二人の転生伯爵令嬢の比較

紅禰

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グウェンドリンがそうきっぱりと告げて、グンナールから自身を守るように立ちはだかる姿を、カトリーヌは信じられないものを見る目で見ていた。

なにせ、ここまで姉妹でありながら関係性が非常に軽薄な自覚のある二人は、このパーティーにおいてもほとんど交流がない。

最初の挨拶などは一緒に受けてはいたものの、それ以降はお互いが思い思いの交流をしていたことからも、双子であるとしてもちょっと仲が悪いのではないかと心配する貴族もいたほどである。

普段の生活からしても、カトリーヌは自身が姉に守られるような関係ではないことを自覚していた。
けれど、こうして守られる立場に立った瞬間、カトリーヌはこう思った。

「(もしかして、お姉さまって私の事好きなの!?)」

全く持って、とんでもない勘違いである。

グウェンドリンはカトリーヌに対して困った妹という認識は持っているものの、表立って大好きだと公言するほど、妹に思い入れはない。

むしろ、好きでもないしそこまで嫌いでもないが、非常に困ってしまう妹といった絶妙に微妙な立ち位置に立っていた。

そんなカトリーヌの大荒れの内心はともかく、グンナールに対して不法侵入者と断言したグウェンドリンに対し、グンナールはこれでもかと怒りをあらわにしたひどい形相に変わる。

蟀谷に青筋が立たんばかりの怒り様はぎちぎちと音を立てそうなくらいに握りしめられた拳の力強さと比例し、どんどんボルテージが上がっていっていることだろう。

「お、俺が不法侵入者だと!?」

ふざけるな!!と叫びだしながらグウェンドリンにずかずかと足音を立てながら近づき、その握りしめられた拳が振りあがるその様子を見て、グウェンドリン自身は「ラッキー」と思った。

殴られたら非常に痛い思いをするだろうが、これでグンナールの不作法ものとしての立場と暴力男としての立ち位置は確定的になる。

もはや我が家に近づくことすら許されないだろう。

貴族家としての立ち位置も台無し。

次期ガウト伯爵を継承するここにはいない長男には悪いと思うが、甘やかされて育って、自分こそが常識と言わんばかりの成長を成し得た弟をきちんと矯正できなかったことを恨むと良い。

暴力沙汰になるのではないかというグンナールの行動に、周りから悲鳴が上がる。

殴られると確信したからなのか、スローモーションのように流れる景色の中で、ガウト伯爵夫妻が真っ青な顔をして倒れかけているのが見えた。

最早言葉にもならない怒鳴り声をあげながらグンナールが殴り掛かった瞬間、グウェンドリンは毎日の武術の鍛錬の成果を披露せんばかりに避けて足払いを掛けたうえで、グンナールの腹を蹴り飛ばした。

走って間に入り、グウェンドリンを守ろうとしたシュヴァルドでさえ硬直するほどの見事な撃退である。

「女に向かって殴り掛かるとは、それでも貴族教育で育った紳士たるべき男ですか?
私が武術の鍛錬の際に護身術の指導も少し受けていたからよいものの、これがカトリーヌであればあなたに酷く殴られ、怪我をしていたことでしょう」

冷え冷えとした冷淡な声は痛みで呻くグンナールにとって苛立ちにしかならない。

更に声を上げようとしたところで、シュヴァルドが抑え込み、侍従たちが護衛兵を引き連れてグンナールを捕縛した。

それでも暴れるグンナールに、これ以上罵声を招待客に聞かせるわけにもいかないので、猿轡を施したうえで不法侵入も同然のガウト伯爵夫妻とともに外へ出す。

グウェンドリンはそれを最後まで見届けるためについていくが、さすがにカトリーヌはあんなのに迫られそうになったということも相まって、グウェンドリンからも「ここに残りなさい」と指示が出る。

「カトリーヌ、あなたは流石に危ないわ。これ以上関わっちゃいけない男よ。
ここで待っていて」

「わ、わかりました」

まさかのかつて攻略対象だと思った男が不法侵入かつ暴力沙汰で貴族社会をほぼ追放も同然の状態になるとは思わなかったカトリーヌは、これ以上グンナールに関わることには積極的になれなかったため、グウェンドリンの指示に従って、傍にいたかつての夜会で交流した令嬢と共にいることを決めて動かなかった。

猿轡をされたとしても、いまだに喚き、暴れ出そうとしているグンナールの姿を見て、招待された客たちはガウト伯爵家との関係を金輪際希薄なものにするべきだという答えを出したところが多かった。

中にはヴァルファズルが天蚕に関しての根回しをした貴族もいるので、その家からしてみればガウト伯爵家が天蚕という、今後大きく経済を回しかねないものを持つ家との関係を完全に断絶させてしまったことに内心大笑いである。

馬鹿な奴らもいたもんだ、あんなに馬鹿な家だったのか、と押し殺した笑い声の中に込めた揶揄は根回しをした家だけには通じていた。

引きずられるグンナールがガウト伯爵夫妻とともに、門の外へと放り出される。

騒ぎを起こした時点でガウト伯爵家の馬車は即座に呼び出し、門の外で待機させられていた。

御者が目を白黒させながら雑に放り出された主家の面々を見ている。

「今回の事は、当然のことながら賠償を請求する。
娘たちの祝いの席を台無しにされた挙句、グウェンドリンに至っては正論を言っているだけなのに殴り掛かられそうになったからな。
これでお前たちの息子が暴力沙汰を引き起こしかけたのは2度目、1度目は不作法で見逃してやったが、今度ばかりは許さん」

放り出した後即座に閉ざされた門を隔てて、ヴァルファズルが冷酷に宣言した。

同席しているフリーンもまた、今後一切の夫人としての付き合いを切り捨てるつもりなのだろう、何も言わないが何とか縋り付こうとするガウト伯爵夫人を感情を感じ取れないような目で見降ろしていた。

とっとと失せろ

その一言でガウト伯爵家の面々から背を向け、両親とお付きの侍女、侍従、そしてグンナールを主に連行した騎士たちが屋敷へ向かっていく。

一人じっと見つめていたグウェンドリンにガウト伯爵家の面々がどうにかしろと声をあげた。

「俺は悪くない!お前たちの方が動かないから!婿入りして伯爵家を継いでやる俺を敬うことをしないから!」

「バカ息子!もう黙れ!!申し訳ありません、グウェンドリン嬢!この者は即座に家から出します!
どうか、どうか我が家とのお付き合いだけは継続を!」

「平に、平にお許しください!!」

最早土下座をする勢いで頭を下げている夫妻はともかく、負け犬の遠吠えとばかりに言い訳ばかりのグンナールに向けて、グウェンドリンは口を開いた。

グンナールはいつだって両親の愛情と両親の権力を前に押し出して、調子のいい事を言っていた。

自分はこの家の出身だからすごいのだ、両親からの愛情と甘やかしを受けられるくらいすごいのだという感覚があるからこそ、自分が知っている高位貴族の前では威張らない。

そして、自分の感覚で偉そうにしていいと思う者の前では容赦なく威張り散らす。

今回も、両親の愛情と甘やかしを笠に着て許されると思っていたなどと言う言い訳を募るばかり。

最早、グウェンドリンから見て彼は弱い犬が吠えているようにしか見えなかった。

そして、そんなグンナールに送るこの言葉のセレクトこそが彼女が貴族教育を受けたことで、現代の言葉と今生での言葉遣いが見事にミックスした結果の言葉であった。



「ごめんなさい、私、負け犬の遠吠えを人間の言葉に直せないの」



こうして、波乱の10歳の誕生日は終わった。
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