【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

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〈14. 少しの疑問も飲み込んで、二日目の仕事へ〉

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「はー…」


 エステルは、初出勤を終え、無事にアパートメントへと帰宅した。玄関に入ると疲れが出たのかエステルは、ため息をつく。

 と、思ったよりも大きく出た為か階段を上り始めるヘルミが後ろを振り返り、エステルだと分かると話しかけた。

「あ、エステル!お帰り!私も今帰って来たのよ。なぁに?初めての仕事は疲れちゃった?」

「あー…うん。そうかも。でも明日はもう少しだけ早く出勤するの。だから、今日は早く寝て頑張らないと!」

「そっかぁ。エステル、無理しないでね!私も初出勤の日は無駄に気合いが入ってね、オーナーに『もっと肩の力を抜いてやりなさい』って注意されたのよ。」

「ヘルミが?そうなんだ。うん、無理しないように頑張る!」

「その意気よ!ねぇ、夕食まであと一時間位あるから、一階の談話室で話しましょうよ!聞いてくれる?今日のお客さんで変わった人が来たのよ。」

「へーどんな人?気になる!じゃあ荷物置いてから談話室行こ!」


ーーー
ーー




 次の日。

 エステルは、昨日よりも三十分ほど早く学校へ向かった。アームから、早く来れたら来てね、と言われた為にエステルは律儀にそれを守ったのだ。


「おはようございま…す。と。」

「あ、おはよう。エステル先生。待ってたわよ。来てくれたのね、偉いわ!さ、行きましょう。」

 エステルが職員室に入ると、アームしかおらず、席に座っていた。

 アームはそう言うと、すぐに席を立ち、エステルを促した。
 エステルは、手ぶらで来ている。学校で使う物は全て学校に置いてある物を使っていいと言われたからだ。だから、エステルは職員室の中に入る間もなくアームへとついて行った。



 途中、硬い毛のついたブラシと、布とバケツを持って外へと出て行くアーム。バケツには、すでに半分ほど水が汲んであった。

「掃除道具は、職員室の隣の道具倉庫に置いてあるわ。終わったら、職員室前に干しておいてね。乾いたら片付けましょ。水は、裏にある井戸で汲むのよ。今日は私が汲んでおいたわ。」

「はい。ありがとうございます。」

「エステル先生はきちんと言う事も聞いて、返事も出来て偉いわね!あなた、すぐに素晴らしい先生になるわよ!」

 アームは、ニッコリとエステルへと微笑んだ。自分が昨日『明日は早く出勤出来たら来てね』と伝えたら本当に早目に出勤してきたから、それを言っているのだ。それに、自分が言った事に対して、はい、としっかり返事をする為、アームは『自分が先輩だ』という気持ちがより一層感じられるのだった。

「え…あ、ありがとうございます。」

(そう言われても…私はまだ新人だから、そうしてるだけなのだけど。素晴らしい先生、かぁ…私、どうしたいのだろう。)

 エステルは〝素晴らしい先生〟と言われたけれど、昨日の授業を見て、自分にやっていけるのか不安になっていたのだ。
 読み書きや足し引きを教えるのはまだ良かった。
 けれども、剣術や槍術の授業を教えるとは知らなかったし、昨日の授業を見ていて目を背けたかったのだ。剣術や槍術と言っても、実際には長い枝でやっている為、危ないわけではないが、それでも『アードルフ様の為!』『我らクリシャンスターメ国の為!』だと言いながらアームが子供達へと発破を掛けていたのだ。そして子供達も当たり前のようにそれを受け入れ、大声を出して実践していた。

(私も、子供達に『国の為!』と言いながら教えるの?)

 エステルは、自らを犠牲にしてまでそのような事を自分よりも遥かに小さな子供達に強要していいものなのか良く分からないでいたのだ。



「さ!この〝アードルフ様〟を磨くのよ!」

 アームに連れてこられたエステルは、学校の入り口近くでそう言われる。昨日もその前も、この学校に入って来た時から何故そこにあるのか、誰なのかと疑問に思っていたを、アームは磨くと言った。

(アードルフ様…て、え?この銅像、国王様なの!?)

「いい?丁寧によ?お願いね!私は広場の方を片付けるから。」

 そう言ってアームは、広場の方へ行った。


「うーん、磨くって、持ってきた道具でやればいいのよね。」

 エステルは、硬い毛のブラシを水に浸け、上からゴシゴシと力を入れて磨き初める。

 と。

「ちょっと!エステル先生!!ダメよそれじゃ!!止めなさい!」

 広場にいたアームが血相を変えて飛んで来た。

「お顔やお体は濡らした布で優しく拭くのよ!で、台座はブラシで擦るの。分かった?」

 アームが大慌てでそう言うので、エステルは驚いて首を上下に動かすと、アームは心底ほっとしたようで銅像を見つめる。

「あぁ、大丈夫ですか?アードルフ様!…うん、傷にはなってないから痛くは無かったですわね?あぁ、申し訳ありません…私がしなかったばっかりに…!」

 そう言ったアームは、銅像の顔や上半身を優しく撫で始めたのだ。

「…申し訳ありませんでした。」

 エステルは、銅像にまで愛着を感じている様子のアームを見てなんだか末恐ろしくなり、か細い声で呟く。
だが、それには聞こえ無かったのか、暫くアームは一心不乱に撫で、銅像に抱きついていたのだった。

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