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4. 乳母パトリツィア視点 1
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私はパトリツィア。
モルドバコドル国の王女ヴァレリア様の乳母の役目を終え、そのまま引退して家でゆっくり過ごしているわ。
ヴァレリア様がいつか大きくなり世を治めるその行く末を見守っている、とでもいうべきかしら。
私の両親は、キシデル国の辺境伯だった。私も、十五歳まではキシデル国で何不自由なく生活していたわ。五歳下の妹も一緒に。
ただ…飢饉が起こったのよね。
元々、キシデル国は険しい山が多く、平坦な土地が少なく食べ物は豊富に取れなかった。その為、隣国モルドバコドル国の雄大な自然で獲れる豊富な作物の輸入に頼っていた。
それが、雨があまりに降らない日が続いて、自国で獲れる作物が全く獲れなかった。輸入された作物はほとんど王都などの大きな街へと持っていかれてしまった。
両親が領主をしていた国境付近の地域を通り過ぎて王都へと運ばれていく。
両親は、そちらだけで無く、幾らかこの領地にも分けて通って欲しいと王家に直談判するも、『こちらの方が人口も多いし、何より国王陛下を始め王族の方々がいらっしゃる。優先すべきは一目瞭然。自領で蓄えておかなかったのはご自身の能力の無さが故である。幸いにも険しい山が我が国にはたくさんある。自身でどうにか耐え忍んでくれ。』などと返答されたらしい。
山があるが、獣を取れという事か?なぜあるものを分けてくれない?
もう我慢ならんと、領民を連れて豊富な作物があるだろう隣国モルドバコドルの国王陛下に助けを乞うと、これまた返ってきた答えは住んでいいという許可はもらえたが、期待した答えではなかった。
食べ物を分けてもらえると思ったのに、わずかばかりのジャガイモやサツマイモやよくわからない種のみだった。
住んでいいという許可を出された土地も、広大ではあるが荒れ果てた土地。自分達で耕せとの返答。
それでも、そこで生きていく他はなく、そこで集落を作った。
だが、そんなジャガイモやサツマイモなんて、すぐ食べ切ってしまった。
その土地周辺に実っているわずかばかりの実を拾ったり、草を食べ凌いでいた。
キシデル国へいつか帰る事を夢見て。
両親は、荒野の向こうを指差し、『いつか再び荒野を越えよう。』といつも言っていた。
が、希望を持っていてもそればかりでお腹がいっぱいになる訳もなく、飢えで亡くなる人が一人二人と出始めると、両親は、手持ちのドレスや宝石を泣く泣く売り払う事にし、得たお金で食べ物を買い、皆に分け与えたという。
それでも間に合わず亡くなる人が増え、大変だと再度助けて欲しいと恥を惜しんで宮廷へと直談判し、やっとオルフェイへ調査をしに来た。
『衣食住は保証しよう。しかし重要な事を見聞きする恐れがある為帰る事は出来ないが、職を求めているならついて参れ。』
そう言われ、疑う者もたくさんいた。
両親は、キシデルでは領主だった為、オルフェイ地区へと移住した後も領主のような役割を担っていた。その為に少し疑いはしたがモルドバコドル国の国王が人々を売り飛ばすわけもしないだろうと、『こう言ってくれている。行きたい奴は行った方がいい。』と助言した。
両親は、最後までここに住むと言った。領民だった人がみな居なくなれば移動は考えるが、自分を信じてくれている者がいる間は、ここに留まると。
ここにいても以前のような日々は過ごす事が出来ないと私はなんとなく思っていたので、ついて行く事に決めた。貴族だった頃はあった、受け継ぐものなんて今は何も無いもの。
お給金がもらえたならこちらに送ればいいし。
「…そうか。くれぐれも気をつけて。済まないな、お前は貴族であったのに…こんな目に遭ったのはすべて両国の国王のせいだからな!」
「そうね、パトリツィア。息災でね。国が私達に食物を配ってくれていたらこんな目に遭わなかったのにね…。」
「お姉さま行ってしまわれるの?二度と帰って来られないのよ?行かないで…。」
「お父様、お母様、泣かないで。シルビアごめんね。でも、お給金もらえたらこちらに送るから。元気でやってね。」
どうなるか分からないけれど、ここよりも良い暮らしが出来ると思うわ。十五歳の私はそのように思って、宮廷から来た偉い人達と、その甘い言葉を信じた人達と一緒にオルフェイ地区をあとにした。
モルドバコドル国の王女ヴァレリア様の乳母の役目を終え、そのまま引退して家でゆっくり過ごしているわ。
ヴァレリア様がいつか大きくなり世を治めるその行く末を見守っている、とでもいうべきかしら。
私の両親は、キシデル国の辺境伯だった。私も、十五歳まではキシデル国で何不自由なく生活していたわ。五歳下の妹も一緒に。
ただ…飢饉が起こったのよね。
元々、キシデル国は険しい山が多く、平坦な土地が少なく食べ物は豊富に取れなかった。その為、隣国モルドバコドル国の雄大な自然で獲れる豊富な作物の輸入に頼っていた。
それが、雨があまりに降らない日が続いて、自国で獲れる作物が全く獲れなかった。輸入された作物はほとんど王都などの大きな街へと持っていかれてしまった。
両親が領主をしていた国境付近の地域を通り過ぎて王都へと運ばれていく。
両親は、そちらだけで無く、幾らかこの領地にも分けて通って欲しいと王家に直談判するも、『こちらの方が人口も多いし、何より国王陛下を始め王族の方々がいらっしゃる。優先すべきは一目瞭然。自領で蓄えておかなかったのはご自身の能力の無さが故である。幸いにも険しい山が我が国にはたくさんある。自身でどうにか耐え忍んでくれ。』などと返答されたらしい。
山があるが、獣を取れという事か?なぜあるものを分けてくれない?
もう我慢ならんと、領民を連れて豊富な作物があるだろう隣国モルドバコドルの国王陛下に助けを乞うと、これまた返ってきた答えは住んでいいという許可はもらえたが、期待した答えではなかった。
食べ物を分けてもらえると思ったのに、わずかばかりのジャガイモやサツマイモやよくわからない種のみだった。
住んでいいという許可を出された土地も、広大ではあるが荒れ果てた土地。自分達で耕せとの返答。
それでも、そこで生きていく他はなく、そこで集落を作った。
だが、そんなジャガイモやサツマイモなんて、すぐ食べ切ってしまった。
その土地周辺に実っているわずかばかりの実を拾ったり、草を食べ凌いでいた。
キシデル国へいつか帰る事を夢見て。
両親は、荒野の向こうを指差し、『いつか再び荒野を越えよう。』といつも言っていた。
が、希望を持っていてもそればかりでお腹がいっぱいになる訳もなく、飢えで亡くなる人が一人二人と出始めると、両親は、手持ちのドレスや宝石を泣く泣く売り払う事にし、得たお金で食べ物を買い、皆に分け与えたという。
それでも間に合わず亡くなる人が増え、大変だと再度助けて欲しいと恥を惜しんで宮廷へと直談判し、やっとオルフェイへ調査をしに来た。
『衣食住は保証しよう。しかし重要な事を見聞きする恐れがある為帰る事は出来ないが、職を求めているならついて参れ。』
そう言われ、疑う者もたくさんいた。
両親は、キシデルでは領主だった為、オルフェイ地区へと移住した後も領主のような役割を担っていた。その為に少し疑いはしたがモルドバコドル国の国王が人々を売り飛ばすわけもしないだろうと、『こう言ってくれている。行きたい奴は行った方がいい。』と助言した。
両親は、最後までここに住むと言った。領民だった人がみな居なくなれば移動は考えるが、自分を信じてくれている者がいる間は、ここに留まると。
ここにいても以前のような日々は過ごす事が出来ないと私はなんとなく思っていたので、ついて行く事に決めた。貴族だった頃はあった、受け継ぐものなんて今は何も無いもの。
お給金がもらえたならこちらに送ればいいし。
「…そうか。くれぐれも気をつけて。済まないな、お前は貴族であったのに…こんな目に遭ったのはすべて両国の国王のせいだからな!」
「そうね、パトリツィア。息災でね。国が私達に食物を配ってくれていたらこんな目に遭わなかったのにね…。」
「お姉さま行ってしまわれるの?二度と帰って来られないのよ?行かないで…。」
「お父様、お母様、泣かないで。シルビアごめんね。でも、お給金もらえたらこちらに送るから。元気でやってね。」
どうなるか分からないけれど、ここよりも良い暮らしが出来ると思うわ。十五歳の私はそのように思って、宮廷から来た偉い人達と、その甘い言葉を信じた人達と一緒にオルフェイ地区をあとにした。
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