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カトリーヌにとって姉の部屋というのは鬼門である。
よくできる姉、できるようになった姉。
自分よりもずっと努力している人である姉。
そうしたものを姉の部屋を昔から訪れるたびにそれを思い知らされた。
自分の部屋よりもすっきりとしているが、自分の部屋よりも品のある部屋の中は、双子の姉妹なのに大きな違いを理解させられざるを得なかった。
そしてそれはタウンハウスでも同じ。
ズンズンと突き進むようにして姉の部屋の前に行き、いざノックをしようとしたところでガチャリと扉が開いた。
「…、ひえっ!?カトリーヌ様!?」
姉付きの侍女が扉を開けたところ、真ん前にカトリーヌがいたのに驚いた侍女が悲鳴のような声を上げたので、その後ろからひょっこりと姉が顔を見せて驚いた顔をした。
「カトリーヌ?どうしたの?」
「お姉さま、お願いがあるの!」
姉妹が話し始めたのでスッと横にずれた侍女、マーガレットはカトリーヌの言葉に少し顔をゆがめた。
まーたこの妹様はグウェンドリン様に無茶なこと言う気だな、と表情が物語る。
実際、幼少期のあれやこれやを思い出せばひたすら面倒なことをしゃべり続ける様はいまだに色濃く脳内に残っている。
今回もその手の類だろうとマーガレットはひたすらに邪推した。
「うーん、後ではダメかしら?私今から仕事なのだけれど」
先ほどカトリーヌの目の前でフリーンがメイドに伝言を頼んだのを忘れていたのか、カトリーヌは今更担ってハッとなったが、それでも引けない。
時間が経つにつれて母が父宛てに手紙を送ってしまう可能性は高まるのだ。
「お願い!今聞いてほしいの!」
そういって一歩も引かないカトリーヌに困り果てたグウェンドリンだが、このままではカトリーヌは一歩も引かずに自分は仕事に行けないだろうという予想が当たりそうなので、「とりあえず、10分だけよ」と伝えて部屋へと招き入れた。
それから話を聞いたグウェンドリンははっきりと
「それは私がどうこうできる問題じゃないわ」
と告げた。
「どうして?!次期当主のお姉さまならなんとかできるでしょ!?」
「できないのよ。あなたとスカルド殿との婚約に関連するものでしょう?
そうした家の方向性を決めるような大きなものは、お父様の直轄。
家の代表者であるお父様と、あちらの代表者であるブラギ伯爵と結ばれた家と家の契約よ。
私がいくら次期当主だとは言っても、お父様が二人の婚約の大きな前進につながるからと考えれば、お母さまと私にある程度相談と報告だけしてすぐ承諾するでしょう」
「そんな、私、どうしても行きたくないの!」
せっかくの長期休暇の1週間を、こんなことに使うなんて
そう思わずぽろりと出た本音に、グウェンドリンはわかるような分からないようなといった複雑な表情をした。
元々日本の学生だったグウェンドリンとしても、学生の長期休暇の1週間がかなり大きなものであるというのはよくわかる。
あっという間に過ぎ去ってしまうが、1日中ほぼ好きなことをして自由に過ごせるというのはとても素晴らしいものだった。
特に小学生の時代なんかは、宿題とラジオ体操がネックではあったものの、それでも朝から夕方まで友達と遊びまわったり、親戚の集まりに参加して親戚の子供たちと寝る前までゲームして遊んだりとほんとうに楽しく過ごしていた。
とはいえ、今では貴族令嬢。
だからこそ嫁に行く令嬢が相手側の家に短期間でも滞在しないかと誘われることの大きさを知ってしまっている。
相手先に滞在するということは、嫁入り前にぜひ自分の家を見ていってほしいという大きなお誘いだ。
つまり、相手側はもうその令嬢を逃がすつもりはないということ。
他家の仕来りや縛り、決まりなどを知って早々逃がすような真似は、どこの家もするわけがないので、滞在中にそのあたりを学んだらもう決定事項ともいえた。
グウェンドリンの婚約者であるシュヴァルドは婚約が決まって家に仕事を学びに来たその日のうちに仕来りなどを自分から学ばせてもらっていたので、むしろ彼の方が喜んで婿に来るために決定的なものにしたともいえるだろう。
「とにかく、これに関してはどうしても行きたくないということをお父様にあなた自身が手紙で伝えなさい。
お母様の手紙と一緒に出せば、お母さまの意見だけが即座に了承されることはないでしょうし、お父様に相談する時間もできるはずよ。
ただ、どうして嫌なのか、論理的な理由でないとお父様は納得してくれないでしょうから、よく考えて手紙を書くように」
さ、私も仕事に行きますから、そろそろ部屋から出て頂戴。
そう言って退室を促す姉に、カトリーヌ肩を落としつつもまだ活路はあると即座に席を立って部屋から出ていく。
そして部屋に戻って、友人に送るばかりで可愛いものしかない便箋を一枚ひっつかみ、彼女は初めて父親に手紙を認めるのだった。
よくできる姉、できるようになった姉。
自分よりもずっと努力している人である姉。
そうしたものを姉の部屋を昔から訪れるたびにそれを思い知らされた。
自分の部屋よりもすっきりとしているが、自分の部屋よりも品のある部屋の中は、双子の姉妹なのに大きな違いを理解させられざるを得なかった。
そしてそれはタウンハウスでも同じ。
ズンズンと突き進むようにして姉の部屋の前に行き、いざノックをしようとしたところでガチャリと扉が開いた。
「…、ひえっ!?カトリーヌ様!?」
姉付きの侍女が扉を開けたところ、真ん前にカトリーヌがいたのに驚いた侍女が悲鳴のような声を上げたので、その後ろからひょっこりと姉が顔を見せて驚いた顔をした。
「カトリーヌ?どうしたの?」
「お姉さま、お願いがあるの!」
姉妹が話し始めたのでスッと横にずれた侍女、マーガレットはカトリーヌの言葉に少し顔をゆがめた。
まーたこの妹様はグウェンドリン様に無茶なこと言う気だな、と表情が物語る。
実際、幼少期のあれやこれやを思い出せばひたすら面倒なことをしゃべり続ける様はいまだに色濃く脳内に残っている。
今回もその手の類だろうとマーガレットはひたすらに邪推した。
「うーん、後ではダメかしら?私今から仕事なのだけれど」
先ほどカトリーヌの目の前でフリーンがメイドに伝言を頼んだのを忘れていたのか、カトリーヌは今更担ってハッとなったが、それでも引けない。
時間が経つにつれて母が父宛てに手紙を送ってしまう可能性は高まるのだ。
「お願い!今聞いてほしいの!」
そういって一歩も引かないカトリーヌに困り果てたグウェンドリンだが、このままではカトリーヌは一歩も引かずに自分は仕事に行けないだろうという予想が当たりそうなので、「とりあえず、10分だけよ」と伝えて部屋へと招き入れた。
それから話を聞いたグウェンドリンははっきりと
「それは私がどうこうできる問題じゃないわ」
と告げた。
「どうして?!次期当主のお姉さまならなんとかできるでしょ!?」
「できないのよ。あなたとスカルド殿との婚約に関連するものでしょう?
そうした家の方向性を決めるような大きなものは、お父様の直轄。
家の代表者であるお父様と、あちらの代表者であるブラギ伯爵と結ばれた家と家の契約よ。
私がいくら次期当主だとは言っても、お父様が二人の婚約の大きな前進につながるからと考えれば、お母さまと私にある程度相談と報告だけしてすぐ承諾するでしょう」
「そんな、私、どうしても行きたくないの!」
せっかくの長期休暇の1週間を、こんなことに使うなんて
そう思わずぽろりと出た本音に、グウェンドリンはわかるような分からないようなといった複雑な表情をした。
元々日本の学生だったグウェンドリンとしても、学生の長期休暇の1週間がかなり大きなものであるというのはよくわかる。
あっという間に過ぎ去ってしまうが、1日中ほぼ好きなことをして自由に過ごせるというのはとても素晴らしいものだった。
特に小学生の時代なんかは、宿題とラジオ体操がネックではあったものの、それでも朝から夕方まで友達と遊びまわったり、親戚の集まりに参加して親戚の子供たちと寝る前までゲームして遊んだりとほんとうに楽しく過ごしていた。
とはいえ、今では貴族令嬢。
だからこそ嫁に行く令嬢が相手側の家に短期間でも滞在しないかと誘われることの大きさを知ってしまっている。
相手先に滞在するということは、嫁入り前にぜひ自分の家を見ていってほしいという大きなお誘いだ。
つまり、相手側はもうその令嬢を逃がすつもりはないということ。
他家の仕来りや縛り、決まりなどを知って早々逃がすような真似は、どこの家もするわけがないので、滞在中にそのあたりを学んだらもう決定事項ともいえた。
グウェンドリンの婚約者であるシュヴァルドは婚約が決まって家に仕事を学びに来たその日のうちに仕来りなどを自分から学ばせてもらっていたので、むしろ彼の方が喜んで婿に来るために決定的なものにしたともいえるだろう。
「とにかく、これに関してはどうしても行きたくないということをお父様にあなた自身が手紙で伝えなさい。
お母様の手紙と一緒に出せば、お母さまの意見だけが即座に了承されることはないでしょうし、お父様に相談する時間もできるはずよ。
ただ、どうして嫌なのか、論理的な理由でないとお父様は納得してくれないでしょうから、よく考えて手紙を書くように」
さ、私も仕事に行きますから、そろそろ部屋から出て頂戴。
そう言って退室を促す姉に、カトリーヌ肩を落としつつもまだ活路はあると即座に席を立って部屋から出ていく。
そして部屋に戻って、友人に送るばかりで可愛いものしかない便箋を一枚ひっつかみ、彼女は初めて父親に手紙を認めるのだった。
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