜しそうに部屋を出て行った。
☆★
そのあとアンネッタは、一度身支度を整える為にと湯浴みを促された。着替えは持ってきていなかったが、動きやすいくるぶしまでの長めのワンピースが用意されており、返さなくていいと言われた為、ありがたくそれを着る事にした。
王宮を訪れた時とは違う出口から馬車に乗せられ、これからの住処となる教会にやって来たアンネッタ。
昼間に行われていたガーデンパーティーからは時間が経ち、すでに日が暮れようとしている。そんな中で見た教会は、昔は大層立派だったであろう姿で立っていた。
建物は教会というだけあってそれなりに大きく、上にいくにつれて細くとんがり帽子のようになっていたのだが、途中の壁にところどころ木製の板が打ちつけられていた。
正面は大きな背の高い両開きの木製の扉だったが、蝶番がずれているのか歪んでいた。ステンドグラスは壁の半分より上にはめられているのだが、ヒビが入ったり、一つは割れていてそこにはサイズを合わせて木製の板がはめられている。
「趣のある場所ではありますが、奥はちゃんと人が住めるようになっています。」
連れて来た従者はそう取り繕うように言うと、中へと促す。
ギギギと音を立てて正面の扉を開けると、中には雑巾を持ったり箒やはたきをもった数人の男女が動き回っていた。
先ほど、国王から話された時からすぐにこの教会に来て、片付けをしてくれていたのだ。
「掃除はさせていただいてます。が、何分使われなくなって長いもので…けれども雨風は凌げられると思います。」
そう言われれば、確かにありがたいと思うべきだとアンネッタは頷く。
「住まいは奥になると思いますので、奥へどうぞ。」
木製の椅子が左右にずらりと並んだ礼拝堂を通り過ぎる。
意外にも中はそんなに傷んではおらず、掃除をされたからか椅子も普通に座れるようで、礼拝堂へと人が訪れてもおかしくないとアンネッタは思う。
ここは、随分前に管理する者が居なくなりそのままとなってしまったとアンネッタは馬車に乗っている時に説明を受けた。風雨などで壁や天井に穴が空いた所は、管理者がいた頃に出来たものなのかはアンネッタには分からないが、それでもこれからこんな廃れた教会に住むのかと少し不安になる。
ここは王都の西端にあり、その向こうは少し進めば森や山が続く。その山々を越えれば、ロッセッティ男爵家がある港町へと抜けられる。が、もうアンネッタはその道を進んではいけないと言われた。
「ロッセッティ男爵へは、陛下から通達がありますから、気になさいませんよう。
これからは、こちらでゆっくりとお過ごし下さい。」
「義父様には、良くしていただいていたの。それなのに申し訳無いわ…」
アンネッタは、国王の従者にそう吐露すると、従者はさも当然のように口を開く。
「大丈夫です。きっとロッセッティ男爵も、長くは続かないと分かっておられたはずです。」
「え?」
「それに、この半年で充分、アンネッタ様はロッセッティ男爵へ貢献されたのではございませんか?様々なご縁を繋いだと聞き及んでおります。ですので、全く気に病む事はございません。さぁ、これからの事を説明いたしますから食堂へ参りましょう。」
そう言って、従者はアンネッタを奥の居住スペースへと案内した。
☆★
時は数時間遡り、国王はアンネッタに処遇を伝えた後、コージモとロザリンダが待つ部屋に入った。コージモの私室では無く、アンネッタが案内された客室の隣の部屋だった。先ほどの会場からもほど近かった為だ。
「父上!」
「陛下…」
国王が入るとすぐ、ソファに向かい合って座っていたコージモとロザリンダが声を上げる。
二人は、ここに連れて来られてソファに向かい合って座りはしたが、顔はお互い違う所を見ており、口も開いていなかった。
「よい、そのままで。
それより、コジーモよ。まずお前には言い渡さねばならない事がある。」
「は?いきなりなんだよ…」
「兼ねてより、お前の問題行動は何度も議会でも話題に上るほどだったのだが、今回のーーー」
「問題行動!?なんだよ、それ!」
「話は最後まで聞きなさい!
…お前のそういうところだ。いつまでも子供じみた行動をしておってはいかん。お前は今十七歳であろう。あと少しで十八歳、成人となるのだぞ。」
「はぁー…分かってるよ。」
ため息をつきながら返事をしたコジーモに、国王こそため息を吐きたくなる衝動に駆られたが辛うじて抑え、淡々と言葉を繋ぐ。
「分かっとらんから言っておる。婚約者であるロザリンダにも迷惑かけおって。」
「はぁ!?迷惑??
ロザリンダが口煩いからだろう!」
「ではなぜ口煩く言うのか考えた事あるか?」
「そりゃ…気が強い性格だからだろ!」
「ちょっと!」
ロザリンダは黙って聞いてはいたが、さすがに口を挟んでしまう。
「ロザリンダ、済まないね。いや、今まで本当に済まなかった。
では先にロザリンダに聞こう。ロザリンダはこれからどうしたい?」
「え?えっと…どのような意味で言われているのか解りかねます。」
「そうか。では単刀直入に言おう。コージモと添い遂げる気はあるか?」
その言葉を聞き、ロザリンダは身を正すとしっかりと国王を見据えて言葉を繋ぐ。それは、王子妃として学ばされてきた結果がくっきりと表されていた。
「そこに、私の意思は尊重されるのでしょうか。私とコージモ様との婚姻は、国王陛下と私の両親がお決めになった事。私はそれに従うまでと今日よりやってきました。
コージモ様も、第二王子としてするべき事はしっかりとこなして欲しいと私は助言をして参りました。」
「はぁ!?助言じゃねぇよなぁ!?」
「ふむ。そうだな。だが、今回の件で、処遇を決めねばならんのだよ。いい加減コージモの行動は目に余る、そうだろう?
だが、ロザリンダにコージモの世話をしてもらうのもいい加減申し訳ないと思った。だから、今、ここで本心を言って欲しい。」
コジーモは子供のように喚きながら二人の顔を交互に見ながら身を乗り出すが、国王はそれに見向きもせずロザリンダへと応える。
「…ありがとうございます。
私の本心と致しましては、何度言っても聞いて下さらないコージモ様との関係をこれ以上続けるのは難しいと思っております。」
「ふん!俺様だってそうだ!!その点においてだけだが、気が合うな!!」
腕を組み、ソファに体を預けたコジーモ。
「コージモは発言の許可をしておらん、黙っとれ!
…という事はつまり、婚約解消を望んでおる。それでいいか?」
国王は焦れたのかそう語気を強めて告げたあと、ロザリンダには諭すように間違えないよう確認するかのように丁寧に言う。
「はい、仰るとおりです。許されるのであれば、ですが。」
「もっともだな、今まで悪かった。
ではロザリンダの意向を汲み、婚約はコージモの有責で破棄としよう。」
「はぁ!?……」
「…!あ、ありがとうございます!」
「時にコージモ。お前は、これから仕事を与える。一生する仕事だ。」
「一生する仕事?今もしてるよ、王族という仕事をよぉ!」
「…お前の場合、しっかりやっとらんだろ。
まぁいい、それよりもある意味気楽である意味楽しいぞ。」
「気楽!?へーどんな?」
「今まで遊び呆けていた分、しっかりとこなすんだぞ。
東の方で、野菜を育てるのだ。」
「は?」
「まぁ一人ではやり方も分からんだろうからな、師匠と共に生活を送りいろいろと終えてもらいなさい。」
「意味分からん…なんで俺様が!?
てか、騒ぎを起こしたってんなら、ロザリンダもだろう!!」
「!?」
「聞いとらんかったか?ロザリンダはお前に王族としての職務を全うして欲しくて苦言を呈していたまで。親であるわしらが言っても聞かんから、ロザリンダや他の者からの声なら聞くだろうと、自ら気づいて欲しくて放置していたのが裏目に出てしまった。それが今日の事態だ。
…師匠に話は前々からしてあるから、今からでも行ける。コージモ、達者でな。」
「は?え?ちょ…まじかよ…父上、考え直してくれよ、なぁ!」
「ロザリンダ、今まで本当に済まなかったな、ありがとう。」
「いえ、陛下、頭をお上げください!!
今日、婚約破棄とする事を許可していただけただけで結構です。あとは私の両親と話していただけたらと思います。」
「そうだな。ロザリンダ、行こう。」
そう言うと、ロザリンダを伴って部屋を出ようとする国王。
「ちょ…父上!?待ってくれ!なぁ!おい、聞こえてんだろ!?」
コジーモの言葉は、父親には届く事もなく扉を閉められ、空しく部屋に響いた。
アンネッタは、一つの客間に連れて行かれるとすぐに国王陛下からそう言われた。
「え…いいえ。」
アンネッタは、何と答えればいいのか迷いながらそんな言葉をこぼす。あれは完全にコジーモが悪い。公の場で大きな声を上げたからだ。だが、それをはっきり指摘していいものかアンネッタには分からない。国王陛下にも今日初めて会った。初対面の人には自分の名前をしっかり告げなくていいのか、それさえも分からず、失敗だったとあとから男爵を落胆させないといいけれど、とそれだけを思っている。
「アンネッタ。君は、男爵家に養女に入ったんだったね?」
「は、はい!ご挨拶が遅れて申し訳ありません!私は…」
「よいよい。
それでな…君はこの半年、社交界での人気は上り詰め。そうだな?」
「え?えっと…いえ、私ごときがそんな…」
アンネッタは、それにも何と返してよいから迷い、どうにかそのような返事をして俯く。返答に困る時には謙遜し、照れたように俯けばいいと男爵家での教育で教わっていたからだ。
「わが国では見ないその見事な桃色の髪は、そなたにとても良く似合っておる。さながら人間離れしているようにも感じるな。
だか今は愛らしいが、更に成長すれば、国をも揺るがす悪女になるやもしれん。わしももう少し若ければ……」
最後の方はぼそぼそというものだからアンネッタには聞き取れなかったが、それよりも悪女と言われ、顔を上げたアンネッタ。
「!」
「いやいや!わしは踏みとどまった!!あ、いやそうじゃなくだね…アンネッタは、まだ成人しとらん。そうだな?」
「は、はい…私はあと二カ月ほどで十四歳となります。」
この国では十八歳になると大人と認められる。十四歳といえば、まだ子供ではあるがその年齢で婚約者を持つ者もいるし、ガーデンパーティーにも参加出来、大人への階段を登っている最中でもある。
「十四でその色香…やはり危ういな。
アンネッタよ、わしはな、国のトップとして年若い君に言い渡さないとならない言葉があるのだ。」
そういうと、ふーっと大きく息を吐き出してから国王は悪いな、と漏らすと続ける。
「アンネッタ、君を追放させねばならん。」
「……!」
「だがね、わしは鬼畜ではない。これはこの国の未来の為なんだよ、アンネッタに罪は無いんだがね。いや、あるとすればアンネッタのその魅力的な容姿か…
何にせよ、今日でさえアンネッタを巡って言い争いになってしまっただろう?まぁ、あれば愚息の暴走といえばそうなんだが、これから先、同じような事が起きてアンネッタにも実害が及ばないとも限らん。
これは、この国の未来とアンネッタを守る為なんだよ分かっておくれ。」
分かっておくれと言われても、理解が追いつかないアンネッタ。
追放という言葉は重く、何も悪い事してないのに、男爵の言われたように仕事をしていただけなのにと思うアンネッタ。
もしかしたらもう美味しいものが食べられず、遠い昔、母に置いていかれる前の生活に戻るのかと悔しくて目頭が熱くなる。一日に一度、食事を口に出来るかどうかの生活は辛い。母親の顔も覚えていないし、どう生活をしていたのかなんて遥か彼方に置いてきた記憶であるが、お腹がいつも痛かったような思いはなんとなく覚えている。それは、食べた物が傷んでいたのかもしれないし、空腹感を痛みだと勘違いしていたのかもしれない。
雨が降れば濡れない場所を探し、風が強い日には風避けとなる場所を探すそんな生活もしたくない。
「おお、泣くな泣くな!
言ったであろう?わしは鬼畜ではないと。
アンネッタはな、これから貴族とは関わりのない場所で暮らしてもらうだけだ。ロッセッティ男爵家ではない場所だ。そこで、これからの生涯ゆっくりと過ごすがいい。」
優しく労うように言われたアンネッタは、首を傾げる。
「王都の外れの教会だ。ちょっと古めかしいかもしれないが、好きに使えばよい。な?
あとは、従者に聞いてくれるか。
悪いね、愚息とその婚約者の所にも行かねばならんからな。
アンネッタよ、そなたもわが国の民の一人だ。息災でな。」
そう言って、アンネッタの頭をよしよしと優しく撫でてから、部屋の隅に立っていた従者に視線を送ると、国王は名残惜しそうに部屋を出て行った。
☆★
そのあとアンネッタは、一度身支度を整える為にと湯浴みを促された。着替えは持ってきていなかったが、動きやすいくるぶしまでの長めのワンピースが用意されており、返さなくていいと言われた為、ありがたくそれを着る事にした。
王宮を訪れた時とは違う出口から馬車に乗せられ、これからの住処となる教会にやって来たアンネッタ。
昼間に行われていたガーデンパーティーからは時間が経ち、すでに日が暮れようとしている。そんな中で見た教会は、昔は大層立派だったであろう姿で立っていた。
建物は教会というだけあってそれなりに大きく、上にいくにつれて細くとんがり帽子のようになっていたのだが、途中の壁にところどころ木製の板が打ちつけられていた。
正面は大きな背の高い両開きの木製の扉だったが、蝶番がずれているのか歪んでいた。ステンドグラスは壁の半分より上にはめられているのだが、ヒビが入ったり、一つは割れていてそこにはサイズを合わせて木製の板がはめられている。
「趣のある場所ではありますが、奥はちゃんと人が住めるようになっています。」
連れて来た従者はそう取り繕うように言うと、中へと促す。
ギギギと音を立てて正面の扉を開けると、中には雑巾を持ったり箒やはたきをもった数人の男女が動き回っていた。
先ほど、国王から話された時からすぐにこの教会に来て、片付けをしてくれていたのだ。
「掃除はさせていただいてます。が、何分使われなくなって長いもので…けれども雨風は凌げられると思います。」
そう言われれば、確かにありがたいと思うべきだとアンネッタは頷く。
「住まいは奥になると思いますので、奥へどうぞ。」
木製の椅子が左右にずらりと並んだ礼拝堂を通り過ぎる。
意外にも中はそんなに傷んではおらず、掃除をされたからか椅子も普通に座れるようで、礼拝堂へと人が訪れてもおかしくないとアンネッタは思う。
ここは、随分前に管理する者が居なくなりそのままとなってしまったとアンネッタは馬車に乗っている時に説明を受けた。風雨などで壁や天井に穴が空いた所は、管理者がいた頃に出来たものなのかはアンネッタには分からないが、それでもこれからこんな廃れた教会に住むのかと少し不安になる。
ここは王都の西端にあり、その向こうは少し進めば森や山が続く。その山々を越えれば、ロッセッティ男爵家がある港町へと抜けられる。が、もうアンネッタはその道を進んではいけないと言われた。
「ロッセッティ男爵へは、陛下から通達がありますから、気になさいませんよう。
これからは、こちらでゆっくりとお過ごし下さい。」
「義父様には、良くしていただいていたの。それなのに申し訳無いわ…」
アンネッタは、国王の従者にそう吐露すると、従者はさも当然のように口を開く。
「大丈夫です。きっとロッセッティ男爵も、長くは続かないと分かっておられたはずです。」
「え?」
「それに、この半年で充分、アンネッタ様はロッセッティ男爵へ貢献されたのではございませんか?様々なご縁を繋いだと聞き及んでおります。ですので、全く気に病む事はございません。さぁ、これからの事を説明いたしますから食堂へ参りましょう。」
そう言って、従者はアンネッタを奥の居住スペースへと案内した。
☆★
時は数時間遡り、国王はアンネッタに処遇を伝えた後、コージモとロザリンダが待つ部屋に入った。コージモの私室では無く、アンネッタが案内された客室の隣の部屋だった。先ほどの会場からもほど近かった為だ。
「父上!」
「陛下…」
国王が入るとすぐ、ソファに向かい合って座っていたコージモとロザリンダが声を上げる。
二人は、ここに連れて来られてソファに向かい合って座りはしたが、顔はお互い違う所を見ており、口も開いていなかった。
「よい、そのままで。
それより、コジーモよ。まずお前には言い渡さねばならない事がある。」
「は?いきなりなんだよ…」
「兼ねてより、お前の問題行動は何度も議会でも話題に上るほどだったのだが、今回のーーー」
「問題行動!?なんだよ、それ!」
「話は最後まで聞きなさい!
…お前のそういうところだ。いつまでも子供じみた行動をしておってはいかん。お前は今十七歳であろう。あと少しで十八歳、成人となるのだぞ。」
「はぁー…分かってるよ。」
ため息をつきながら返事をしたコジーモに、国王こそため息を吐きたくなる衝動に駆られたが辛うじて抑え、淡々と言葉を繋ぐ。
「分かっとらんから言っておる。婚約者であるロザリンダにも迷惑かけおって。」
「はぁ!?迷惑??
ロザリンダが口煩いからだろう!」
「ではなぜ口煩く言うのか考えた事あるか?」
「そりゃ…気が強い性格だからだろ!」
「ちょっと!」
ロザリンダは黙って聞いてはいたが、さすがに口を挟んでしまう。
「ロザリンダ、済まないね。いや、今まで本当に済まなかった。
では先にロザリンダに聞こう。ロザリンダはこれからどうしたい?」
「え?えっと…どのような意味で言われているのか解りかねます。」
「そうか。では単刀直入に言おう。コージモと添い遂げる気はあるか?」
その言葉を聞き、ロザリンダは身を正すとしっかりと国王を見据えて言葉を繋ぐ。それは、王子妃として学ばされてきた結果がくっきりと表されていた。
「そこに、私の意思は尊重されるのでしょうか。私とコージモ様との婚姻は、国王陛下と私の両親がお決めになった事。私はそれに従うまでと今日よりやってきました。
コージモ様も、第二王子としてするべき事はしっかりとこなして欲しいと私は助言をして参りました。」
「はぁ!?助言じゃねぇよなぁ!?」
「ふむ。そうだな。だが、今回の件で、処遇を決めねばならんのだよ。いい加減コージモの行動は目に余る、そうだろう?
だが、ロザリンダにコージモの世話をしてもらうのもいい加減申し訳ないと思った。だから、今、ここで本心を言って欲しい。」
コジーモは子供のように喚きながら二人の顔を交互に見ながら身を乗り出すが、国王はそれに見向きもせずロザリンダへと応える。
「…ありがとうございます。
私の本心と致しましては、何度言っても聞いて下さらないコージモ様との関係をこれ以上続けるのは難しいと思っております。」
「ふん!俺様だってそうだ!!その点においてだけだが、気が合うな!!」
腕を組み、ソファに体を預けたコジーモ。
「コージモは発言の許可をしておらん、黙っとれ!
…という事はつまり、婚約解消を望んでおる。それでいいか?」
国王は焦れたのかそう語気を強めて告げたあと、ロザリンダには諭すように間違えないよう確認するかのように丁寧に言う。
「はい、仰るとおりです。許されるのであれば、ですが。」
「もっともだな、今まで悪かった。
ではロザリンダの意向を汲み、婚約はコージモの有責で破棄としよう。」
「はぁ!?……」
「…!あ、ありがとうございます!」
「時にコージモ。お前は、これから仕事を与える。一生する仕事だ。」
「一生する仕事?今もしてるよ、王族という仕事をよぉ!」
「…お前の場合、しっかりやっとらんだろ。
まぁいい、それよりもある意味気楽である意味楽しいぞ。」
「気楽!?へーどんな?」
「今まで遊び呆けていた分、しっかりとこなすんだぞ。
東の方で、野菜を育てるのだ。」
「は?」
「まぁ一人ではやり方も分からんだろうからな、師匠と共に生活を送りいろいろと終えてもらいなさい。」
「意味分からん…なんで俺様が!?
てか、騒ぎを起こしたってんなら、ロザリンダもだろう!!」
「!?」
「聞いとらんかったか?ロザリンダはお前に王族としての職務を全うして欲しくて苦言を呈していたまで。親であるわしらが言っても聞かんから、ロザリンダや他の者からの声なら聞くだろうと、自ら気づいて欲しくて放置していたのが裏目に出てしまった。それが今日の事態だ。
…師匠に話は前々からしてあるから、今からでも行ける。コージモ、達者でな。」
「は?え?ちょ…まじかよ…父上、考え直してくれよ、なぁ!」
「ロザリンダ、今まで本当に済まなかったな、ありがとう。」
「いえ、陛下、頭をお上げください!!
今日、婚約破棄とする事を許可していただけただけで結構です。あとは私の両親と話していただけたらと思います。」
「そうだな。ロザリンダ、行こう。」
そう言うと、ロザリンダを伴って部屋を出ようとする国王。
「ちょ…父上!?待ってくれ!なぁ!おい、聞こえてんだろ!?」
コジーモの言葉は、父親には届く事もなく扉を閉められ、空しく部屋に響いた。
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