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5. 乳母パトリツィア視点2

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 連れて来られた先は、宮廷だった。

 でも、夜中に闇に紛れるように裏口から入ったので宮廷の大きさやなんかは分からなかった。


「明日から、君達は適正に分かれて仕事に就いてもらう。しかし、緑色の髪は目立つ為毎日染める事。染め粉は支給するから無くなる前にいう事。緑色は他の人には絶対に見られないように。風呂の時間は後で知らせるが他の使用人とは違う時間帯に入ってもらう。オルフェイ地区や、キシデル国民だと絶対に露見しないように生活したまえ。部屋はこちらだ。明朝、日の出と共にここに集まるように。仕事を振り分ける。以上。付いて参れ。あ、風呂はこの棟の一階だ。」

 染めるのは面倒だけれど、毎日お風呂に入れるのね!?この国へ来てからお風呂なんて碌に入れなかったから本当に嬉しいわ!




 それから、私は侍女見習いとして真面目に働いた。初めは、水をつけた布の絞り方なんかも満足に出来なくて、拭いた所をまた拭く羽目になると先輩に怒られたりもしたけれど、どうにか様になってきた十九歳で、二十も年上の侍従長と結婚をした。
侍従長はとても優しくて、私の境遇にも来た時からひどく同情的であった。いつも労ってくれたわ。『僕と結婚すれば、君の事は充分養えるから仕事を辞めるかい?』と言われたけれど、もう少し続けたいと言ったわ。だって、オルフェイの家族に仕送りしたかったもの。私のお給金なんてわずかだったけれど、それでも足しになると思って。

「分かった。君の好きなようにしていいよ。それから、君を産んでくれたお礼として、私からも用立てさせてくれるか?わずかばかりだが足しにしてくれ。」

 そう言ってくれ、私が仕送りに充てていた金額と同額を毎月用立ててくれた。旦那様は、本当に優しいわ。


 二十歳で子供を産んだ。本当に玉のように輝く娘。モラリと名付けた。

 その間は、私もさすがに侍女の仕事はお休みをもらった。子供ってのは無条件に可愛いわね。
今なら、両親が私と離れるのを淋しがってくれた意味も分かるわ。こんなに愛おしく思うなんて。

 侍女の仕事、いつ再開しようかと迷い初めていたら息子が出来たの。モラリが五歳の時に生まれたわ。
モラリもとても可愛がってくれたわ。でも、残念ながら一歳の誕生日を迎える頃に高熱で亡くなってしまった。旦那様も私もモラリもさめざめと泣く日々を過ごしていたの。


 けれど、毎日仕事がある旦那様とは違って家で落ち込んでいる私達を旦那様が見かねて、『仕事を再開してみるかい?気が紛れるかもしれない。モラリも早いけれど、やれる事から見習いとしてやってみてもいいよ。もうすぐ、王妃様がお子を産むからパトリツィアは乳母として入るか?』と。

 乳母…良いかもしれないわね。息子が亡くなってまだ正直心は癒えてないけれど、家で何もしないよりは動いていた方がいいわ。それに、乳母となったら、いつか陛下となられるお子を育て上げる事になるのね。
お父様は、自分達がこうなったのは二人の国王のせいだと言っていたわ。再びそうならないように、私が育て上げるのもいいわね。貴族だけではなく、様々な階級の意見もきちんと反映してくれる陛下になって欲しいものね。


 確かに、キシデルの国王が食料を分けてくれたら、モルドバコドルの国王がもっと大量の食料を分けてくれたら、亡くなる人も居なかっただろう。
だけれど、誰かを恨んだって亡くなった人は戻って来ない。だから、私は両親のように『国王のせいだ!』と人のせいにし恨んではいない。

 だって、私は働いてはいるけれどそれなりの生活を送れているもの。大切に想う新たな家族も出来たし。


 まぁ、でも多少は報いがあればいいのにとは思うけれど。


 でも私達がされた行為は忘れて欲しくない。お腹を空かせた日々は本当に辛かったもの。そう思って、王妃様の生まれてきた子には、物語として聞かせる事にしたわ。国名こそ出さないけれど、王女様の心に刻まれるように。


 イオネル王妃様この国の王妃様は、産後の肥立ちが非常に悪かった。双子をお産みになったからかしら。
出産してすぐに寝たきりになったイオネル王妃様は、しきりにヴァレリア様とヴェロニカ様の事をお聞きになった。
せっかくお腹を痛めて産んだのに、ご自身で抱く事もままならないので余計に心が沈んでいたのでしょう。私も、自分の息子を亡くしていたから境遇を重ねてしまったわ。
『私の手で、育てたかった。きっと姉のヴァレリアが立派な女王になるのでしょうね。治世を見たかったわ。』そう言って、一月経つ頃に静かに息を引き取ったの。


 立派な女王とは、どんな女王?


 やはり、国民全てを幸せに出来る陛下でないとね。私達キシデルから来た移民のような人にも手を差し伸べられるような。





 私は、三十歳でモラリに役目を譲った。
乳母は、幼少期だけしか一緒に居られない。侍女として戻りヴァレリア様のお側へ控えようとも思ったけれど。

 今は庭弄りをしながら、たまに旦那様が休みの日に一緒に手伝ってくれるのよ。十五歳で大変な生活を強いられたんだもの。旦那様が好きにしていいと言ってくれたから、ゆっくりするわ。『君は良く頑張ったよ。今まで大変だった分、ゆっくりしてもいいんだよ。帰って家に居てくれると嬉しいんだ。仕送りは気にしなくて大丈夫。僕が送っておくよ。』って。

 ヴァレリア様をにさせる為の役目。

 私の娘であるもの。モラリはうまくやってくれるわよね。
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