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3. 結婚式当日
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「家の為に君と結婚をしたが、俺は不本意である。悪いが俺には好きな人がいる。…よって、君には公爵夫人としての振る舞いは公の場ではしっかりとやって欲しいが、それ以外は何も求めない。好きにしてくれ。」
私は、自分の結婚式に初めて会った夫となる人から、このような言葉を聞かされた。
艶やかな光沢がある、腰から下がフワリと広がっている高級感のある純白のウエディングドレスを着て、ヴェールを頭からかぶった私に、初めてお会いしたアンセルム様の開口一番の言葉がこれであったので、一気に気持ちが沈んでしまった。
視線を合わせず、全くこちらを見てくれないのも合わせて余計に心が沈み込んだ。
アンセルム様は、闇に溶けてしまうような真っ黒な軍服を着ているし、背も私よりかなり高く体つきもがっちりとされているので、余計に威圧感があった。
私は、今日アンセルム=ベンティクス様と結婚式を挙げる。
ベンティクス家は公爵家で、私はそちらに嫁入りする為、貴族や近隣諸国の王族、ここスラグネス国の王族などたくさんの人達の前で誓いを述べないといけないのに、新婦の部屋に入ってきて早々に初対面であるのにそう言われ、私は頭を強く殴られたような思いがした。
確かに私達の結婚は、ソランデル伯爵家の当主であるお父様から三ヶ月後程前にいきなり言われた、いわば政略結婚なのだから、愛し合えなくても仕方がないと思っていた。
それでも、互いに支え合える程度の家族の情は芽生えるかと思っていたのに。
「俺の想い人は、このハンカチを何の躊躇いも無くくれたのだ。」
「そ…うですか………」
胸元から白っぽいハンカチを大事そうに出し、直ぐさまそれをしまったアンセルム様はやはりこちらをチラリとも見なかった。
愛する人がいるのに、なぜ私と結婚をする事になったのか。きっと私の実家であるソランデル伯爵家が有する、〝パワーストーン鉱山〟の所有権を共有したいのかもしれないわね。
だってそれ位しか、魅力が無いもの。
うちは、一歳年下の弟フランシスがお父様の跡を継ぐから、全所有権を引き継げるわけではないけれど、きっとベンティクス公爵家が、優先して融通して欲しいと縁深くなりたいとでも思ったのでしょうか。
ある意味、アンセルム様は自分の想いを抑えなければならない被害者なのかもしれないけれど、何もそんな不機嫌を全身で表した雰囲気で今、言わなくても…と思う。
だって、今から王宮で、国王のオロフ陛下の前で誓いの言葉を述べるのよ?
陛下…私達は嘘を付きます…。
「安心しろ、我が公爵家に泥は塗れない。君を不遇していると噂されてもかなわないからな。生活は保障しよう。だが、私は邸に帰らない。私が何をしているか知っているか?」
「は、はい…。悪獣討伐軍の、指揮官でしたでしょうか?」
悪獣は、人間に悪さをする獣だ。それをアンセルム様は魔力を使い、討伐する。
国境の、東側の森に頻繁に出没するので主にそれを討伐している。
討伐軍には十二歳の頃から入団し、今年で十一年。今ではこの若さでトップにまで上り詰めたのは、実力がずば抜けていると言われている。
「そうだ。正確には総司令官だ。いつ、何があってもすぐに動けるよう、王宮内にある軍の本部で寝泊まりしているからそのつもりで。」
「…分かりました。」
「では行こう。」
そう言って、アンセルム様は私に近づいて腕を取り、エスコートをする。
端から見れば、完璧なまでのエスコート。
「公の場だ。少しは笑え。」
(そう言われたけれど、あの会話をした後にニコニコと出来るほど、私の心は鈍感ではないのよ!)
…そう言えたらどんなにいいか。
けれど私だって、貴族令嬢であるし、結婚の話をされた三ヶ月前から、公爵夫人になれるように必死に作法や知識の勉強をしてきたもの。
控室から出て、第一ホールへと向かう。たくさんの人々が待つ場所へ向かうまでに私も平常をどうにか取り戻し微笑みを顔に貼り付け、完璧なエスコートをされながら国王陛下の元へと向かった。
私は、自分の結婚式に初めて会った夫となる人から、このような言葉を聞かされた。
艶やかな光沢がある、腰から下がフワリと広がっている高級感のある純白のウエディングドレスを着て、ヴェールを頭からかぶった私に、初めてお会いしたアンセルム様の開口一番の言葉がこれであったので、一気に気持ちが沈んでしまった。
視線を合わせず、全くこちらを見てくれないのも合わせて余計に心が沈み込んだ。
アンセルム様は、闇に溶けてしまうような真っ黒な軍服を着ているし、背も私よりかなり高く体つきもがっちりとされているので、余計に威圧感があった。
私は、今日アンセルム=ベンティクス様と結婚式を挙げる。
ベンティクス家は公爵家で、私はそちらに嫁入りする為、貴族や近隣諸国の王族、ここスラグネス国の王族などたくさんの人達の前で誓いを述べないといけないのに、新婦の部屋に入ってきて早々に初対面であるのにそう言われ、私は頭を強く殴られたような思いがした。
確かに私達の結婚は、ソランデル伯爵家の当主であるお父様から三ヶ月後程前にいきなり言われた、いわば政略結婚なのだから、愛し合えなくても仕方がないと思っていた。
それでも、互いに支え合える程度の家族の情は芽生えるかと思っていたのに。
「俺の想い人は、このハンカチを何の躊躇いも無くくれたのだ。」
「そ…うですか………」
胸元から白っぽいハンカチを大事そうに出し、直ぐさまそれをしまったアンセルム様はやはりこちらをチラリとも見なかった。
愛する人がいるのに、なぜ私と結婚をする事になったのか。きっと私の実家であるソランデル伯爵家が有する、〝パワーストーン鉱山〟の所有権を共有したいのかもしれないわね。
だってそれ位しか、魅力が無いもの。
うちは、一歳年下の弟フランシスがお父様の跡を継ぐから、全所有権を引き継げるわけではないけれど、きっとベンティクス公爵家が、優先して融通して欲しいと縁深くなりたいとでも思ったのでしょうか。
ある意味、アンセルム様は自分の想いを抑えなければならない被害者なのかもしれないけれど、何もそんな不機嫌を全身で表した雰囲気で今、言わなくても…と思う。
だって、今から王宮で、国王のオロフ陛下の前で誓いの言葉を述べるのよ?
陛下…私達は嘘を付きます…。
「安心しろ、我が公爵家に泥は塗れない。君を不遇していると噂されてもかなわないからな。生活は保障しよう。だが、私は邸に帰らない。私が何をしているか知っているか?」
「は、はい…。悪獣討伐軍の、指揮官でしたでしょうか?」
悪獣は、人間に悪さをする獣だ。それをアンセルム様は魔力を使い、討伐する。
国境の、東側の森に頻繁に出没するので主にそれを討伐している。
討伐軍には十二歳の頃から入団し、今年で十一年。今ではこの若さでトップにまで上り詰めたのは、実力がずば抜けていると言われている。
「そうだ。正確には総司令官だ。いつ、何があってもすぐに動けるよう、王宮内にある軍の本部で寝泊まりしているからそのつもりで。」
「…分かりました。」
「では行こう。」
そう言って、アンセルム様は私に近づいて腕を取り、エスコートをする。
端から見れば、完璧なまでのエスコート。
「公の場だ。少しは笑え。」
(そう言われたけれど、あの会話をした後にニコニコと出来るほど、私の心は鈍感ではないのよ!)
…そう言えたらどんなにいいか。
けれど私だって、貴族令嬢であるし、結婚の話をされた三ヶ月前から、公爵夫人になれるように必死に作法や知識の勉強をしてきたもの。
控室から出て、第一ホールへと向かう。たくさんの人々が待つ場所へ向かうまでに私も平常をどうにか取り戻し微笑みを顔に貼り付け、完璧なエスコートをされながら国王陛下の元へと向かった。
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