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5. 懐かしい出来事
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「楓-!ごはんよ!」
がらりと部屋の襖があいて、スタスタと部屋に入ってきた母さんはカーテンを開けた。
「面会の時間に遅れちゃうわ。疲れてるだろうけど、起きてちょうだい。」
「はーい。」
せっかくの、休みだったんだけどな。でも仕方ない。私は朝食を食べる為に支度をし始めた。
(それにしても…。)
懐かしい夢を見た。
私が幼稚園に入った頃の出来事。
きっと、この懐かしい場所に帰ってきたからかもしれない。
ーーーー
「あ、猫ちゃん!」
あれは、幼稚園からの帰り道だったと思う。
帰り道の神社の入り口で、細く小さな全身真っ黒の毛の子猫が横になって血まみれで倒れていた。
「まぁ!大変だわ。ケンカでもしたのかしら。」
母さんも、隣でそんなような事を言いながら通り過ぎようとした。
「待って!お母さん!家に連れて帰ろう?可哀想!」
「ええ!?でも、この辺りには獣医さんないし…。」
「大丈夫!私がみるから!」
「楓ちゃん、みるっていってもね…」
「ここに置いておけないよ、ねぇお母さん!お願い!」
「…そうね。可哀想ね。じゃあ連れて帰りましょうね。」
そう言って母さんは折れてくれ、猫の元へ屈もうとした。
「待って!私が連れてく!お母さん、私の荷物持って。」
自分が言い出したのだからと、そう言って、私が血だらけになった猫を横向きに抱きかかえ、家まで連れ帰った。
家に着くと、汚れてしまった幼稚園のスモックからすぐに着替え、玄関に横たえたままにしていた猫を再び抱え、外の湧き水の方まで運んで血を洗い流した。
すると、意外にも猫は怪我の傷が無かったので、やはりケンカをして相手にケガを負わせ、力尽きたのかなと思った。
細く痩せたように見えた猫に、母に無理を言って牛乳をもらい、飲ませた。
今になって思えば、動物に牛乳をあげるのは胃腸の造りが違うため良くないらしいが当時の知識では、そんな事、知らなかったので、赤ちゃんと言えばミルクだと漠然と考えたのだ。
夕方、父さんが仕事から帰ってきて、
「猫は飼えない!捨ててこい!」
と言った。
当時はまだ、どこかの会社勤めだったと思う。
私が小学生になった頃、喫茶店を始めたから。
当時まだ生きていたばぁちゃんも、昼は畑仕事に出ていて、夕方帰ってきて、猫を見て、言った。
「お猫様は、飼うなんて畏れ多くて出来ないよ、大事な大事なこの地区の守り神様なんだから。手当をしたのは偉いねぇ。でも、飼えないから元いた場所に返して来なさい。」
「じゃぁ、もう少し大きくなるまでは?」
「止めた方がええかもしれんねぇ。お猫様は自由が一番さ。」
私は泣く泣く、暗くなってしまった夜道を歩き、母さんと一緒に、猫が倒れていた神社に連れて行った。
「猫ちゃん、ごめんね。うちじゃ飼えないって。でも、猫ちゃんはお猫様なの?この土地を守ってくれてるの?そうなら、ありがとう!また来るからね。牛乳、ここに置いておくからね。飲んでね。」
牛乳を平たい皿に注ぎ、地面に置き、抱っこしていた猫を下ろした。すると、猫は牛乳を飲みにそこへ腰を下ろした。
「さ、帰るわよ。」
「猫ちゃん、バイバイ!またね!」
私は離れがたかったけれど、そう声をかけると牛乳を飲んでいた猫はこちらをチラリと見てから、また牛乳を飲み出した。
ーーーー
そんな、懐かしい幼い頃の夢を見たのだ。
きっと、昨夜も猫をたくさん見掛けたからかな。
そう思い出しながら、朝食を食べるのだった。
がらりと部屋の襖があいて、スタスタと部屋に入ってきた母さんはカーテンを開けた。
「面会の時間に遅れちゃうわ。疲れてるだろうけど、起きてちょうだい。」
「はーい。」
せっかくの、休みだったんだけどな。でも仕方ない。私は朝食を食べる為に支度をし始めた。
(それにしても…。)
懐かしい夢を見た。
私が幼稚園に入った頃の出来事。
きっと、この懐かしい場所に帰ってきたからかもしれない。
ーーーー
「あ、猫ちゃん!」
あれは、幼稚園からの帰り道だったと思う。
帰り道の神社の入り口で、細く小さな全身真っ黒の毛の子猫が横になって血まみれで倒れていた。
「まぁ!大変だわ。ケンカでもしたのかしら。」
母さんも、隣でそんなような事を言いながら通り過ぎようとした。
「待って!お母さん!家に連れて帰ろう?可哀想!」
「ええ!?でも、この辺りには獣医さんないし…。」
「大丈夫!私がみるから!」
「楓ちゃん、みるっていってもね…」
「ここに置いておけないよ、ねぇお母さん!お願い!」
「…そうね。可哀想ね。じゃあ連れて帰りましょうね。」
そう言って母さんは折れてくれ、猫の元へ屈もうとした。
「待って!私が連れてく!お母さん、私の荷物持って。」
自分が言い出したのだからと、そう言って、私が血だらけになった猫を横向きに抱きかかえ、家まで連れ帰った。
家に着くと、汚れてしまった幼稚園のスモックからすぐに着替え、玄関に横たえたままにしていた猫を再び抱え、外の湧き水の方まで運んで血を洗い流した。
すると、意外にも猫は怪我の傷が無かったので、やはりケンカをして相手にケガを負わせ、力尽きたのかなと思った。
細く痩せたように見えた猫に、母に無理を言って牛乳をもらい、飲ませた。
今になって思えば、動物に牛乳をあげるのは胃腸の造りが違うため良くないらしいが当時の知識では、そんな事、知らなかったので、赤ちゃんと言えばミルクだと漠然と考えたのだ。
夕方、父さんが仕事から帰ってきて、
「猫は飼えない!捨ててこい!」
と言った。
当時はまだ、どこかの会社勤めだったと思う。
私が小学生になった頃、喫茶店を始めたから。
当時まだ生きていたばぁちゃんも、昼は畑仕事に出ていて、夕方帰ってきて、猫を見て、言った。
「お猫様は、飼うなんて畏れ多くて出来ないよ、大事な大事なこの地区の守り神様なんだから。手当をしたのは偉いねぇ。でも、飼えないから元いた場所に返して来なさい。」
「じゃぁ、もう少し大きくなるまでは?」
「止めた方がええかもしれんねぇ。お猫様は自由が一番さ。」
私は泣く泣く、暗くなってしまった夜道を歩き、母さんと一緒に、猫が倒れていた神社に連れて行った。
「猫ちゃん、ごめんね。うちじゃ飼えないって。でも、猫ちゃんはお猫様なの?この土地を守ってくれてるの?そうなら、ありがとう!また来るからね。牛乳、ここに置いておくからね。飲んでね。」
牛乳を平たい皿に注ぎ、地面に置き、抱っこしていた猫を下ろした。すると、猫は牛乳を飲みにそこへ腰を下ろした。
「さ、帰るわよ。」
「猫ちゃん、バイバイ!またね!」
私は離れがたかったけれど、そう声をかけると牛乳を飲んでいた猫はこちらをチラリと見てから、また牛乳を飲み出した。
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そんな、懐かしい幼い頃の夢を見たのだ。
きっと、昨夜も猫をたくさん見掛けたからかな。
そう思い出しながら、朝食を食べるのだった。
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