無自覚な感情に音を乗せて

水無月

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11『俺のこと……好きだよね?』

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 成人向け作品の声優に対して偏見を持つほど子どもではないし、たとえそれが友達だとしても俺は受け入れる。ただ、事実を知らされるのと、実際に聞くのとではわけが違う。
 拓斗は知らない。俺が拓斗の配信で体を熱くしていることに。
 これは俺が言いさえしなければ、絶対にバレるはずないけど……。

 夜、深夜0時直前。ご丁寧にまた拓斗からメッセージが届いた。配信アドレスと、今日は『0時からだから、聞いて』と文まで添えてある。
 俺は届いたメッセージのアドレスをタップし、配信ページを開いた。
『こんばんはー』
 サクラの……拓斗の配信が始まる。
『初見さん、いらっしゃい。そうそう、不定期なんだけど、最近は毎日しちゃってるね』
 流れていくたくさんのコメントを、サクラは少しずつ拾っていく。
『雑談とか、女性向けのセリフとか読んでます。台本だったり即興だったり……最近は、即興が多いかな』
 拓斗は、即興であんないやらしいセリフを思いつくのか。
『そうそう、聞いてくれる? よくこうして君たちのことかわいがってるでしょ。そしたら、俺の友達が拗ねちゃって』
 俺の友達――自分のことを言われたみたいで心臓の鼓動が速くなる。
 俺じゃない。俺は拗ねてなんかいないし。
『ああ……友達。彼女じゃないよ。男の子。それで、女の子ばっかり攻めるのもなんだし、昨日は男の子にしたんだけどなぁ』
 おそらくほとんど女性である視聴者にしてみれば、特定の女より、男友達の方が都合がいいのだろう。それがわかってて、拓斗も男友達の話を持ち出しているに違いない。
『昨日のじゃ足りなかったみたい。入れてあげられてないからね』
 そういえば昨日、拓斗が言ってたっけ。入れるとこまでしちゃいたいけど、それは明日に取っておこうとかなんとか。
『焦らしちゃったから、今日も男の子と仲良くしていいかな……?』
 拓斗が尋ねた直後、肯定的なコメントがたくさん流れた。
『ありがとう。それじゃあ……ね、拗ねてないで、こっちおいで』
 拗ねてなんかないって言い返したくなったけど、そもそも自分のことだと思うなんて、さすがに自意識過剰だ。でも、拓斗は俺が聞いてるってわかってる。それでいて、友達をテーマにするなんて……。
『ちゃんと最後までしてあげる。ほら、脱がすよ』
 ……拓斗はずるい。突然色っぽい声を出すもんだから、それだけで雰囲気を作られる。
『はぁ……全部丸見えになっちゃった。足立てて、大事なとこ、よく見せてよ』
 拓斗の言ってる場所がどこなのかは、容易に想像できた。たぶん、わかるように説明してくれてるんだろう。
『我慢できない? こんなに大きくして……舐めちゃおうかな』
 次の瞬間、舌の絡みつく音が耳の中に入り込んでくる。
「ん……」
 些細な音の振動でしかないはずなのに、体がゾワゾワしてしまう。
 ぴちゃぴちゃと濡れた音に加えて、肌も撫でられていく。
『ん……ちゅ……ちゅぷ……はぁ……ローション用意してるから……』
 カラカラとなにかの蓋を開ける音。本当にローションの蓋でも開けているみたい。
『指いれるよ。力抜いて……』
 そんなことを言われたところで力が抜けるはずもなく、俺の体はますます強張った。
 ぐちゅりと音を立てられて、いま指が入れているのだと頭に教え込まれる。
『あー……きっついなぁ。全然、力抜けてないみたいだけど……俺が解してあげるね』
 拓斗の声が、どんどん熱っぽくなっていくように感じた。
 興奮しているのか、興奮している演技なのか判断できないけれど、ただ、その声を聞いて、俺は確実に興奮していた。
「ん……はぁ……」
 硬くなってしまった自分の下半身を、手で押さえつける。
『前と後ろ、一緒にしよっか。こっちは舐めながら……はぁ……ん……ちゅぅ……後ろは……くちゅくちゅって、聞こえる?』
 聞こえる。性器を吸われながら、指でナカを掻き回されている音。
「んん……くっ……」
 俺の中にはなにも入っていないのに、まるで入れられているみたい。
『ああ……すごい……先っぽから、とろとろぉって、出てきちゃってるね』
 違う。そんなはずない。拓斗の言ってることはでたらめだ。それを確認しようと、ズボンと下着をずらして性器を取り出す。
「ん……」
 硬く上を向いてしまっているモノからは、先走りの液が溢れていた。恥ずかしくて、泣きたくなっていると、また拓斗がじゅるりと大きな音を立てる。
「んぅんんっ!」
『ちゅぅっ……ちゅ……はぁ……舐めても吸っても、どんどん出てきちゃうねぇ。気持ちいい? もう1本、指増やすよ』
 きつい。なぜかそんな気がして、ぐっと力が入ってしまう。
『ああ……ほら、また力入ってる。でも、2本奥まで入っちゃった。はぁ……このままたくさん、ぐちゅぐちゅしようね……』
 誰にでも当てはまるような状況を、拓斗は口にしているだけだ。言い方は悪いけど、インチキ占い師の手口みたいなものなのに、拓斗の言葉が俺の中で真実みを帯びていく。
「んぅ……ん……」
 入ってる……2本、奥の方まで。それが、気持ちいいのかどうか俺は知らない。知らないことは拓斗が教えてくれる。
『うん……ナカ、気持ちいいね……? はぁ……かわいい……どんどん、おっきくなっちゃって……もっと吸ってあげる』
 どうやら、俺はいま気持ちいいらしい。体が熱くてたまらない。思わず掴んでしまった自分の性器を擦りあげると、脳で感じる意識的な刺激に、肉体的な刺激が加わって、想像以上の快感が襲い掛かってきた。
「ひぅ……んっ……んんっ……!」
『はぁ……もう、我慢できないから……ん……入れちゃうね……?』
 待って欲しいと思っても、もちろん拒む手段はない。実際になにかされているわけではないのだから。
 目を伏せると、頭に情景が思い浮かんだ。指を引き抜いた拓斗が、今度はローションを絡めた自身のものを、足の間の窄まりに押し当てる。
「ん……」
 一度も受け入れたことのないソコが、勝手にヒクついた。
『あー……入ってく……すごい、俺の、きゅうきゅう締めつけて……気持ちいい……』
 拓斗は、なんだか本当に気持ちよさそうな声を出していた。人の性行為を盗み聞きしているだけだって思えたらいいのに。なんで、俺がされているみたいに感じるんだろう。
「はぁ……ぁ……ん……ん……」
『動くからね……はぁ……たくさん、気持ちいいとこ、突いてあげる……!』
 軽く喘ぐような拓斗の口ぶりが、行為の激しさを物語っていた。
 ローションの絡む音……肌のぶつかり合う音……。耳に届く行為の音に合わせて、俺も昂りを擦りあげていく。
「ん……はぁっ……はぁ……ん……」
 思考が蕩けて、もう気持ちよくイクことしか考えられなくなっていた。
 早く、もっと高めていかせて欲しい。そんな俺の想いに応えるように、拓斗がたくさんの音をくれる。
『はぁ……いきそぉ? うん……いいよ……はぁ……最後にキスして、一緒にいこ?』
 その問いかけに、俺はほぼ無意識に頷いていた。拓斗のキスの音に合わせて、左の人差し指を唇に押し当てる。
「んぅ……ん……んっ……んぅんんっ!」
 脳が音に支配された瞬間、欲望を吐き出していた。
 ぼんやりする頭で、果てた様子の拓斗の声を聞く。
『はぁ……あ……よかった……一緒に気持ちよくなれて……』
 甘やかすみたいに優しくて、いつもより掠れた事後の拓斗の声。包み込まれているみたいに心地いい。
 なんで俺、拓斗の声でこんなに感じてるんだろう。
『ねぇ。俺のこと……好きだよね?』
 ああ、そうか。
 俺は拓斗のことが好きなんだ。

 あの後、拓斗がどうやって配信を終えたのか、よく覚えていなかった。
 ぼんやりしていたし、俺は、それどころじゃなかったんだと思う。
 拓斗に好きか聞かれて、俺は好きだと思ってしまって――
「あんなの……ずるいよ」
 シチュエーションボイスによくあるやつに違いない。気持ちいいねって言われたら、いま自分は気持ちいい状況なんだって思わされる。好きだよねって聞かれたら、好きなんだって思わされる。そう思い込んで作られた世界に没入して楽しむものなのだろう。
 だから、この感情は偽物でしかない。
 ……そう思いたいけど、俺はサクラじゃなく拓斗を知っている。配信はすでに終わっているのに、いまだに拓斗のことが頭から離れない。
「なんでこんな配信、俺に聞かせんだよ……」
 吐き出してしまった欲望を、1人惨めにティッシュで拭いながら、俺はまた寝つけない夜を過ごした。
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