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◎二年目、九月の章

■はじまりの九月

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 一二期生のメンバーを連れて行くにはレベルが足りない。実際、寺東伊織じとういおり羅貴蘭々らきらら森杉賢司もりすぎけんじは戦闘ではほとんど役に立っていなかった。

 何せどんな魔物だろうが、里奈りな久遠くおんのコンビが瞬殺してしまうのだ。

 しかも経験値は頼果らいかのスキルによって均等に分配される。パワーレベリングのデメリットもこれで帳消しである。

 ちなみに一パーティにつき組めるのは五人まで。ただし、レイドといって複数のパーティで徒党を組むという方法もある。

 久遠たちはこれを利用していた。パーティ間で経験値や資金の配分を九対一まで分割が可能である。

「とりあえずログアウトしよう」

 久遠の指示で一斉にログアウトする。

「レベルというのは基本的にあげるときは慎重にね」

「どうしてっすか?」

 賢司が挙手をして質問する。

「レベルをあげたら死亡したときに払うキャッシュも増えるから、ですよね」

 久遠が答えるより蘭々が答える。こんな名前だが、兄の水呉すいごと同じくメガネをかけてクールぶった物言いをする。

「パワレベやると大量のポイントが入る。だけど、調子に乗ってパラメーターを振ってしまうと装備にお金がかかる。すると死んだときにレベルを維持できないなんてことが起こる」

 だいたい初心者が痛い目を見るのがこのパターンだと言われている。

「パラメーターをあげるときはレベルがあがる直前でポイントの振りを止める。あとは自分の財布と相談だね」

 かく言う久遠はいくらくらい持っているのか。これは里奈もいまだに教えてもらえてなかった。

「あんまり深く考えたことなかったっす」

 勉強になると賢司はうんうんと頷く。当然、既知ですという表情の蘭々。何だかぽやっとしてりかいしているのか怪しい伊織。

 三者三様の反応である。

「そうだな。とりあえず悩む癖はつけてもらいたいな。自分で考えだけで先々までやってしまわないことだ。いいね」

 三人から「はい」という返事が返ってくる。ここからもこの三人が久遠に一目置いてるのは伝わってくる。

 実際に三人とも久遠の話は真面目に聞いている。

「後輩に慕われる先輩って感じよね」

 頼果はそんな久遠を眺めながら、里奈の横に座る。

 頼果とは圧倒的な身長差があるため、里奈はどうしても見あげることになる。

「本人によく見せようって気はないのにね」

 久遠は実力を示しただけで、結果がこれということなのだろう。

 それにしてもだ。

 九月がはじまったというのに残暑はきつく。

 そろそろお昼時も近づきつつある。

 里奈は思わずつぶやく。

「お腹すいた……」
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