【完結】私の地元の猫って…。

まりぃべる

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2. 帰郷

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 金曜日。

 仕事が終わり、急いでひとり暮らししているワンルームマンションの家に帰って、準備してあった旅行鞄を持って駅へと急いだ。


 週末なので、駅もそれなりに賑わっている。帰宅ラッシュではあるが、まだまだ寄り道していく人が多いのだろう。
下りの電車は思ったほど混んで無かった。けれども席はなく、扉の近くで立つ事にした。



(父さん、大丈夫かな…。)



 車窓から、暮れゆく街並みを見つつ、昔の思い出が思い出される。


 実家は、ここから乗り換えやバスの時間も含めると3時間弱かかる。
いつくも街や山を越えた先の、山の中にある小さな町の中にあり、その隣にログハウス風の喫茶店を経営していた。

 喫茶店の店主でもあるから、話す事が好きな父だった。
母も、仕事の合間には常連さんと一緒に席に座って、朝から晩までずっと話をしていた。

 私が学校から帰ると、いつも常連さんの席で話をしながら『お帰り-。』と言ってくれていた母。

 カウンターの中で、コーヒー豆を挽いたり食器を洗いながら常連さんと話をし、『お帰り-。』と言ってくれた父。


 私にも、コーヒーの美味しさを教えてくれた父。


 こだわりのブレンドがあって、気分によって日替わりコーヒーを出す喫茶店は、母の手作り軽食もそれなりに美味しい事もあって、朝も昼も夕方も、常連さんが通いつめてくれていた。


 店は道路沿いにあり、町の中にある道路としては、主要道路で、観光地へと抜ける道にも使われている為、一見さんも結構来店するらしい。
母も、観光客だと分かるとこの辺りのガイド役を買って出ていた。


「この道を左に出てまっすぐ行って、小道があるからそこを左にずんずん登って行くと、滝があるわよ。パワースポットよ。」

「この道を右に出て10分くらい車で走ると、右手に小さい八百屋さんがあるの。そこの瓶詰めのジャムがとっても美味しいのよ、お土産にどお?もちろん野菜も安くて美味しいわよー。そのミニサラダも、その八百屋さんのよ、美味しいでしょ?」

「この道を左に出てまっすぐ行って10分くらい行くと、右に曲がる道があってね、看板も出てるわよ。ブルーベリー狩りが出来るわ。美味しいのよ、そのミニデザートに付いているブルーベリーも、そこのよ、美味しいでしょう?」

 人当たりがいいのもあって、周りの人達にもお客が流れて来て有難いと言われていると、以前喜んで言っていた。



 その快活な母が、昨日はとても落ち込んでいた。
朝、父がなかなか起きて来ないと思っていたら、ドサッと父の部屋から音がしたらしく急いで見に行ったら、ベッドの下に倒れていたらしい。


 電話を掛け直した時は午前中の10時頃だったと思う。

 
 その時は、まだ処置中で容態が分からないと言っていた。


 仕事が終わってスマホを見ると、一言、『とりあえず、持ち直しました』とだけ入っていた。
私は、電話を掛ける事はせず、『よかった。明日遅くなるけど行くね。』とだけ返信しておいた。

 電話を掛けようかと思ったが、母さんの声を聞くと、いたたまれなくなりそうだったから。



 だんだんと懐かしい景色が近づいてくるのを切ない気持ちで、車窓を眺めていた。
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