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3「俺だから、見せてくれてた?」
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ご飯中、よく話題にあがるのは拓斗のことだった。それも当然で、拓斗は、俺と蒼汰と慧汰にある数少ない共通点。拓斗の話題ならみんなが理解できる。
「高2んときの体育祭、リレーで拓斗、ごぼう抜きしたんだよね」
「あれはマジでヒーローだったな。女子たちみんなきゃあきゃあ言ってたし。男の俺でも惚れそうなくらい」
「へぇ……そうだったんだ」
今日もまた、蒼汰と慧汰から拓斗の話を聞かされる。拓斗はとくに運動が得意なわけでも、好きなわけでもなかった。……たぶんだけど。
小学生の頃、休み時間は俺が描く絵を前の席から覗き込んでいたし、体育のマラソンは、俺と同じ速度で走っていた。
もしかして、俺に合わせてくれていたんだろうか。
小中学生の頃の拓斗のイメージが、蒼汰と慧汰に塗り替えられていく。
「実琴にも見て欲しかったな。俺の活躍」
見たくない。一瞬だけ、頭に浮かんだ冷たい考えを振り払う。
……なんでそんなこと思ったんだろう。
「小中の運動会はどうだったんだよ。拓斗のやつ、活躍してた?」
蒼汰に聞かれて考えてみる。一緒に玉入れをして、組体操をして、熱中症になりかけた俺と日陰で休憩してたっけ。
「とくに活躍してなかったと思うけど……」
高校時代のような派手なエピソードはなにもない。俺にとっては楽しい運動会だったけど、なんだか霞んでしまう。
「蒼汰と慧汰は? 活躍できた?」
2人の活躍に、それほど興味があるわけじゃないけど、なんとなく拓斗の話を聞きたくなくて、俺は話の対象を2人にすり替えた。
夕飯後――
「じゃあ、またな」
3人と別れて改札口に向かおうとする俺を、なぜか拓斗が引き留めた。
腕を掴んで、耳元に口を寄せる。
「拓斗……?」
「あのさ。前から言おうと思ってたんだけど。俺の家来ない?」
まるで囁くように話しかけられて、耳がくすぐったい。
「明日、大学休みだし。うち、誰もいないから」
拓斗はいま、大学の近くで1人暮らしをしている。大学受験のタイミングで親の転勤が決まったらしい。
「でも……」
拓斗の家に行ったら、変わってしまった拓斗を、より間近で見ることになるかもしれない。逆に、変わっていない拓斗を見られる可能性もあるけど。
「蒼汰と慧汰は……?」
「もう帰ったよ。実琴のことしか引き留めてないし、久しぶりに2人で遊びたいんだけど」
拓斗がそう言葉を足した瞬間、鼓動が速くなった。嬉しいのか、申し訳ないのか、自分でもよくわからない。
俺だけ……誘ってくれたんだ。
「うん……じゃあ、行こうかな」
「やった! ありがとう」
少し無邪気に笑う拓斗に、俺は小学生の頃の面影を感じた。
「ちょっと散らかってるけど、あがって」
「おじゃまします」
拓斗が暮らすマンションはオートロックで、部屋は3つあるらしい。学生の1人暮らしにしては、ずいぶんいいところだ。
「なにか飲み物入れてくるよ。そこの部屋で待っててくれる? 気になる漫画とかあれば勝手に読んでいいから」
「うん、わかった」
言われた部屋のドアを開けると、そこには予想外の景色が広がっていた。
大きな本棚に、大量の漫画本。ゲーム機もいろいろある。
「すごい……」
「入り口突っ立ってないで、入りなよ」
拓斗に声をかけられて、俺は自分が立ち尽くしていたことに気づく。
「あ……うん」
「ココアでよかった? あったかいのと冷たいのどうする?」
「あったかいのがいい」
「わかった」
くるりと背を向ける拓斗を、俺は思わず引き止めた。
「拓斗……! まだ、漫画好きだったんだ」
「まだって、なに?」
「だって、大学では全然そんな話しないし、てっきりもう、興味なくなったんじゃないかって……」
「そんなことないけど。アニメも好きだし」
「だったら話してよ! 話してくれたらよかったのに……」
もし話されていたら、拓斗は変わっただなんて、俺も思わなかったかもしれない。
「ああ……ごめん」
「もしかして、漫画とかアニメ好きなの隠してる?」
高校でからかわれた……とか。
「べつに隠してるわけじゃないけど、そういう話題避けてるの、実琴の方じゃない?」
「俺……?」
避けた記憶はないけれど、あえて話題にしてこなかった。拓斗も蒼汰も慧汰も、そういう話はしなさそうに見えたから。
「入学式の日、実琴は絵がうまいんだって、蒼汰たちに言ったでしょ。そんとき、見せたくなさそうにしてたから、隠したいのかなって思って」
拓斗は拓斗で、俺に気を使ってくれていたらしい。
「あのときは、まだ蒼汰たちのことよくわかってなかったし……いまもわかってるわけじゃないけど。そんな不特定多数に見せるつもりないから」
「もしかして……俺だから、見せてくれてた?」
いつから、人に絵を見られることが恥ずかしくなってしまったんだろう。
「拓斗には、子どもの頃からずっと見られてたから、いまさら恥ずかしくないけど。漫画とか、ちゃんと好きな人にしか見せたくないし……」
「まあ、大丈夫なやつらだから、俺もああ言ったんだけどね」
「あの2人も、漫画好きなの?」
「うん。絵描いてるからって、からかうようなやつらじゃないよ」
「そっか……」
そうは見えなかった。
そう言いかけて、ぐっと口をつぐむ。
見た目で判断するなんて、これじゃあバイキングで会った女の人と同じ。申し訳なかったと反省する。
「あいつらかっこいいし、ちょっとチャラついて見えるから、実琴が警戒するのもわかるけどね」
「警戒って……まあ、してたけど」
拓斗には、バレていたのかもしれない。
「大丈夫だよ。そういうの、あの2人は慣れてるから」
「警戒され慣れてる……ってこと?」
「そう。あの2人が教室でおとなしく漫画読んでたら、ちょっと違和感あるでしょ」
たしかに、思い浮かべようと思っても、いまいち想像できない。
「必ずって言っていいほど、誰かがあの2人に声かけてたんだよね。それでつい騒がしくなっちゃうもんだから、実琴みたいにおとなしい子は、みんな敬遠してたと思う」
俺も、その場にいたらたぶん敬遠してただろう。蒼汰と慧汰が悪いわけじゃないけど、傍にいたら不釣り合いだって思われそうで、周りの目も怖い。
ただ、いま俺が2人に抱く感情は、おそらくそれだけじゃない。あの2人のせいで拓斗が変わっちゃった気がして、それが引っかかってたんだと思う。
見た目の雰囲気以外、拓斗が変わっていないなら……。
「実琴と仲良くできて、2人も喜んでるんじゃないかな」
「ええ……俺と仲良くなれても、嬉しくないでしょ」
「嬉しいに決まってるよ。実琴だもん」
根拠のない自信に思えたけど、あまりにも拓斗が得意げに語るもんだから、否定し辛くなってしまう。
「仲良くなれてるかはわかんないけど、拓斗の友達だし、警戒しないようにする」
「うん。漫画好きって言っても、知識じゃ実琴には敵わないだろうから、なにかオススメしてあげたら喜ぶと思うよ」
「俺もそんなに詳しくないけど……」
「俺よりは、詳しいよね」
「……そうかな」
「じゃあ、ココア、入れてくるから」
「うん。ありがとう」
わざわざココアを入れてくれるなんて、やっぱり中学の頃とは違うし、慣れない部分もあるけど、拓斗は拓斗だ。蒼汰と慧汰のことも、これからは、もっと内面を見てみるようにしよう。
その後、拓斗と一緒にゲームをしていたら結構、時間が経っていた。
「そろそろいい時間だけど、どうする?」
時計の針は、夜の10時を指している。
「いまいいとこなのに……」
「実琴、中学の頃と同じ反応してる。俺んち遊びに来て、よく帰りたくないって言ってたよね」
「さすがにもう、そんなわがまま言わないけど」
ため息を漏らしながら、手にしていたコントローラーを拓斗に渡す。
「いいんじゃない? わがまま言っても」
「え?」
「泊まってく?」
明日は土曜日で大学もない。拓斗は一人暮らしだし、拓斗以外の誰かに遠慮することもない。2人で昔みたいに遊んだからか、周りの視線がないからか、なんだかすごく居心地がいい。
「拓斗がいいなら、泊まりたいけど」
「いいよ。家に連絡入れときな」
「うん、ありがとう」
さっそくメールで母親に連絡をいれると、すぐにオッケーの返事がきた。小学生の頃、俺の家によく拓斗が遊びに来ていたこともあって、拓斗のことは親もよく知っている。拓斗ならと、信用してるんだろう。
もう一度、拓斗からコントローラーを受け取った俺は、朝までゲームに熱中した。
「高2んときの体育祭、リレーで拓斗、ごぼう抜きしたんだよね」
「あれはマジでヒーローだったな。女子たちみんなきゃあきゃあ言ってたし。男の俺でも惚れそうなくらい」
「へぇ……そうだったんだ」
今日もまた、蒼汰と慧汰から拓斗の話を聞かされる。拓斗はとくに運動が得意なわけでも、好きなわけでもなかった。……たぶんだけど。
小学生の頃、休み時間は俺が描く絵を前の席から覗き込んでいたし、体育のマラソンは、俺と同じ速度で走っていた。
もしかして、俺に合わせてくれていたんだろうか。
小中学生の頃の拓斗のイメージが、蒼汰と慧汰に塗り替えられていく。
「実琴にも見て欲しかったな。俺の活躍」
見たくない。一瞬だけ、頭に浮かんだ冷たい考えを振り払う。
……なんでそんなこと思ったんだろう。
「小中の運動会はどうだったんだよ。拓斗のやつ、活躍してた?」
蒼汰に聞かれて考えてみる。一緒に玉入れをして、組体操をして、熱中症になりかけた俺と日陰で休憩してたっけ。
「とくに活躍してなかったと思うけど……」
高校時代のような派手なエピソードはなにもない。俺にとっては楽しい運動会だったけど、なんだか霞んでしまう。
「蒼汰と慧汰は? 活躍できた?」
2人の活躍に、それほど興味があるわけじゃないけど、なんとなく拓斗の話を聞きたくなくて、俺は話の対象を2人にすり替えた。
夕飯後――
「じゃあ、またな」
3人と別れて改札口に向かおうとする俺を、なぜか拓斗が引き留めた。
腕を掴んで、耳元に口を寄せる。
「拓斗……?」
「あのさ。前から言おうと思ってたんだけど。俺の家来ない?」
まるで囁くように話しかけられて、耳がくすぐったい。
「明日、大学休みだし。うち、誰もいないから」
拓斗はいま、大学の近くで1人暮らしをしている。大学受験のタイミングで親の転勤が決まったらしい。
「でも……」
拓斗の家に行ったら、変わってしまった拓斗を、より間近で見ることになるかもしれない。逆に、変わっていない拓斗を見られる可能性もあるけど。
「蒼汰と慧汰は……?」
「もう帰ったよ。実琴のことしか引き留めてないし、久しぶりに2人で遊びたいんだけど」
拓斗がそう言葉を足した瞬間、鼓動が速くなった。嬉しいのか、申し訳ないのか、自分でもよくわからない。
俺だけ……誘ってくれたんだ。
「うん……じゃあ、行こうかな」
「やった! ありがとう」
少し無邪気に笑う拓斗に、俺は小学生の頃の面影を感じた。
「ちょっと散らかってるけど、あがって」
「おじゃまします」
拓斗が暮らすマンションはオートロックで、部屋は3つあるらしい。学生の1人暮らしにしては、ずいぶんいいところだ。
「なにか飲み物入れてくるよ。そこの部屋で待っててくれる? 気になる漫画とかあれば勝手に読んでいいから」
「うん、わかった」
言われた部屋のドアを開けると、そこには予想外の景色が広がっていた。
大きな本棚に、大量の漫画本。ゲーム機もいろいろある。
「すごい……」
「入り口突っ立ってないで、入りなよ」
拓斗に声をかけられて、俺は自分が立ち尽くしていたことに気づく。
「あ……うん」
「ココアでよかった? あったかいのと冷たいのどうする?」
「あったかいのがいい」
「わかった」
くるりと背を向ける拓斗を、俺は思わず引き止めた。
「拓斗……! まだ、漫画好きだったんだ」
「まだって、なに?」
「だって、大学では全然そんな話しないし、てっきりもう、興味なくなったんじゃないかって……」
「そんなことないけど。アニメも好きだし」
「だったら話してよ! 話してくれたらよかったのに……」
もし話されていたら、拓斗は変わっただなんて、俺も思わなかったかもしれない。
「ああ……ごめん」
「もしかして、漫画とかアニメ好きなの隠してる?」
高校でからかわれた……とか。
「べつに隠してるわけじゃないけど、そういう話題避けてるの、実琴の方じゃない?」
「俺……?」
避けた記憶はないけれど、あえて話題にしてこなかった。拓斗も蒼汰も慧汰も、そういう話はしなさそうに見えたから。
「入学式の日、実琴は絵がうまいんだって、蒼汰たちに言ったでしょ。そんとき、見せたくなさそうにしてたから、隠したいのかなって思って」
拓斗は拓斗で、俺に気を使ってくれていたらしい。
「あのときは、まだ蒼汰たちのことよくわかってなかったし……いまもわかってるわけじゃないけど。そんな不特定多数に見せるつもりないから」
「もしかして……俺だから、見せてくれてた?」
いつから、人に絵を見られることが恥ずかしくなってしまったんだろう。
「拓斗には、子どもの頃からずっと見られてたから、いまさら恥ずかしくないけど。漫画とか、ちゃんと好きな人にしか見せたくないし……」
「まあ、大丈夫なやつらだから、俺もああ言ったんだけどね」
「あの2人も、漫画好きなの?」
「うん。絵描いてるからって、からかうようなやつらじゃないよ」
「そっか……」
そうは見えなかった。
そう言いかけて、ぐっと口をつぐむ。
見た目で判断するなんて、これじゃあバイキングで会った女の人と同じ。申し訳なかったと反省する。
「あいつらかっこいいし、ちょっとチャラついて見えるから、実琴が警戒するのもわかるけどね」
「警戒って……まあ、してたけど」
拓斗には、バレていたのかもしれない。
「大丈夫だよ。そういうの、あの2人は慣れてるから」
「警戒され慣れてる……ってこと?」
「そう。あの2人が教室でおとなしく漫画読んでたら、ちょっと違和感あるでしょ」
たしかに、思い浮かべようと思っても、いまいち想像できない。
「必ずって言っていいほど、誰かがあの2人に声かけてたんだよね。それでつい騒がしくなっちゃうもんだから、実琴みたいにおとなしい子は、みんな敬遠してたと思う」
俺も、その場にいたらたぶん敬遠してただろう。蒼汰と慧汰が悪いわけじゃないけど、傍にいたら不釣り合いだって思われそうで、周りの目も怖い。
ただ、いま俺が2人に抱く感情は、おそらくそれだけじゃない。あの2人のせいで拓斗が変わっちゃった気がして、それが引っかかってたんだと思う。
見た目の雰囲気以外、拓斗が変わっていないなら……。
「実琴と仲良くできて、2人も喜んでるんじゃないかな」
「ええ……俺と仲良くなれても、嬉しくないでしょ」
「嬉しいに決まってるよ。実琴だもん」
根拠のない自信に思えたけど、あまりにも拓斗が得意げに語るもんだから、否定し辛くなってしまう。
「仲良くなれてるかはわかんないけど、拓斗の友達だし、警戒しないようにする」
「うん。漫画好きって言っても、知識じゃ実琴には敵わないだろうから、なにかオススメしてあげたら喜ぶと思うよ」
「俺もそんなに詳しくないけど……」
「俺よりは、詳しいよね」
「……そうかな」
「じゃあ、ココア、入れてくるから」
「うん。ありがとう」
わざわざココアを入れてくれるなんて、やっぱり中学の頃とは違うし、慣れない部分もあるけど、拓斗は拓斗だ。蒼汰と慧汰のことも、これからは、もっと内面を見てみるようにしよう。
その後、拓斗と一緒にゲームをしていたら結構、時間が経っていた。
「そろそろいい時間だけど、どうする?」
時計の針は、夜の10時を指している。
「いまいいとこなのに……」
「実琴、中学の頃と同じ反応してる。俺んち遊びに来て、よく帰りたくないって言ってたよね」
「さすがにもう、そんなわがまま言わないけど」
ため息を漏らしながら、手にしていたコントローラーを拓斗に渡す。
「いいんじゃない? わがまま言っても」
「え?」
「泊まってく?」
明日は土曜日で大学もない。拓斗は一人暮らしだし、拓斗以外の誰かに遠慮することもない。2人で昔みたいに遊んだからか、周りの視線がないからか、なんだかすごく居心地がいい。
「拓斗がいいなら、泊まりたいけど」
「いいよ。家に連絡入れときな」
「うん、ありがとう」
さっそくメールで母親に連絡をいれると、すぐにオッケーの返事がきた。小学生の頃、俺の家によく拓斗が遊びに来ていたこともあって、拓斗のことは親もよく知っている。拓斗ならと、信用してるんだろう。
もう一度、拓斗からコントローラーを受け取った俺は、朝までゲームに熱中した。
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