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第二章 至分の試練が終わりません
第18話 思ったようには進みません
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「それは如何なる御沙汰でしょうか」
認められたということと、何もしていないということ、その折り合いがクルシアスの中でつかずに困惑する。
今日のために、この試練のために、クルシアスは五年を掛けて準備して来た。
過去の試練で剣を交えたポーシュ達を想定し、五芒星将ライザーム自身が出て来る可能性まで含めて、自らを磨き、部下を鍛え、作戦を練り、物資も装備も整えさせた。
その全てをライザームに見てもらい、認めてもらう。
でなければ、主に胸を張って報告が出来ない。
「クルシアス閣下」
ポーシュが、クルシアスを自分よりも格上の魔将として呼び掛ける。
「ライザーム様は、クルシアス閣下をお認めになられ、お許しを出されました。今、この瞬間から、次期五芒星将候補としてお振舞いください」
クルシアスは、はっとして、真っ直ぐに立ち上がり、ライザームに一礼する。
「納得いかぬか?」
「決してそのような」
「顔に出ておるぞ」
ライザームは、クルシアスを明らかにからかっていた。
「ただ、試練を受けず、何もせずに認められたとは、どう主に報告すればよいか、迷っております」
「試練なら五年も前に与えているし、三年程で達成するかと思っていたら、今日まで掛かったことの方に、私は驚いておるよ、クルシアス。本来であれば、『四つ星』殿と共に、魔王陛下へ速やかに奏上せよと助言すべきところだが、今回いつ奏上すべきかは『四つ星』殿のご判断にお任せする」
五年前と言われて、クルシアスは魔将級の試練を思い出す。
その何年も前から、魔将としてライザームの下へ赴き、至分の試練を受けよと命じられていたが、自分の未熟を盾に固辞していた。
さらにその十数年前に魔人級の試練を受けた際、東の砦のポーシュ達に、文字通りコテンパンにされたからだ。負けた屈辱というより自分の世界の狭さと外の世界の奥深さに驚愕を感じた。
それでも魔人級と認められたのは、幸運だったし、更なる向上をせねばと自らを律して来た。
満を持しての五年前の魔将級の試練は、ポーシュと互角に渡り合い、ライザームからも直接お褒めの言葉をいただいている。
「あっ」
クルシアスは思わず声を漏らした。確かにその時言われたのだ。『一軍を率いて戦うだけでなく、ハラック殿を支えられる魔将となりたければ、ただ自分が強いだけでは駄目だ。部下を育て、策を練り、周到に準備をして、不測の事態にも余裕を持って対応出来るようになれ』と。
「思い出したか?」
「もしや、あの時から試練は始まっていたのですか?」
「自らを甘やかさず、傲らず。これだけの数の配下をここまで育て上げ、十分な装備と準備を以て、ここに至った。見事だ。しかも、五年前と同じく、自分の得意の氷結魔法が不利な夏至の時期を選んで挑む気概や良し」
前回を上回る賛辞を受け、クルシアスはやっと試練を合格したのだと言う実感が出て来た。
「それに私はあの時に言ったはずだ、『戦って勝つのは魔将ならば当たり前、上級の魔将は戦う前に全ての準備を整え、配下の魔将から勝利の報告を待つのみ』と。クルシアス、その準備を整えることが出来ることを、私に見せればよいのだ。そして、その通りにやってみせた。だから、試練は完了だ」
「ははっ」
「それはいいが、この際、お主には言いたいことが三つある」
ライザームの興が乗ると、話はあらぬ方へ飛んで行く。
「一つ、準備に五年は、時間が掛かり過ぎだ。ハラック殿は二年と読んでいたし、私は慎重を期して三年は時間を掛けるだろうと賭けをしていたが、丸っと五年では賭けにならぬ」
クルシアスへのあまりの物言いに、流石にポーシュが苦言を呈する。
「ライザーム様、それをクルシアス閣下のせいのようにおっしゃるのは流石に無理がありましょう。五芒星将の資格を、五芒星将の方々ご自身が賭けの対象とするのは、不謹慎ではありますまいか 」
「何の不謹慎なものか。ポーシュ、お前のその銀狼の鎧も、魔王陛下との賭けで得たものだぞ。陛下ですら、私がコボルト出自の魔将を二十年足らずで出せるとはお思いにならず、三十年以内に私が育て上げることが出来たら、最初のコボルトの魔将には、暗黒十二騎士級の鎧を与えるとの約束を、魔王陛下は守ってくださった」
ポーシュはいきなり自分へ矛先が向いて戸惑う。
「ハラック殿は、自らの後継者を二年で鍛え上げると言い、私はその性格から二年では準備が万全ではないと固辞すると読んだ。賭けの賞品も用意していたぞ。渡すのが、二年遅れになったがな」
ライザームの手の内に、精霊石の嵌まった杖が現れる。六つの宝珠=精霊石は、それぞれ異なる色で輝いていた。
「新たなる五芒星将候補、『氷魔将』クルシアスに、六宝珠の杖と『六重精霊呪圏』の呪文を授ける。精霊王の祝福あれ」
ライザームの手の内からクルシアスの前へ、杖は空中を滑るように移動した。
クルシアスの手に納まった途端、杖から魔法の術式がクルシアスに流れ込む。
「ありがたく頂戴いたします」
「で、二つ目だが、最初にここに来てから二十年が過ぎると言うに、まだまだ真正直が過ぎる。遊びも駆け引きも足りぬ。余裕と深慮が上に立つ者に欠けていれば、下の者は安心して従っておれぬぞ」
ノゾムには、余裕綽綽に振舞っていたように見えたクルシアスだが、ライザームはまだ足りないと言う。
ポーシュもクローチも言葉の意味を探るように、ライザームの方を見ている。
「五年もかかった、いやお主が五年かけた理由を当ててやろうか?」
そう言われて、クルシアスに緊張の色がはしる。
ここまで周到に用意した仕掛けを見破られた焦り、いや簡単に見破られるはずはないという葛藤が、内心に渦巻いている。
「まさかとは思ったが、四人の将はともかく、残り四十五人の兵士も全てが、獣化できる獣人か、人化できる魔獣だな。兵を育てると言っても、これはやり過ぎだぞ」
大人しくただの兵士の振りをしていた古参兵達は平然としているが、獣化を会得して間もない若い兵達はバレたことに動揺を隠せない様子だ。
「なぜ、そうお思いになられたのですか?」
クルシアスは、しらばくれる方に舵を切った。
「お主が生真面目だから、部下も堅くなるし融通が利かない面も出て来る。昨日、チャタに誰何された際に、応えた者が『氷魔将クルシアスと獣化兵中隊』と名乗ったそうではないか?」
虎の獣人の将が、思わず俯いた。やらかしたのは、彼らしい。
「そう名乗るからには、獣化できる者を中隊の三分の一は揃えたかと思ったが、見れば全員ではないか。あきらかに中隊の規模、戦力を越えている。魔王陛下の近衛隊でもあるまいに、己の趣味に偏り過ぎた部隊編成だ」
普通にたとえに出るくらい、魔王の近衛隊は偏った編成ということかと、ゼルドは違う方に興味をそそられる。
「そして最後に、気分が高揚し過ぎたか、一晩を経てもまだ、周囲が、状況が見えておらぬ。見知っているからこそ、事を起こす際には正確に自分の置かれている状況を判断できねばならぬ。至分の試練など、偏屈な魔将の祭りの座興と思うたか? それとも、緊張のあまり視野が狭まったか? まさか、本当に、この東の砦を陥落すつもりで来たわけではあるまいな」
ライザームの三つ目の苦言こそ、クルシアスには心当たりが全く無さそうだ。
ポーシュ達、東の砦の幹部を除けば、今ライザームを最も尊敬し一目も二目も置いているのはクルシアス本人に間違いない。
「そのようなことは滅相も無く」
「だが、お主、ほんのついさっきまで、実際に戦う気でおったであろう」
「それは、試練のため。如何様な課題をいただきましょうとも、全員全力で立ち向かう気でおりました」
ライザームは、苦笑しながら自分の右手に控えたベリーヌを見る。
「で、どこを戦場にする気だった、クルシアス?」
その問いの意味が掴めない。
「人化を解いた魔獣と獣化した獣人、お主が万全を期したと言うからには、お主を含む五人の将と数人は魔獣化までできるに違いない。魔獣が十頭以上に完全獣化した獣人が四十弱。同数のこちらの兵が出て応戦するとして、どこで戦う?」
砦前の広場と砦の屋上と各方面に伸びた山道を除けば、砦は広大なガーディアンベリーの果樹園に囲まれている。
しかも、今は収穫期の真っ只中だ。
クルシアスは、言葉一つで、先程とは比べ物にならない窮地に陥っていた。
「ガーディアンベリーの女王は、ひどくご立腹だ。踏みにじることも厭わぬ覚悟で来たのならば、その覚悟に相応しい最期を与えるのも辞さぬと仰せであるぞ」
ライザームはふざけたように言い、クルシアスの口が開くのを待っている。
正直なところ、クルシアスはこの広場を一瞬で魔獣と獣化した兵士で埋め尽くし、圧倒するつもりだった。正攻法と士気の高い兵士の勢いは、下手な策に勝る、とクルシアスは思っている。
敵地であれば、この強襲は回避不能の一撃であり、ほぼ戦いの趨勢を決める一手だが、貴重な収穫であり、同時にベリーヌの眷属でもあるガーディアンベリーの果樹園に被害無しとはいかない。
「考えが足りませんでした」
事実としてそれを認める他は無い。
「よい。実際の試練であれば、我が結界で遮断するのであるから、問題はない。ただ、それを行える部隊を引き連れて、無造作に東の砦に接近したのは、非常に危険な、挑発と受け取られてもしかたない行為だったということは覚えておけ」
ライザームが、クルシアスを下がらせようとしたその時、クルシアスの後ろの四人の将の内、鹿の獣人が意を決したように前に出た。
「恐れながら、ライザーム閣下にお願いしたき儀がございます」
認められたということと、何もしていないということ、その折り合いがクルシアスの中でつかずに困惑する。
今日のために、この試練のために、クルシアスは五年を掛けて準備して来た。
過去の試練で剣を交えたポーシュ達を想定し、五芒星将ライザーム自身が出て来る可能性まで含めて、自らを磨き、部下を鍛え、作戦を練り、物資も装備も整えさせた。
その全てをライザームに見てもらい、認めてもらう。
でなければ、主に胸を張って報告が出来ない。
「クルシアス閣下」
ポーシュが、クルシアスを自分よりも格上の魔将として呼び掛ける。
「ライザーム様は、クルシアス閣下をお認めになられ、お許しを出されました。今、この瞬間から、次期五芒星将候補としてお振舞いください」
クルシアスは、はっとして、真っ直ぐに立ち上がり、ライザームに一礼する。
「納得いかぬか?」
「決してそのような」
「顔に出ておるぞ」
ライザームは、クルシアスを明らかにからかっていた。
「ただ、試練を受けず、何もせずに認められたとは、どう主に報告すればよいか、迷っております」
「試練なら五年も前に与えているし、三年程で達成するかと思っていたら、今日まで掛かったことの方に、私は驚いておるよ、クルシアス。本来であれば、『四つ星』殿と共に、魔王陛下へ速やかに奏上せよと助言すべきところだが、今回いつ奏上すべきかは『四つ星』殿のご判断にお任せする」
五年前と言われて、クルシアスは魔将級の試練を思い出す。
その何年も前から、魔将としてライザームの下へ赴き、至分の試練を受けよと命じられていたが、自分の未熟を盾に固辞していた。
さらにその十数年前に魔人級の試練を受けた際、東の砦のポーシュ達に、文字通りコテンパンにされたからだ。負けた屈辱というより自分の世界の狭さと外の世界の奥深さに驚愕を感じた。
それでも魔人級と認められたのは、幸運だったし、更なる向上をせねばと自らを律して来た。
満を持しての五年前の魔将級の試練は、ポーシュと互角に渡り合い、ライザームからも直接お褒めの言葉をいただいている。
「あっ」
クルシアスは思わず声を漏らした。確かにその時言われたのだ。『一軍を率いて戦うだけでなく、ハラック殿を支えられる魔将となりたければ、ただ自分が強いだけでは駄目だ。部下を育て、策を練り、周到に準備をして、不測の事態にも余裕を持って対応出来るようになれ』と。
「思い出したか?」
「もしや、あの時から試練は始まっていたのですか?」
「自らを甘やかさず、傲らず。これだけの数の配下をここまで育て上げ、十分な装備と準備を以て、ここに至った。見事だ。しかも、五年前と同じく、自分の得意の氷結魔法が不利な夏至の時期を選んで挑む気概や良し」
前回を上回る賛辞を受け、クルシアスはやっと試練を合格したのだと言う実感が出て来た。
「それに私はあの時に言ったはずだ、『戦って勝つのは魔将ならば当たり前、上級の魔将は戦う前に全ての準備を整え、配下の魔将から勝利の報告を待つのみ』と。クルシアス、その準備を整えることが出来ることを、私に見せればよいのだ。そして、その通りにやってみせた。だから、試練は完了だ」
「ははっ」
「それはいいが、この際、お主には言いたいことが三つある」
ライザームの興が乗ると、話はあらぬ方へ飛んで行く。
「一つ、準備に五年は、時間が掛かり過ぎだ。ハラック殿は二年と読んでいたし、私は慎重を期して三年は時間を掛けるだろうと賭けをしていたが、丸っと五年では賭けにならぬ」
クルシアスへのあまりの物言いに、流石にポーシュが苦言を呈する。
「ライザーム様、それをクルシアス閣下のせいのようにおっしゃるのは流石に無理がありましょう。五芒星将の資格を、五芒星将の方々ご自身が賭けの対象とするのは、不謹慎ではありますまいか 」
「何の不謹慎なものか。ポーシュ、お前のその銀狼の鎧も、魔王陛下との賭けで得たものだぞ。陛下ですら、私がコボルト出自の魔将を二十年足らずで出せるとはお思いにならず、三十年以内に私が育て上げることが出来たら、最初のコボルトの魔将には、暗黒十二騎士級の鎧を与えるとの約束を、魔王陛下は守ってくださった」
ポーシュはいきなり自分へ矛先が向いて戸惑う。
「ハラック殿は、自らの後継者を二年で鍛え上げると言い、私はその性格から二年では準備が万全ではないと固辞すると読んだ。賭けの賞品も用意していたぞ。渡すのが、二年遅れになったがな」
ライザームの手の内に、精霊石の嵌まった杖が現れる。六つの宝珠=精霊石は、それぞれ異なる色で輝いていた。
「新たなる五芒星将候補、『氷魔将』クルシアスに、六宝珠の杖と『六重精霊呪圏』の呪文を授ける。精霊王の祝福あれ」
ライザームの手の内からクルシアスの前へ、杖は空中を滑るように移動した。
クルシアスの手に納まった途端、杖から魔法の術式がクルシアスに流れ込む。
「ありがたく頂戴いたします」
「で、二つ目だが、最初にここに来てから二十年が過ぎると言うに、まだまだ真正直が過ぎる。遊びも駆け引きも足りぬ。余裕と深慮が上に立つ者に欠けていれば、下の者は安心して従っておれぬぞ」
ノゾムには、余裕綽綽に振舞っていたように見えたクルシアスだが、ライザームはまだ足りないと言う。
ポーシュもクローチも言葉の意味を探るように、ライザームの方を見ている。
「五年もかかった、いやお主が五年かけた理由を当ててやろうか?」
そう言われて、クルシアスに緊張の色がはしる。
ここまで周到に用意した仕掛けを見破られた焦り、いや簡単に見破られるはずはないという葛藤が、内心に渦巻いている。
「まさかとは思ったが、四人の将はともかく、残り四十五人の兵士も全てが、獣化できる獣人か、人化できる魔獣だな。兵を育てると言っても、これはやり過ぎだぞ」
大人しくただの兵士の振りをしていた古参兵達は平然としているが、獣化を会得して間もない若い兵達はバレたことに動揺を隠せない様子だ。
「なぜ、そうお思いになられたのですか?」
クルシアスは、しらばくれる方に舵を切った。
「お主が生真面目だから、部下も堅くなるし融通が利かない面も出て来る。昨日、チャタに誰何された際に、応えた者が『氷魔将クルシアスと獣化兵中隊』と名乗ったそうではないか?」
虎の獣人の将が、思わず俯いた。やらかしたのは、彼らしい。
「そう名乗るからには、獣化できる者を中隊の三分の一は揃えたかと思ったが、見れば全員ではないか。あきらかに中隊の規模、戦力を越えている。魔王陛下の近衛隊でもあるまいに、己の趣味に偏り過ぎた部隊編成だ」
普通にたとえに出るくらい、魔王の近衛隊は偏った編成ということかと、ゼルドは違う方に興味をそそられる。
「そして最後に、気分が高揚し過ぎたか、一晩を経てもまだ、周囲が、状況が見えておらぬ。見知っているからこそ、事を起こす際には正確に自分の置かれている状況を判断できねばならぬ。至分の試練など、偏屈な魔将の祭りの座興と思うたか? それとも、緊張のあまり視野が狭まったか? まさか、本当に、この東の砦を陥落すつもりで来たわけではあるまいな」
ライザームの三つ目の苦言こそ、クルシアスには心当たりが全く無さそうだ。
ポーシュ達、東の砦の幹部を除けば、今ライザームを最も尊敬し一目も二目も置いているのはクルシアス本人に間違いない。
「そのようなことは滅相も無く」
「だが、お主、ほんのついさっきまで、実際に戦う気でおったであろう」
「それは、試練のため。如何様な課題をいただきましょうとも、全員全力で立ち向かう気でおりました」
ライザームは、苦笑しながら自分の右手に控えたベリーヌを見る。
「で、どこを戦場にする気だった、クルシアス?」
その問いの意味が掴めない。
「人化を解いた魔獣と獣化した獣人、お主が万全を期したと言うからには、お主を含む五人の将と数人は魔獣化までできるに違いない。魔獣が十頭以上に完全獣化した獣人が四十弱。同数のこちらの兵が出て応戦するとして、どこで戦う?」
砦前の広場と砦の屋上と各方面に伸びた山道を除けば、砦は広大なガーディアンベリーの果樹園に囲まれている。
しかも、今は収穫期の真っ只中だ。
クルシアスは、言葉一つで、先程とは比べ物にならない窮地に陥っていた。
「ガーディアンベリーの女王は、ひどくご立腹だ。踏みにじることも厭わぬ覚悟で来たのならば、その覚悟に相応しい最期を与えるのも辞さぬと仰せであるぞ」
ライザームはふざけたように言い、クルシアスの口が開くのを待っている。
正直なところ、クルシアスはこの広場を一瞬で魔獣と獣化した兵士で埋め尽くし、圧倒するつもりだった。正攻法と士気の高い兵士の勢いは、下手な策に勝る、とクルシアスは思っている。
敵地であれば、この強襲は回避不能の一撃であり、ほぼ戦いの趨勢を決める一手だが、貴重な収穫であり、同時にベリーヌの眷属でもあるガーディアンベリーの果樹園に被害無しとはいかない。
「考えが足りませんでした」
事実としてそれを認める他は無い。
「よい。実際の試練であれば、我が結界で遮断するのであるから、問題はない。ただ、それを行える部隊を引き連れて、無造作に東の砦に接近したのは、非常に危険な、挑発と受け取られてもしかたない行為だったということは覚えておけ」
ライザームが、クルシアスを下がらせようとしたその時、クルシアスの後ろの四人の将の内、鹿の獣人が意を決したように前に出た。
「恐れながら、ライザーム閣下にお願いしたき儀がございます」
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