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16.レクスside 起きない彼女
しおりを挟む「フィオーレ!」
僕がフィオーレの部屋に向かうと、すぐにアミカに中に入れてもらえた。フィオーレはベッドの上で横になっていて、静かに寝息を立てている。
気絶して意識を失っていたものの、フィオーレには呼吸があり、命に別状は無かったことを確信して安堵した。
「アミカ、ありがとう。フィオーレの危険をすぐに知らせてくれて」
「いえ、私は仕事をしただけですから」
心配そうにフィオーレを見つめているアミカに、僕は声をかけた。彼女がいなければ、僕はフィオーレを失っていたかもしれないと思うと、感謝してもしきれなかった。
「申し訳ありませんでした、魔王様。私がエクエスの様子に気がついてフィオーレ様を中庭に行かせなければ、こんなことにはならなかったのに」
「それはアミカのせいじゃないよ、全面的にエクエスが悪い」
僕はフィオーレの手を、ぎゅっと握った。早く目覚めてくれと、願いを込めて。
後からアミカに話を聞いたところ、フィオーレが中庭に行ったのは、僕が呼んでいるとエクエスに言われたからだったようだ。
僕に会うために行った先で魔物に襲われたことを考えると、目が覚めたフィオーレが、僕に会うこと自体に恐怖を感じてしまうようにならないか、不安になった。
今の僕にできることは、また同じことが起こらないように、早急に魔物を討伐することだ。
「魔王様、私、一つ気になることがあって」
「どうかした?」
「エクエスが中庭に魔物を連れてきたと聞きましたが、それって可能なのでしょうか」
「……可能だよ」
僕はアミカに問われ、正直に返事をした。中庭に魔物を連れ込むことは、エクエスには、可能だった。
「エクエスに中庭の警備も任せていたんだ。彼は討伐隊のメンバーとも繋がっているから、秘密裏に魔物一匹捕まえて中庭に放つことくらい、容易かっただろうね」
「そんな……」
「すべて僕の甘さが招いたんだ。エクエスがフィオーレにいい印象を持っていないことなんて、気がついていたのに」
そう、僕は甘かった。それが結果的に、フィオーレを傷つけることに繋がってしまった。エクエスにチャンスを与えることや、彼を信じることよりも、フィオーレのことを第一に考えるべきだった。いや、これでもフィオーレを守ることを第一に考えているつもりだったのだ。それなのに、僕は。
「僕、フィオーレに何かあっても、もう一度伴侶を召喚すればいいなんて、どこかで思っていたのかもしれない。本当、最低だよね」
アミカは僕を驚いた目で見ながら、黙って僕の話を聞いていた。
「魔王の召喚の儀は三回できる。そのことに内心甘えていたんだろうな。でも僕、エクエスに新しい伴侶を召喚しろって言われた時、自分でも驚くほど腹が立ったんだ。流石に気がついたよね。僕はもう、フィオーレじゃないとダメみたいだ。どうしてだろうね?」
僕はフィオーレが魔物に襲われて意識を失っている姿を見て、血の気がひいた。なんの躊躇いもなく、治癒魔法を使った。おかげで魔力がかなり持っていかれている。それでも、なんの後悔もしていなかった。まだ目覚めてはいないけど、フィオーレが無事に生きているから。
「大切に思われているんですね、フィオーレ様のこと」
「大切だよ、とても」
僕はまだ眠っているフィオーレの頭を撫でて、微笑んだ。僕はフィオーレが大切だ。彼女を失うのが怖いし、彼女を守るためなら、なんだってできるような気がした。
「さて、僕は仕事に戻るよ。ヘルトと一緒に早急に魔物を片付けてくる。数日開けることになると思うから、その間フィオーレのことをよろしくね、アミカ」
「もちろんです、魔王様」
アミカに告げて、部屋を後にしようと思った時、ふと思うことがあって、もう一度アミカの方を振り向いた。
「どうされました?」
「いや、そういえばアミカ、魔力底尽きて倒れてなかった?普通にしてるけど、大丈夫なのかなって。魔族って倒れるまで魔力使っちゃうと、起き上がった時に一時的にその、ね?……部屋で休まなくていいのかなと」
「へ?あ、えっと、その、」
急速に顔を真っ赤に染めたアミカを見て、女性に聞くことでは無かったかと反省しつつ、言ってしまった手前言葉を引っ込めることもできなくなり、僕は焦って目を逸らした。
「……ヘルトが、来てくれたので」
小さく呟いたアミカの声を聞き、僕は全てを察してしまった。
「すみません、その、大変な状況の時に、そんな」
「うん、僕は何も聞かなかったことにするよ」
僕はそのままフィオーレの部屋を後にして、ヘルトが待っているであろう執務室に向かって歩き出した。
♢♢♢
「ヘルト、今すぐ魔物の発生地に向かう。討伐隊の動きを待っているのでは遅い。今のままだと、自然に魔物が城下や中庭にまで入り込む可能性が十分にある。一刻を争う事態になっているから、この際、僕が直接あちらに行くよ」
僕は予想通り執務室で待っていたヘルトに声をかけた。
「それは構いませんが、そうなると数日城を空けることになります。他の仕事が一切できないのも問題ですが、すでに討伐や街の警備に回っている人がほとんどで、魔王城の警備が手薄です。万が一のことがあれば、フィオーレ様が」
「大丈夫、魔王城全体に結界を張っていくよ」
僕は言葉通り魔力を放出して、魔王城の周りに結界を張った。城全体が僕の魔力でできた黒い霧のようなオーラに包まれ、窓の外が急速に暗くなる。
「魔王様、流石にそんなに一気に魔力を使っては!さっきエクエスを収監したり、フィオーレ様に治癒魔法を使っていませんでしたか?その上で討伐に行かれるのは、いくら魔王様でも危険です」
「大丈夫だよ、帰ってきたら魔力不足で倒れるかもしれないけど、僕の限界は僕が一番分かってる。安心して」
本当は、多分大丈夫ではない。魔王の魔力量は異常なくらい多いと言っても、流石に使い過ぎている自覚はある。それでも、今は魔物の討伐を最優先したいし、するべきだ。
「分かりました。無理はなさらないでください」
「ヘルトも一緒に行くんだよ、他の仕事は後だ。ヘルトが来てくれた方が、間違いなく早いからね。ヘルトの短剣は魔物もよく斬れる」
「え、いや、俺は」
魔王城に残って他の仕事をしていようと思っていたであろうヘルトは、分かりやすく嫌そうな顔をした。だから僕は、さっき知ったばかりの情報を躊躇いなく使う。
「ねえヘルト。さっき僕がエクエスと話してる隙に、一体アミカと何をしていたの?」
ヘルトに顔をグッと近づけ、笑顔で圧をかけてみた。我ながら魔王っぽく笑えた気がする。
「……すぐに魔物を、討伐しましょう」
「分かればいい。行くよ」
僕はヘルトを引き連れて、魔物の発生源となった地に急いで向かった。
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