マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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マーニ大陸にて

助けに行こう!

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 オネットがマルドゥクたちと戦っている最中に、マリアたちは港に行くまでに、黒ずくめの集団に幾度となく襲撃を受けていた。
「マルドゥクの手下たちめ……」
「連携がなってなくて助かったわい」
 ミカエルとスターは肩で息をしていた。
 ついでにリヒトも息が荒くなっていた。
「年寄りには辛いのぅ」
「みんなお疲れ様! あとはオネットを待ちましょう」
 マリアは笑顔で全員の苦労を労った。
 ジャックはひゃーはははは! と豪快に笑っていた。
「何もしていないのにお疲れ様と言われたぜぇ」
「ジャックも走ったでしょ?」
「ヒャッハー! 頑張ったぜぇってなんじゃありゃあぁぁあ!?」
 ジャックはレーベン王国の方向を指差した。
 振り向けば、空に巨大な青白い六芒星が浮かんでいた。
 リヒトは腰を抜かして震えていた。
「あれは”ゼロ”!」
「オネットが使ったの?」
「一度譲渡された”ゼロ”は、レーベン王家の人間が使う事はできませぬ」
 マリアの疑問に、リヒトはうつむきながら答えた。

「使うとしたら”マスター”の持ち主マルドゥク。オネット様はただの無力な少年にされているはずじゃ」

「なんだってえぇぇえ!?」

 ジャックが悲鳴をあげた。
「無能力であの化け物連中に勝てるのかよ!?」
「……無理だろう。手下相手でさえ火源石、つまりフレイの能力がほしかったくらいだ。マルドゥクは比べ物にならないくらい強力なはずだ」
 ミカエルが槍を杖代わりにしていた。
「今頃、嬲り殺されているかもな。僕たちにはどうしようもない」
「おいおい、マジかよ。死なせてたまるか!」
 ジャックが走る。
 マリアも続こうとしたが、リヒトが羽交い締めにしていた。
「いけませぬ!」
「何するの!? 私の”ゼロ”があればなんとかなるかもしれないのよ!」
「無駄ですぞ。一度解き放たれている”ゼロ”を無効化する事はできませぬ。どうか”ゼロ”を温存してください」
「お願い行かせて! オネットが殺されちゃうのでしょう!?」
 マリアは暴れた。
 しかし、頬に雫が落ちるのを感じて、暴れるのをやめた。
「リヒト、泣いているの?」
「……本当はあの方と運命を共にしたかった。一人になんかさせたくなかった。しかし、あなた方を守るのがあの方の願いだった」
 リヒトの涙につられるように、スターは嗚咽を漏らした。
「さらわれる前は、可愛らしい方じゃった。みんなを笑顔にしたいと言って、いつも両目を輝かせていた。人を殺さなければ生きる事が許されない状況が、どれほどあの方を傷つけたか分からぬ」
 スターはマリアに向けて深々と礼をした。
「救ってくれてありがとう。あの方は、ようやく自分の願いで命をかける事ができたのじゃ」
「……私は信じるわ。オネットはまだ生きている」
「うむ。ジャックが助けにいったからのぅ。さりげなく無源石のブレスレットを持っていった。きっとなんとかしてくれるじゃろう」
「そうね!」
 マリアは元気よく頷いた。
 ミカエルが息を整えて疑問を口にする。
「ジャックは何ができる?」
「マーニ大陸にいた頃はスリを大量にやっていたらしい。無源石を手首にはめるくらい容易いじゃろう」
「関係あるのか?」
「まぁ期待して待っておこう!」
 スターは健康な歯と髪のない頭を光らせながら、カッカッカッと豪快に笑っていた。
 
 
 ジャックはレーベン王国の防壁に背中をくっつけた。
 耳をそばだてると、何回も派手な轟音が聞こえる。轟音のたびに光の柱が上っていた。
 ジャックは安堵した。
 光の柱はおそらくマルドゥクが発したものだ。オネットを捕まえていれば、あれほど派手な攻撃を場所を変えて何度もやる必要はない。オネットが逃げ切っている可能性は高い。
 お見逸れいたしやした、と心の中で呟いてそっとその場を離れようとした。
 しかし、運悪く近くにいた小鳥たちが悲鳴に似た鳴き声をあげて、飛んでいった。
「あああ、うるさい!」
 明らかに不機嫌なマルドゥクの声が聞こえた。
 次の瞬間に野太い光線が防壁を貫いた。防壁は崩れ落ち、跡形もなく消え去る。
 生身の人間がその場にいれば、蒸発していただろう。
 しかし、防壁のそばでジャックは転んだが、生きていた。何者かが体当たりをしたおかげで、光線をくらわずにすんだのだ。

「走れ!」

 体当たりしたオネットがジャックの腕を引っ張る。その声に応えてジャックは立ち上がった。

 しかし、ジャックの右足に氷の矢が突き刺さる。小さなものであったが、痛みのあまり、ジャックはその場を転げ回った。

 オネットは両目を白黒させた。
「嘘だろ!? 何故避けない!」
「……俺様はてめぇのような化け物とはちげぇんだ。てか、ちったぁ心配しろよ」
「大丈夫だ、問題ない。早く走れ!」
「無理だっつーの」
 ジャックはいろんな意味で涙目になった。
 氷の矢が次々と生み出される。
 オネットは、ジャックの右足に刺さった氷の矢を引き抜く。ジャックが悲鳴をあげるがお構いなしだった。
 いくつもの氷の矢へ意識を集中させていた。
 空中に浮かんでいた氷の矢が一斉に襲いかかる。
 その矢の数々を、オネットは手元の氷の矢で弾いていった。
 恐るべき動体視力と反応であった。氷の矢は次々と打ち落される。
 オネットの手元は霜がついていた。しかし、氷の矢をはたき続けていた。
 ルドがニヤついた。
「さすがですね。”マリオネット”を抜きにしても脅威です。マルドゥク様がいなければ」
 マルドゥクがオネットの腹を殴りつける。氷の矢を遥かに上回る速さだった。大幅に後ろに飛び退こうとしたオネットの頭を掴み、頭突きをかます。さらにはかかと落としをして、地面に沈めた。
 オネットは動かなくなっていた。
「おいやめろ!」
 ジャックが声を荒げる。
 ルドがクスクスと笑う。
「おやおや、無源石のブレスレットをお持ちですね。それをオネットの手首につければ、助けてあげましょうか」
「なんだと……?」
 ジャックが困惑した。思いも寄らない提案をされて、頭がついていけない。
 ルドが優しく語る。
「僕たちにとって”マリオネット”は脅威です。しかし、それさえなければただの可愛い男の子です。殺す理由はありません」
「オネットに無源石をはめれば助けてくれるってことか?」
 ジャックの理解に、ルドは頷いた。
 マルドゥクは苛ついていた。
「さっさとしろ。こいつの首をへし折るぞ」
「わわわ分かったぜ!」
 ジャックは何度も頷いた。
 しかし、脳内で警鐘がなりやまない。絶対にやってはいけないと勘が告げている。
 ジャックのためらいを見透かすようにルドが近づく。
「あなたは無源石を僕に渡せばよいのです。あなたは言われた事をやっただけ。何も悪くありません」
「そ、そうか」
 ジャックは自分の勘に逆らって、ルドに無源石のブレスレットを渡す。
 ルドは微笑んで受け取り、ゆっくりとそっとオネットの手首に触れる。
「綺麗な肌ですね。戦闘に出すのがもったいないくらいです」
 呟いて、無源石のブレスレットをオネットの左手首にはめた。
 ブレスレットが鈍い灰色の光を放つ。
 ルドは安堵のため息を吐いた。
「これでこの子を殺す理由はなくなりました。しっかりしつけてやりましょう」
「おい、オネットから離れろよ。助けるという約束だろ?」
「ええ、命を助けましたよ。あなた方に返すとは一言も申し上げておりません」
「なんだと!?」
 ジャックが怒鳴る。
「騙しやがったな!」
「あなたの頭が悪かっただけでしょう? それと、僕はあなたを助けるとも申し上げておりません」
 ジャックの四方に、透明な氷の壁が張られる。
 ジャックが殴っても押しても、氷の壁はびくともしない。氷の壁はジャックを締めるようにどんどん距離を狭めている。このままでは圧死するのが目に見えていた。
 ルドは声を出して笑いながら、オネットの首筋に氷をあてた。
「目を覚ましなさい。お友達の最期を看取りたいでしょう」
 オネットはゆっくりと目を開けた。
 ジャックの状況を理解すると共に暴れるが、マルドゥクが右腕を掴んで押さえ込む。
「おとなしくしろ、人形」
「俺は充分におとなしくしていただろう!? ジャックを解放してくれ!」
 空の六芒星が消えている。
 オネットは”マリオネット”の糸を編もうとした。糸があればジャックを引っ張り出せる。
 しかし、糸が出現する事はなかった。
 手首に無源石が巻かれているのに気づくと、地面に叩きつける。壊そうとしているのだろう。
 ルドがせせら笑う。
「無駄なあがきを。お友達の最期を見届けてあげた方がよいと思いますよ」
 ルドはオネットの左頬を撫でる。
「僕は、あなたが友達を助けるのに失敗した時の顔が大好きです。泣きそうなのに、涙を流せない表情がなんとも言えずにじわるのです」
「やめろ!」
 オネットは血のにじむ左手で、ルドの手を振り払った。無駄なあがきなのは分かっていたが、暴れずにはいられなかった。
「ルドに手を出すな」
 マルドゥクがオネットの左肩を殴りつけた。オネットの身体に激痛が走り、身動きが取れなくなる。
 ルドは高らかに笑った。

「オネット、今からあなたは僕たちの所有物です。楽しませてもらいますよ」

「おいおい、弱いものイジメはそのへんにしろよ。ダサいぞ!」

 突然、若々しい声が聞こえた。壊れた防壁のそばに赤髪の少年がいた。
 同時に、周囲の温度が一気に上がる。ジャックを囲んでいた氷が瞬時に溶ける。
 オネットは赤髪の少年を睨みつけた。
「出てくるのが遅い」
「スーパーヒーローは満を持して登場するもんだぜ。前座ご苦労!」
「一発ぶん殴らせろ! 殺す!」
 オネットの怒りに対して、赤髪の少年は心底愉快そうに笑った。
「元気そうだな。もうちょっといたぶられても良かったかもな」
「……おまえの口上は飽きた。さっさとスーパーヒーローとやらの仕事をしろ、フレイ」
 赤髪の少年フレイは、ジト目のオネットに向けて親指を立てていた。
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