平凡なアラサー女子ですが、ハイスペ同期と元カレに溺愛されています

優月紬

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会えない

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「谷口くん、倉橋知らない?」
「見てないっすね」

 私は最近、倉橋に会えていなかった。職場で見かけないどころか、同じ家で暮らしているはずなのに、帰宅するのは私が寝た後。朝も私が起きるよりも早く出ていってしまう。
 あの、玄関先でおでこに口づけを落とされたあの日から、ずっと。倉橋を見かけていない。

「そっか。避けられてるのかな、私」
「避けてる相手に弁当作らないと思いますけど。避けられるようなことしたんすか?」
「……した、というか、してる」
「それなら仕方ないっすね」

 倉橋には全く会えていないのに、家に帰ると必ず冷蔵庫に夕飯が用意されていて、朝起きるとご飯と弁当が必ず置いてあった。
 私は倉橋の家を出て行くと言いながら、この生活に完全に甘えていた。普通に考えて、早く出ていけと思われても仕方がない。それに、嶺二と付き合っていながら自分の家に入り浸っている私のことを、よく思わないのは当然だ。
 頭では、分かっている。早く倉橋の家から出て、嶺二の元へ行くべきだと。

「美味しい……」

 私は倉橋が作ってくれた弁当を食べながら、幸せな気持ちに包まれていた。まだ一度もお礼を言えていないが、この弁当が、泣きそうなほど美味しいのだ。毎日少しづつ具材が変わっている卵焼きや、小さく作られたハンバーグ。そぼろが乗ったご飯や、オムライスになっている日もあった。
 忙しいはずなのに、毎日、私に美味しいものを作ってくれている。その気持ち自体が、私は嬉しくて堪らなかった。

「森川さん、弁当食べてる時まじで幸せそうっすね」
「そうかな?」
「倉橋先輩まだこの顔見たことないんだと思うと、優越感に浸れるレベルっすよ」

 谷口くんは笑いながら、そのまま立ち上がり、どこかへ行ってしまった。
 私はふとホワイトボードに視線を移し、あることに気が付く。

「……倉橋、今日休みだったの?」

 私はそんなはずは、と思う。だけど、倉橋が休みだったにも関わらず、私が起きる前に家を出ていたとすると。
 やっぱり、避けられている。そう思うしかなかった。分かってはいたけれど、寂しさが私を襲う。私は無意識にため息をついた。
 弁当箱を巾着袋に片付けながら、スマホの画面を確認する。久しぶりに、嶺二から連絡が入っていた。”渡したい物があるから、会えない?”現実が、私を追いかけてくるような感覚がした。そもそも私は、嶺二の彼女だ。呑気に倉橋が作ってくれたご飯を食べている場合ではない。何日も、嶺二を放っておいて。
 嶺二に合鍵も貰っているし、一緒に住むことを本気で考えてと言われたことも覚えている。私が一緒にいるべきなのは、絶対に嶺二だ。嶺二は夢を諦めてでも、私を選んでくれたのだから。私も嶺二が、好きだから。まずは嶺二に、一緒に住みたいと言おう。そして、今度こそ嶺二に好きだと伝えよう。倉橋の家から、出て行くためにも。
 私は嶺二に”仕事が終わったら嶺二の家に行くね”と、メッセージを返した。
 
「森川さん、ちょっといいっすか。相談したいことがあって」
「ごめん、谷口くん。今度でもいいかな?この後予定あって」
「……分かりました、お疲れ様っす」

 定時になりデスクを片付けていると、谷口くんが声をかけてきた。相談したいことが何かは気になったが、私は彼に謝り、そのまま嶺二の家に向かった。
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