【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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27.交流

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「ねぇ、これでいいかしら?」

「はいはい、大丈夫ですよ。」


 エーファは、しきりに鏡の前で後ろを確認したりしている。それにヘラは何度目かの返事を返したところで、外から馬が駆けてくる音が聞こえた。


「!」

「いらしたようですね。下へ参りますか?」


 ヘラの問いに答える間もなく駆け出すエーファに、苦笑いを浮かべながらヘラは追った。




 ☆★

「いらっしゃいませ、ようこそ起こし下さいました。」

「急な申し出であったのに、迷惑では無かっただろうか。」

「とんでもない事です。エーファ様は屋根を突き抜けるんじゃないかと思うほど飛び跳ねて喜んでおりました。」


 玄関ホールで、フォルクハルトと執事のキルスがそう話している。そこへ続く階段から、内容は分からずとも声が少しだけ聞こえたエーファはたまらず声を上げ近づく。


「フォルクハルトさま!」

「エーファ、走ると危ないよ!」


 階段を駆け下りようとしていたため、慌てて告げる。
 それでもエーファは急ぎ、フォルクハルトの前までくると呼吸を落ち着かせるように胸を手で押さえつつ、もう一度名前を呼んだ。


「フォルクハルトさま…!」

「そんなに急がなくても、今日は夕方まで一緒にいられるから。」


 安心させるようにそういうと、エーファの頭を一撫でした。


「はい!」

「エーファ様、天気もよろしいのでお庭に準備いたしましたがいかかでしょう。」


 いつまでも玄関ホールにいるよりはとキルスがそう促す。


「そうなの?どうです?フォルクハルトさま。」

「いいね、案内を頼むよ。」

「はい!こちらから参りましょう。」


 そう言ってエーファは、フォルクハルトを庭へと案内した。




 玄関ホールを真っ直ぐ抜けると、一つ扉がありそこから庭へと出られるようになっている。屋敷からすぐは芝生が手入れされており、そこを石畳が奥へと伸びており少し進むと脇に逸れればそれぞれ左右に季節の草花や木が植えられ咲いている。石畳をさらに進んだ先に、円形の屋根がある東屋がありそこに丸いテーブルとイスが置かれ、紅茶の準備もされていた。


「素敵な庭だ。」

「ありがとうございます、みんなよくやってくれてるの。」


 そう言いながら、イスに座った。


「フォルクハルトさま、お疲れさまでした。」

「あぁ、長旅ではあったが、カール達ともずいぶんと打ち解けたよ。」


 フォルクハルトはバッヘム領のさらに国境を越えた、フレンズブルック国へ向かったのだが帰りに一日だけ、バッヘム領に寄り辺境伯軍と合同演習も一時間ほどしたのだ。そのため、嘘はついていない。


「まぁ!
 …ねぇ、聞いております?コリンナとケヴィン兄さまの事。」

「ん?…あぁ、二人来ていたね。
 バッヘム辺境伯にしごかれていたよ、でも別行動だったからどうなっていることだろうか。」

「そうなのですね、驚きました。でも…」

「でも?」

「認められる事を願ってます。」

「そうだな。多分、大丈夫だろう。バッヘム辺境伯もなんだかんだ言いながら、楽しそうにしていたから。」

「だといいのですけれど。」

「認められれば、コリンナ嬢は義姉ということになるね。」

「ええ!?…そうですね。」


 言葉にするとそうだと実感し、顔を赤らめるエーファ。


「俺から見ても、義姉、になるのか。なんだか不思議だ。」

「…!!」


 益々真っ赤になるエーファ。


「ん?どうしたのかな?顔が赤いけど、体調は大丈夫だろうか。」

「だ、大丈夫です!
 …フォルクハルト様が変な事を言うからです!」

「え?変な事?言ったかな。」


 とぼけた顔をするフォルクハルトに、エーファは一人だけ恥ずかしいのだと思い、釈然としない思いで紅茶を飲む。


「あぁ、忘れるところだった!エーファ、お土産だよ。」


 そう言ってフォルクハルトは、紙袋と、本を一冊机に置いた。


「これは、プレッツェル。こっちはエーファとコリンナ嬢を結びつけた作者のらしい。」

「え!」


 プレッツェルは独特な結び目のような形をしたパンで塩も振られてサッパリとしている。紙袋は、店の名前は知らないが王都で買ったのだろうお洒落な紙袋であった。
 本も、紐で開かないように結ばれている。書籍店で買ってきたのだと見て取れた。


「さぁ、どうぞ。
 ここのパン屋は王都にあって、結構売れてるんだ。紅茶のあてにならなければ、夕食にでも食べてくれ。」

「いいえ、頂くわ!
 …美味しい。」

「良かった!
 で、こっちはちょうと書籍店の前を通ったら、大声で売り出ししてたから買ってしまったよ。でもエーファ、持ってたら…寮に寄付でもしよう。」

「え、でも販売中止になったんじゃ…?」

「そうなのか?あー、でも店主は『なかなかお目に掛かれない方の作品だ!』とは言っていたけど、じゃあ偽物…?」


 とフォルクハルトも訝しんでいたが、エーファがその本を見ると、表紙の下側に巻かれた帯に『幻の作品!こういう作品も見たかった!!物語は物語として切り離して楽しめば、次回作もあるかも!?』と書かれていた。模倣する人達さえいなければ、次回作もあるかもと書かれているし、こういう作品も、と書いてあるから今までの婚約破棄ものとは違うのだろうと思った。


「ありがとうございます!嬉しい…!」

「そう?良かった。
 エーファは他に、どんな本を読むのかな?」

「私は、あればいろいろと読みますが、やはり専門書は難しかったです。
 あ、寮にあった本もいろいろと読みましたのよ?」

「まぁ確かに専門用語は難しいな。
 寮にもいろんな種類の本があるよね。
 俺も新米の頃ジョーク集を読んで笑ったりはしてたけど、同室のやつに『うるさい!』って言われてからはあまり読んでないなぁ。」

「まぁ!
私もヘラとなぞなぞ集の問題を出してもらったりしましたわ。」

「いいな、楽しそうだ。」

「あとは…冒険の本と旅行記のような本、天候や気候について書かれた本とか…あ!からだのつくりがわかりやすく書かれた本も興味深く読ませてもらいましたわ。」

「へぇ、エーファは本当、いろんな種類を読むんだね。」

「確かに、これ、ていうのはあまりないです。
フォルクハルトさまは?」

「俺は…古い道が書いてある地図が好きでね。現在の道と比べて歩くと昔の人の英知が知れて面白く感じるんだ。」

「素敵!とっても素晴らしいです!」

「そんな事は…ありがとう。

エーファに次回は違う種類の本を買ってこようか。
 それとも、女性は服装も着かざるのに大変だろうから宝石類がいいかな?」

「え?い、いいえ!そんな何度も大丈夫ですし、宝石なんてもっと分からないです!付ける場所もあまりありませんし。」

「そう?俺が居ない間も、俺が贈ったものが家に増える事で、俺の事を思い出したり考える時間も増えるかなって思ったんだが…重いか?」

「…重いだなんて、そんな…」


 エーファは顔を真っ赤にさせ、俯く。


「俺はエーファの傍に居られる権利を得られたけど、まだすぐに一緒に暮らすような夫婦にはなれない。
 婚約期間は、これから決めるとして最低でも半年はかかるだろう?
 それまではこうやって会う機会を作るから、エーファの事をもっといろいろ教えて欲しい。好きなもの、苦手なものなんでもいいし、他愛もない話でも顔を見るだけで日々の疲れが吹っ飛ぶんだ。」

「はい…私も、フォルクハルトさまの事が知りたいです。」

「良かった。」


 そういって優しく微笑むフォルクハルトにやっと顔を上げ、エーファは息を整えると、目の前の机にある紅茶に目がいった。


「フォルクハルトさま、紅茶は?冷たくなりましたが、温め直してもらいますか?」

「どちらでも好きだが、そうだね。お代わりを貰おう。」


 そう言って、一気に飲み干しカップを空けたのだった。




 ☆★

 三時間ほどが経ち、やや日が傾いてくるとフォルクハルトが立ち上がった。


「…そろそろ、帰るよ。」

「フォルクハルトさま…」

「あぁ、そんな淋しそうな顔をしないで。早く一緒になりたいと願ってしまう。」

「願って…いただいていいのですよ?」

「本当かい?けどエーファはまだ、十七歳になったばかりだろう?」

「そうですけれど…一緒にいたいです。」

「!!
 そうか…じゃあ話を進めてみてもいいかい?
 俺は大歓迎だが、バルヒェット侯爵や侯爵夫人がそうすぐに許可いただけるかが心配でね。」

「だって…十七歳の誕生日に結婚の話をしたお父様ですもの。」

「そうか、まぁそうだね。
 じゃあ後日、改めて話をさせてもらいにくるよ。」

「…はい。」

「エーファ…立って、こっちへおいで。」


 そう言って、エーファへ手を伸ばすフォルクハルト。
 その手を掴むと、ゆっくりと立たせられイスからずれるとフォルクハルトはエーファの背中へと手を回し抱き締めた。


「大好き…いや心から愛しているよ。だから、そんな哀しそうな顔をしないで。また会いに来るから。」

「はい、フォルクハルトさま…」


 時間を掛けて抱き締め合った二人だったが、やがてフォルクハルトはゆっくりと手を緩めエーファを離した。


「名残り惜しいが、また。」

「はい。」


 先ほどよりも少しだけすっきりとしたエーファは頷き、玄関ホールへとフォルクハルトとともに進むと、仕事で領地を回っていたロータルとディーターが帰ってきたようだった。


「おぉ、フォルクハルト殿。挨拶も出来なくて済まないね。」

「フォルクハルト、お疲れ。」


 ロータルとディーターが声を掛けた。


「こちらこそご挨拶が出来ず申し訳ありません。
 お邪魔致しました。」


 フォルクハルトも丁寧に頭を下げて言葉を返していたところに、エーファが声を上げた。


「お父様!」

「ん?エーファ、どうした?」

「私、フォルクハルト様と結婚を見据えてお付き合いということでしたけれど、結婚はいつしたらよろしいのですか?」

「なに!?」
「「え、エーファ?」」


 エーファのいきなりの発言に、三人は驚きの声を上げる。


「だって…フォルクハルトさまが最低でも半年は掛かると言われましたの。
 ドーリスお姉さまだって、婚約期間は長いもの。」

「エーファ、ドーリスの場合はお相手が格上の公爵家だからだよ。あちらは結婚衣装を糸から拘りたいと言って下さったのもあったからだ。
 フォクルハルト殿の家は、うちと同じ侯爵家ではあるからそこまで長くなくてもいいんだが、エーファはそこまでフォルクハルト殿の事を想っているんだね?」


 そう諭すように語るロータルは、少し寂しいと思いながらもエーファへと問う。またデリアに、早い!と言われそうだなぁと思いながら。


「だって…」


 いじけるように下を向くエーファに、ディーターが言葉を繋いだ。


「思いが通じ合っていきなり一ヶ月も離れ離れになったから不安なんだろ?相手は騎士隊に所属ってのもあるだろうし。
 でもね、エーファはフォルクハルトと会ってまだ数回しか会ってないだろ?
 確かにフォルクハルトはいいやつだし、頼りがいもある。申し分ないと思うけど、お互いの相性はどう?本当に結婚していいの?」

「ディーターお兄さま、今さら言わないで下さい!
 分からないわ、分からないけれど離れていたら会いたいと思うし、フォルクハルトさまと一緒にいたいの…」


 と今にも泣き出しそうな顔に、三人とも顔を見合わせフォルクハルトが口を開いた。


「エーファがそう思ってくれていて嬉しいよ。
 でも、あと少し家族とも過ごす時間を大切にしてくれるかい?今まで生きてきた以上の年月をエーファと結婚したら俺と過ごす事になる。
 俺の両親は好きにしろと言っていたからゲルトナー家としたらいつでもいいけど、婚約期間はあった方がいいし君のお姉さんより先に結婚するのも良くないだろう?」

「は、はい…」

「フォルクハルト殿、そう言ってくれてありがとう。私からも手紙を送らせて欲しい。」

「ありがとうございます。」

「エーファ、あまりフォルクハルト殿を困らせてはいけないよ?
 そうだね、デリアとドーリスにもあとで話そう。」

「はぁい…」
「いえ、気持ちを話してくれるのは有難いです」

「フォルクハルト殿、ありがとう。娘をよろしく頼むよ。」

「はい…ではそろそろ失礼致します。」


 それに頷くロータルとディーター。


「またね、フォルクハルトさま!」

「あぁ、また。」


 そう言って、フォルクハルトは帰って行った。
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