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幕間~魔王として~
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夕飯と片づけをすまして、ボスコは教会の地下にある部屋に向かっていた。
迷いなく歩く。そして、ダークの部屋のドアを叩く。
「お入りください」
ドアの向こうからぶっきらぼうな声が返ってきた。
ボスコはゆっくりとドアを開ける。相変わらず大量の本がある。そんな部屋で、ダークは椅子に腰かけて、机にいくつもの分厚い本を広げていた。
ボスコはドアを閉めて、苦笑する。
「相変わらず勉強熱心ですね」
「ワールド・スピリットについて漁っています。俺の命に関わりますからね」
ワールド・スピリットとは異能の総称だ。世界の源をエネルギーにしていると言われる。
ダークは本を読みながら続ける。
「ワールド・スピリットは強力ですが暴走すると使った人間の命を奪いますからね」
「そうですね。過ぎた願いを叶えようとすると、世界の源が怒りを示すようですね。ルドルフ皇帝の蘇生など、世界中に混乱を招きましたね」
ボスコは溜め息を吐いた。
「ワールド・スピリットを使えるようになるには厳しい制約がありますのに、使ったら大きなリスクを伴うなんて理不尽ですね」
「文句を言う所ではないでしょう。ワールド・スピリットのおかげで闇の眷属は命を永らえたのですから。いつまで続くか分かりませんが、あがく余地はあるでしょう」
ダークは頭をかいていた。
「ワールド・スピリットは基本的に使えば使うほど強力になりますが、暴走する基準は定まっていないようです」
「使い手のポテンシャルも影響があるのかもしれませんね。僕は残念ながら全くポテンシャルが無かったようですが」
「使えるようになる条件は、十年間同じ願いを強く持ち続けて、なおかつ同じ願いを持つ人間が誰一人としてワールド・スピリットを発現していない事です。ポテンシャルの問題ではなく、運です」
ダークに説明されて、ボスコは溜め息を吐いた。
「薬草の材料を自在に作れるようになんて、そんなにありふれた願いですかねぇ。もう十年同じ願いを抱き続けても、ワールド・スピリットを得られないなんて理不尽極まりないです」
ボスコは遠い目をした。
ダークは全ての本を閉じて、ボスコに視線を移す。
「ワールド・スピリットを発現した人間が死んでいたら良かったですね」
ワールド・スピリットを発現した人間の死亡後と、ボスコが願い事をしてから十年後と重なっていたら、ボスコはワールド・スピリットを得られたようだ。
ボスコは苦笑する。
「人の死を願うのは神官として問題ありますね」
「俺は願いまくっていますよ」
「さすが魔王と言いたい所ですが、無茶しないようにしてください」
ダークは低い声で笑う。
「神官と軍部の兼任は無茶と呼びませんか?」
「軍部をやめて教会のボディーガードになっても良いでしょう」
「良くありませんよ。リベリオン帝国の窮状は理解していますよね?」
ダークに問われて、ボスコはうなった。
「世界各地で未だに闘争が止まらないようですね」
「敵対勢力は強大ですからね。気は抜けません」
「少しは休んでください。メリッサさんが心配しますよ」
メリッサ。
ボスコがこの名前を口にした時に、ダークの表情が変わった。瞳が揺れ、気まずそうに視線をそらしている。
「……メリッサを悲しませる事になりますね」
ダークの声はか細かった。
ボスコは曖昧に頷いた。
「彼女が幸せになるのを祈りばかりです」
「そうですね……早く闘争を終わらせたいです」
「重ねて申し上げますが、無茶は控えてくださいね。闇の眷属が大切なように、あなたも大切なのですから」
「世界中で存在の抹消を望まれる魔王ですけどね」
ダークは苦笑した。
ボスコは首を横に振りながら笑った。
「勇者なんかに負けないでくださいね」
「簡単には負けませんよ。そのために多大な労力を割いています」
ボスコはクスクス笑った。
「相変わらず頑張り屋さんですね。そういえば教会にたどり着いた時に、何か祈っていたようですが」
「ああ……大した事じゃありませんよ。魔王として人生を全うできるように祈っていました」
ダークは穏やかに笑った。
「俺の寿命が来る頃には、ちったぁ世界が穏やかになっているようにと」
「メリッサさんが幸せになれますようにという事ですね」
「それは……」
ダークが口ごもって俯く。
ボスコは微笑み掛ける。
「メリッサさんが幸せになる為に、あなたが幸せになるべきでしょう」
「俺は幸せですよ。好き放題やっております。ただ、俺が殺戮をするたびにメリッサは心を痛めるでしょうね」
ダークは天井を見上げた。
「早く闘争を終わらせる。それだけです」
「そうですね。僕もできる限り協力します」
「その言葉だけでも感謝します。ただ、くれぐれも余計な事はしないでください。無理に二人きりになるように持ち込もうとするとか」
「バレましたか」
ボスコは苦笑した。
お祈りの時間にダークとメリッサだけ残していったのは、人々が帰った後で二人で話ができると考えたからだ。人々がなかなか帰らず、計画倒れで終わったが。
ダークは切れ長の瞳をぎらつかせた。
「二度とやらないでください。メリッサがどんな気持ちになるのか、分かったものではありません」
「分かりました。ご迷惑をお掛けしましたね」
ボスコは冷や汗をダラダラ流しながら頭を下げた。
ダークはボスコに視線を移し、溜め息を吐いた。
「顔を上げてください。根に持つほどの事ではないと判断しております」
「あなたの優しさに救われます。明日も健やかに生きましょう。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
ダークが一礼したのを見届けて、ボスコはドアに手を掛ける。
チラリと振り向くと、ダークは新たな本を広げていた。
ボスコは何も言わずに部屋を出て、ドアを閉める。
闇の眷属の未来、そしてダークとメリッサの幸せを祈らずにはいられなかった。
迷いなく歩く。そして、ダークの部屋のドアを叩く。
「お入りください」
ドアの向こうからぶっきらぼうな声が返ってきた。
ボスコはゆっくりとドアを開ける。相変わらず大量の本がある。そんな部屋で、ダークは椅子に腰かけて、机にいくつもの分厚い本を広げていた。
ボスコはドアを閉めて、苦笑する。
「相変わらず勉強熱心ですね」
「ワールド・スピリットについて漁っています。俺の命に関わりますからね」
ワールド・スピリットとは異能の総称だ。世界の源をエネルギーにしていると言われる。
ダークは本を読みながら続ける。
「ワールド・スピリットは強力ですが暴走すると使った人間の命を奪いますからね」
「そうですね。過ぎた願いを叶えようとすると、世界の源が怒りを示すようですね。ルドルフ皇帝の蘇生など、世界中に混乱を招きましたね」
ボスコは溜め息を吐いた。
「ワールド・スピリットを使えるようになるには厳しい制約がありますのに、使ったら大きなリスクを伴うなんて理不尽ですね」
「文句を言う所ではないでしょう。ワールド・スピリットのおかげで闇の眷属は命を永らえたのですから。いつまで続くか分かりませんが、あがく余地はあるでしょう」
ダークは頭をかいていた。
「ワールド・スピリットは基本的に使えば使うほど強力になりますが、暴走する基準は定まっていないようです」
「使い手のポテンシャルも影響があるのかもしれませんね。僕は残念ながら全くポテンシャルが無かったようですが」
「使えるようになる条件は、十年間同じ願いを強く持ち続けて、なおかつ同じ願いを持つ人間が誰一人としてワールド・スピリットを発現していない事です。ポテンシャルの問題ではなく、運です」
ダークに説明されて、ボスコは溜め息を吐いた。
「薬草の材料を自在に作れるようになんて、そんなにありふれた願いですかねぇ。もう十年同じ願いを抱き続けても、ワールド・スピリットを得られないなんて理不尽極まりないです」
ボスコは遠い目をした。
ダークは全ての本を閉じて、ボスコに視線を移す。
「ワールド・スピリットを発現した人間が死んでいたら良かったですね」
ワールド・スピリットを発現した人間の死亡後と、ボスコが願い事をしてから十年後と重なっていたら、ボスコはワールド・スピリットを得られたようだ。
ボスコは苦笑する。
「人の死を願うのは神官として問題ありますね」
「俺は願いまくっていますよ」
「さすが魔王と言いたい所ですが、無茶しないようにしてください」
ダークは低い声で笑う。
「神官と軍部の兼任は無茶と呼びませんか?」
「軍部をやめて教会のボディーガードになっても良いでしょう」
「良くありませんよ。リベリオン帝国の窮状は理解していますよね?」
ダークに問われて、ボスコはうなった。
「世界各地で未だに闘争が止まらないようですね」
「敵対勢力は強大ですからね。気は抜けません」
「少しは休んでください。メリッサさんが心配しますよ」
メリッサ。
ボスコがこの名前を口にした時に、ダークの表情が変わった。瞳が揺れ、気まずそうに視線をそらしている。
「……メリッサを悲しませる事になりますね」
ダークの声はか細かった。
ボスコは曖昧に頷いた。
「彼女が幸せになるのを祈りばかりです」
「そうですね……早く闘争を終わらせたいです」
「重ねて申し上げますが、無茶は控えてくださいね。闇の眷属が大切なように、あなたも大切なのですから」
「世界中で存在の抹消を望まれる魔王ですけどね」
ダークは苦笑した。
ボスコは首を横に振りながら笑った。
「勇者なんかに負けないでくださいね」
「簡単には負けませんよ。そのために多大な労力を割いています」
ボスコはクスクス笑った。
「相変わらず頑張り屋さんですね。そういえば教会にたどり着いた時に、何か祈っていたようですが」
「ああ……大した事じゃありませんよ。魔王として人生を全うできるように祈っていました」
ダークは穏やかに笑った。
「俺の寿命が来る頃には、ちったぁ世界が穏やかになっているようにと」
「メリッサさんが幸せになれますようにという事ですね」
「それは……」
ダークが口ごもって俯く。
ボスコは微笑み掛ける。
「メリッサさんが幸せになる為に、あなたが幸せになるべきでしょう」
「俺は幸せですよ。好き放題やっております。ただ、俺が殺戮をするたびにメリッサは心を痛めるでしょうね」
ダークは天井を見上げた。
「早く闘争を終わらせる。それだけです」
「そうですね。僕もできる限り協力します」
「その言葉だけでも感謝します。ただ、くれぐれも余計な事はしないでください。無理に二人きりになるように持ち込もうとするとか」
「バレましたか」
ボスコは苦笑した。
お祈りの時間にダークとメリッサだけ残していったのは、人々が帰った後で二人で話ができると考えたからだ。人々がなかなか帰らず、計画倒れで終わったが。
ダークは切れ長の瞳をぎらつかせた。
「二度とやらないでください。メリッサがどんな気持ちになるのか、分かったものではありません」
「分かりました。ご迷惑をお掛けしましたね」
ボスコは冷や汗をダラダラ流しながら頭を下げた。
ダークはボスコに視線を移し、溜め息を吐いた。
「顔を上げてください。根に持つほどの事ではないと判断しております」
「あなたの優しさに救われます。明日も健やかに生きましょう。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
ダークが一礼したのを見届けて、ボスコはドアに手を掛ける。
チラリと振り向くと、ダークは新たな本を広げていた。
ボスコは何も言わずに部屋を出て、ドアを閉める。
闇の眷属の未来、そしてダークとメリッサの幸せを祈らずにはいられなかった。
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