悪逆皇帝の息子に転生した亡国の王子、パパの権力とママの溺愛でいつの間にか世界を救う!?

今晩葉ミチル

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本編

死の前兆

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 僕はリトスを追いかけていた。
 彼女は蛍がいる川の上流を見たいと言って、聞かなかった。
 辺りはどんどん寒くなるし、足元の雪が増えている。滑りやすい場所もある。新鮮な雪だけではない。枝葉が少なくなってきて空が見えるけど、なんとなく危ない気がする。

「ねぇ、リトス。もう帰ろうよ。きっと危ないよ」

「帰りたければ、一人で帰れよ。あたしは絶対に帰らない」

 リトスの口調はトゲトゲしい。
「あんたを巻き込む気はないよ」
「そんな事を言われたって、放っておけないよ」
 僕は懸命に追いかける。

 しかし、本音を言うと体力の限界だった。リトスからどんどん離されている。

 このままでは見失うかもしれない。
 長靴が埋まる。力いっぱい足を持ち上げようとするが、動けない。
 どうしよう……誰かに助けてほしいけど、リトスが来てくれるとは思えない。
 少し休憩して、足を上げる体力を回復させるしかないだろう。
 僕は溜め息を吐く。柔らかな雪に尻餅をついて身体を休める。
 リトスはずっと先に行ったけど、仕方ない。ゆっくりしよう。
 そう思った時に、嫌な音が聞こえた。

 ゴゴゴゴという鈍い音だ。かなり遠くだと思うけど、絶対にやばい。

「リトス! 帰ってきて!」
 叫んでも返事がない。
 僕はなんとか立ち上がり、足を踏ん張って走ろうとするが、雪がどんどん深くなって、思うように動けない。
「誰か! 誰かいないか!?」
 僕は周囲に声を張り上げた。なりふり構っていられない。

「誰か―!」

「おい、何の騒ぎだ」

 遥か後方から声を掛けられる。ガラの悪い男の声だ。
 振り向けばダークが立っていた。
「こんな所で何やってんだ? 神官長が真っ青になってたぜ」
 神官長とはボスコの事だ。
 彼に心配を掛けた事は、後で謝ろう。
「リトスという修道士に連れられて、蛍観賞をしていたんだ」
「蛍観賞だけなら、こんな所にいる必要はねぇよな」
 ダークは舌打ちをした。
「リトスはどこにいる?」
「ずっと先に行っちゃった」
「は!?」
 ダークは両目を見開いた。
「あのガキ、川上は危ないから近づくなと何度も言ったのに!」
「そうなのか!? 早く追いかけないと!」
「てめぇは帰ってろ。雪崩の前兆がある。死ぬぜ」
 雪崩!?
「早くリトスを助けないと!」
 命の危機が迫っているんだ!
 僕は大慌てで前に足を進める。雪に足を取られながら、全力で走る。
「おい、死ぬ気か!?」
 ダークが追いかけてくるが構っていられない。
 僕は一生懸命に走った。視界が開けた。リトスが見えた。真っ白い雪山の景色が綺麗で、見惚れているようだ。確かに美しい。誰も足を踏み入れない神聖な絨毯に思える。
 だけど……。

「リトス、もうすぐ雪崩が来る! 早く帰ろう!」

「へーきへーき、雪崩がきたら逃げればいいんだ!」

 リトスは能天気に言っていた。
「ここね、声が響いて面白いんだ。ヤッホー!」
 リトスが大声を出すと、ヤッホーと何度も返ってくる。
 確かに面白いし、僕もやりたいけど……。

「危ないんだよ、死ぬよ!?」

「あたしなら大丈夫、あんたは帰んな……!」

 次の瞬間に、余裕たっぷりだったリトスの表情が固まった。
 山の上から異様な塊が勢いよく降りてきている。白い巨大な塊だ。ゴオオォオオという轟音を立てて僕たちに迫ってくる。

 雪崩だ。

 到底避けれるものじゃない。巻き込まれたら、死ぬだろう。
 僕は全身から血の気が引いた。リトスも言葉を失って真っ青になる。
 そんな時に、後ろから露骨な舌打ちが聞こえた。

「コズミック・ディール、リバース・グラビティ」

 ダークの声だった。
 突如、白い塊が僕たちの目の前で割れた。轟音を立てたまま、勢いよく僕たちの周囲を駆けていく。一瞬だけ真っ暗になり、辺り一面が見えなくなった。
 すぐに視界が開けた。白い塊が通り過ぎたのだ。巨大な塊は、徐々に勢いを失っていく。
 やがて静かになった。雪崩が収まったのだ。
 僕は安堵の溜め息を吐いた。
「ありがとう、ダーク。これが君のワールド・スピリットなんだね。どんな原理なの?」
「重力を反転させたんだ。そんな事より、リトス。分かってんだろうな?」
 ダークの声質が、いつも以上に恐ろしい。切れ長の瞳がぎらついている。絶対に怒っている。
 リトスはぎこちなく頷いて、乾いた笑いを浮かべていた。
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