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◎二年目、九月の章

■ここが踏ん張りどころ

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 久遠は鎧蛇が牙で噛みついてこようとするのを何と刀で弾き返しながら戦っている。

 里奈はというと久遠の態勢が崩されそうなときに投擲で支援をたまに送るくらいだ。

「私らもテントで待ってるほうがいいんじゃない?」

「こいつがみんなのところへ行かないのならね」

 何も襲いかかってくるのは鎧蛇だけではない。他の蛇の魔物たちも襲ってきて、予断を許さない状況が続いている。

「そうなんだけど」

 晴たちは行商人からクエストを受けて、そちらを優先させるという報告を受けたばかりだ。

 悠長だとは思ってしまったが、鎧蛇の尻尾のあたりに強い蛇が守っていたりすればどのみち足止めを食らう。

 それよりは要石の力によってこちらにプラスになるような何かを得られる方がいいかもしれない。

「あの、僕らはいつまで籠もっているべきなんでしょうか?」

 テントの中から伊織が質問をしてくる。

「こっちがいいっていうまでよ。とにかくいま駄目。それと帰ったら説教だからね」

 テントの中で三人がビクリとしたのがわかった。

「それにしても僕たちが行商人と出会う確率高いよね。レアキャラって話なのに」

「強制ログインゾーン内でやたら出会う印象だけどね」

 ひょっとしたらそういうことかと里奈は思ってしまう。一方でどうして強制ログインゾーンで行商人はやたら現れるのかという疑問もでてくる。

「とりあえず現状はみんなに任せるようにしようか」

 結果どうなるかはいまのところ賭けるしかない。どう転ぶかを予測するのは厳しいだろう。

 もし晴たちが全滅でもすればそれこそ一大事だ。時間はかけられないが、同時にかけざるを得ない部分もある。

 鎧蛇の行動がまるで変わらないのはダメージを一つも与えられていないせいだ。

「ごめんなさい二人とも」

 蘭々は項垂うなだれていた。かなり落ちこんでいるのがわかる。

「気にするなよ。俺もお前の誘いに乗ったクチなんだからよ」

 賢司はへへへと笑う。少しでも自分を格好良く見せようというスケベ心がそこはかとなく垣間見える。

「そうだよ。みんなで怒られようよ」

 伊織が屈託のない笑顔で笑いかけてくる。賢司はやはり伊織が男であるという本人の主張には無理があるような気がしてならない。

 でなければ、こんな近くにいて心臓がばくつくはずないだろう。

「ありがとう、賢司、伊織」

 その言葉をかけてもらえたことが蘭々は単純に嬉しかった。

 さて、三人は果たして気がついていただろうか。こうしている間に確実たまっていく経験値に。

 それはいまも晴たちが戦闘不能にならず戦っているという証左なのだと。
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