マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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アンカサにて

勝ち逃げ!?

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「嘘でしょう……?」
 マリアは呆然とした。泣きそうであった。
「どうして、何が起きたの!?」
 そんなマリアに慌しい足音が近づく。
「マリア王女、落ち着いてください! 何かあったのですか!?」
 ミカエルだ。マリアの顔を覗き込む。
「まさかオネットがよからぬ事を!?」
「違うの、オネットがルドに連れて行かれてしまったの。マルドゥクに従うと言っていたわ。暗殺者に戻ってしまうかも」
「なんだと!? どちらに行きましたか!?」
 マリアが指さした方向には、誰もいない。
 しかしミカエルはマリアを信じたのか、猛烈な勢いで走り出した。
「オネット、聞いているか!?」
 返事がない。それでもミカエルは怒鳴り続ける。

「おまえのせいでマリア王女がどれほど気をもんでいるのか分かっているのか!? 返事をしろ!」

 声は反響した。

 ふと、コトンという小石が転がる音が聞こえた。
 かすかな音だったが、ミカエルは聞き落さなかった。
 急ブレーキをして辺りを見渡す。
 火源石が転がっていた。凍っていたマリアを救ったものだった。
 恐る恐る拾い上げる。
 よく見ると、淡く光る糸くずがくっついている。糸くずは小さな文字になっていた。
 
 今までありがとう。
 
 光はすぐに消えた。
 ミカエルはワナワナと全身を震わせた。
「こんなもので諦めると思うかぁあああ!」
 ミカエルは走り出した。扉を開けて、長い廊下を全力で駆ける。どこを目指すとかではない。オネットの居場所を意地でも突き止めるつもりであった。

「貴様は絶対に越えてやる! 勝ち逃げなんて許さない!」

 叫び、訴えながら。

 ミカエルはどこまでも走り抜くつもりでいた。
 光が見える。出口だ。
「オネットォォオオオ!」
 外だ。
 暗い場所に慣れた目には、痛いほどまぶしかった。
 潮の香りが鼻腔をくすぐる。
 目の前に海が広がっていた。風に煽られて、何度も水しぶきが上がる。
 港がある。大きな港で、軍艦が停留できそうだ。
 今は無人である。船は出発してしまったのだろう。
「おのれぇえええ!」
 ミカエルは海岸線に向かって、あらん限りの絶叫をした。
「行ってしまったのね」
 遅れてきたマリアが呟いた。
 ミカエルは鼻息荒くふんぞっていた。
「僕たちから逃げたのですね!」
「そんな事はないと思うけど……とても寂しいわ」
 マリアは溜め息を吐いた。
「ガルーダには抗議できなかったし、みんな怪我をしたし、オネットはいなくなったわ。アンカサに来るべきではなかったのかしら」
「マリア王女の判断に間違いはありませんでした。しかし、作戦を立て直す必要はありますね。まずはグローリア王国に帰り、様々な方面から情報や助言を得ましょう」
 マリアは頷いた。
「あなたはたまに頼もしいわね」
「たまにですみませんでしたね!」
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