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大人への一歩
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スーパーで今晩の食材と林檎ジュース、涼眞が飲むビールに、途中で隣の百円均一で一通りの物を買い終えると、咲人は再び彼のエコバッグを持っていない方の手を握った。傍から見れば、仲の良い兄弟の様だ。
通り過ぎる人も、特に不思議そうに見る様子もない。
アパートに着くと、普段と変わらず手洗いうがいは忘れずに済ますと、二人はリビングへ向かった。涼眞は真っ先にキッチンへ行き、エコバッグの中の生鮮食品と飲み物を冷蔵庫に入れる。
その殆どの物を入れると、炊飯器の中の釜を取り出し、流し台で素早く米を研ぎ始めた。
「咲人、米炊けるまでに先風呂入ってこい」
「先生は一緒に入らないの?」
「入らねぇよ」
「えー、つまんない」
「じゃあ、代わりに近々温泉旅行でも行くか」
不満そうにしていた咲人の顔が、一瞬で晴れる。
涼眞から誘う事はあまりない。しかも旅行ともなれば、胸が高まる。
涼眞は一旦キッチンから離れ、隣の部屋から服を出すと、それを咲人に手渡した。
「シャワーでも良いけど、お湯張るか?」
「ううん、シャワーでいいよ」
脱衣所に向かう後ろ姿を背に再びキッチンへ戻ると、フライパンをガス代に乗せ、温める。その間に、余っていた玉ねぎを半分に切り、一定のリズムでみじん切りにし、シンク下の棚からボウルを取り出した。
その中に、先程買ってきた挽肉と卵一つを取り出し、塩、胡椒、ナツメグ、パン粉、そして細かく刻んだ牛脂を入れると、それ等を手早く捏ねる。夕飯は、咲人の要望でハンバーグだ。
一人暮らしではあるが、元々料理好きの涼眞にとっては、普段から自炊している事もあり、ハンバーグは彼の得意料理の一つでもある。
温まったフライパンに油を敷き、ボウルの中の種を慣れた手つきで小判型に整え、中央に窪みを少し付けると、ゆっくりフライパンに並べ、蓋をする。中では、大きなハンバーグが二つ並んでいる。
焼いている間、キャベツとレタス、加えて胡瓜にトマトのサラダを作ると、要領良くフライパンの隣に水を入れた鍋に火を点けた。スープを作り、ハンバーグが焼ければ、後はソースを作り、米が炊ければ完成だ。
その間、涼眞は食材と一緒に百円均一で買ってきた新聞紙に包まれた花瓶を手に取る。
中を開けると、口が広い瓢箪型の厚いガラス製の花瓶が、天井のライトを反射した。
そこへ、半分より少なめの水を入れると、咲人からプレゼントされた向日葵の花束を挿す。
11本の黄色い花束は、ギリギリだが花瓶に収まった。
涼眞はそれをテレビの脇に置くと、カタカタと音を立てる鍋の元へ向かった。
「先生、上がったよ」
バスタオルで髪を撫でながら、オーバーサイズの白いTシャツと、涼眞が穿けば膝上丈だが、彼が穿くと七分丈の黒いジャージを身に纏った咲人が声を掛けた。
鍋に幾つかの具材を入れ終わると、火を弱め、涼眞は冷蔵庫から冷えた林檎ジュースとビールを取り出し、テーブルに置くと、ソファに腰掛けた。
「先生、今日はジュース飲むの?」
「どう考えても逆だろ」
笑いながらビールのプルトップを開けると、咲人も隣に座り、ジュースに手を添えた。
「乾杯」と小さく言うと、同じタイミングで缶に口を付ける。ゴクゴクと喉が鳴る。
「本当、ビール好きだね」
「これが楽しみで生きてるとこもあるからな」
「母さんの一口貰った事あるけど、苦くて飲めなかったよ」
「まだまだお子様味覚なんだよ。成人してから、飲めると良い・・・」
言葉を言い終える前に、唇に柔らかい感触が当たった。仄かに林檎の味がする。
「僕、先生が思ってる程、子供じゃないよ」
普段の咲人の笑顔は消え、その瞳は真っ直ぐに涼眞を捉えていた。
通り過ぎる人も、特に不思議そうに見る様子もない。
アパートに着くと、普段と変わらず手洗いうがいは忘れずに済ますと、二人はリビングへ向かった。涼眞は真っ先にキッチンへ行き、エコバッグの中の生鮮食品と飲み物を冷蔵庫に入れる。
その殆どの物を入れると、炊飯器の中の釜を取り出し、流し台で素早く米を研ぎ始めた。
「咲人、米炊けるまでに先風呂入ってこい」
「先生は一緒に入らないの?」
「入らねぇよ」
「えー、つまんない」
「じゃあ、代わりに近々温泉旅行でも行くか」
不満そうにしていた咲人の顔が、一瞬で晴れる。
涼眞から誘う事はあまりない。しかも旅行ともなれば、胸が高まる。
涼眞は一旦キッチンから離れ、隣の部屋から服を出すと、それを咲人に手渡した。
「シャワーでも良いけど、お湯張るか?」
「ううん、シャワーでいいよ」
脱衣所に向かう後ろ姿を背に再びキッチンへ戻ると、フライパンをガス代に乗せ、温める。その間に、余っていた玉ねぎを半分に切り、一定のリズムでみじん切りにし、シンク下の棚からボウルを取り出した。
その中に、先程買ってきた挽肉と卵一つを取り出し、塩、胡椒、ナツメグ、パン粉、そして細かく刻んだ牛脂を入れると、それ等を手早く捏ねる。夕飯は、咲人の要望でハンバーグだ。
一人暮らしではあるが、元々料理好きの涼眞にとっては、普段から自炊している事もあり、ハンバーグは彼の得意料理の一つでもある。
温まったフライパンに油を敷き、ボウルの中の種を慣れた手つきで小判型に整え、中央に窪みを少し付けると、ゆっくりフライパンに並べ、蓋をする。中では、大きなハンバーグが二つ並んでいる。
焼いている間、キャベツとレタス、加えて胡瓜にトマトのサラダを作ると、要領良くフライパンの隣に水を入れた鍋に火を点けた。スープを作り、ハンバーグが焼ければ、後はソースを作り、米が炊ければ完成だ。
その間、涼眞は食材と一緒に百円均一で買ってきた新聞紙に包まれた花瓶を手に取る。
中を開けると、口が広い瓢箪型の厚いガラス製の花瓶が、天井のライトを反射した。
そこへ、半分より少なめの水を入れると、咲人からプレゼントされた向日葵の花束を挿す。
11本の黄色い花束は、ギリギリだが花瓶に収まった。
涼眞はそれをテレビの脇に置くと、カタカタと音を立てる鍋の元へ向かった。
「先生、上がったよ」
バスタオルで髪を撫でながら、オーバーサイズの白いTシャツと、涼眞が穿けば膝上丈だが、彼が穿くと七分丈の黒いジャージを身に纏った咲人が声を掛けた。
鍋に幾つかの具材を入れ終わると、火を弱め、涼眞は冷蔵庫から冷えた林檎ジュースとビールを取り出し、テーブルに置くと、ソファに腰掛けた。
「先生、今日はジュース飲むの?」
「どう考えても逆だろ」
笑いながらビールのプルトップを開けると、咲人も隣に座り、ジュースに手を添えた。
「乾杯」と小さく言うと、同じタイミングで缶に口を付ける。ゴクゴクと喉が鳴る。
「本当、ビール好きだね」
「これが楽しみで生きてるとこもあるからな」
「母さんの一口貰った事あるけど、苦くて飲めなかったよ」
「まだまだお子様味覚なんだよ。成人してから、飲めると良い・・・」
言葉を言い終える前に、唇に柔らかい感触が当たった。仄かに林檎の味がする。
「僕、先生が思ってる程、子供じゃないよ」
普段の咲人の笑顔は消え、その瞳は真っ直ぐに涼眞を捉えていた。
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