きもちいいあな

松田カエン

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群青騎士団入団編

10.朝食と懇願

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 気づいたら、朝だった。
 はっと目を覚ました私は、抱き込まれるように男の胸板に顔をうずめており、その状況に声を上げなかったことを、誰か褒めて欲しい。視線だけそろそろと動かして、状況を確認する。……私を抱き込んでいるユストゥスは目を閉じており、起きている気配がない。そしてここは自分の部屋のベッドだ。どうしてこの男が私と寝ているのか、それは考えずともすぐに思い出した。

 ぞわり、と寒気がする。抱きしめられている上、きちんと2人で羽毛布団に包まっているので、むしろ暑いぐらいだというのに、私の身震いは止まらなかった。私を抱きしめたままの男の耳が、ぴくぴくと動いた。

 この男は、わたしに、なにをした?

 考えても答えが出なかった。なかなかおちんぽをくれないユストゥスにじれて噛みつき、そして入れてもらった。私が急いだせいか、少しばかりひどい目にあったが、それでも最終的には『やさしいの』をしてもらっていた気がする。喉を性器に替えるような、そんな強引なことじゃなく、ただ泥のように微睡んだ、ゆるい触れ方。

 ……なるほど、あれが愛撫というものか。悪くはなかった。入ったままの陰茎が、律動しないことに不満を覚えた記憶はあるが、それでも、『やさしいの』は気持ちよかった。でも、最後のあれは。

 あれは嫌だ。怖い。柔らかな触れ方しかされてないのに、私の奥から吹き出るような快感。ユストゥスに縋り付いて、絶叫しながら暴れた記憶しかない。そこで終わりだ。気づいたら今。

 今までペニスを中に入れられて、あんなことになったことはない。身体がばらばらになるかと思った。……この男が怖い。私の身体に、なにかしている。

 息を詰めて、この得体のしれない男から逃れようと、私はそろそろと動いた。腕をゆっくりと持ち上げて身体から外し、絡んだ足も静かに引き抜く。私は服を身につけていなかった。
 魔具を使ったのか全身は清められていたが、身体のところどころに見知らぬ赤い鬱血が残っている。こういう細かいダメージの治癒は苦手だ。あとでエリーアス様に消してもらおう。

 身体を起こしかけたところで、腰に腕を回された。男が起きている。それを知って、私は身体を強張らせた。腕の中に私を戻したユストゥスは、あのときしたように私の手を取り、手のひらにちゅっとキスを落とした。そして指で文字を綴り始める。あっさりとした挨拶。

「うん。……おはよう」

 まだ寝てて、と次いで綴られ、ユストゥスは私を布団に丸め込む。そして本人は起き上がった。そして裸体を晒したまま、部屋の奥へと進んでいく。……い、今のうちに逃げよう。どこでもいい。とにかく、あいつのいないところへ。

 布団を剥がして床に片足をついたところで、ユストゥスが戻ってきた。尾はふさふさと機嫌よく揺れているが、私を捉えるその目の色が、少し違う気がする。思わず硬直した。そのユストゥスが持っていたのは、水差しだった。揺れる透明な液体を見て、私はごくりと喉を鳴らす。気づかなかったが、すごく喉が乾いている。

「ありがとう。私に、用意してくれたのか」

 いくら私がこいつから逃げようとしていても、親切には礼を持たなければならない。礼を口にして手を差し出すと、ユストゥスは何を考えたのか、水差しに口をつけて、その大きな口に含んだ。そして水差しを持つ手とは違う手を私の後頭部に回し、唇を寄せてくる。

「ひ、1人で飲める」

 声がうわずってしまった。恥ずかしい。怯えているのがばればれだ。両手でユストゥスの口を覆って押しやり、私は後ずさる。手の向こう側で、ユストゥスがごくんと喉を鳴らして、水を飲み干す音が聞こえた。すうっと、昨晩のように目が細められる。ぎゃっ。これは、もしかして……。

 ユストゥスはずずずっと私に迫ると、ベッドヘッドの物置き場所に水差しを起き、私の顎を掴んで口を開かせた。れろ、っと舌を出して私の口に差し入れてくる。
 ああ、うそ……っ。

「んんんーっ!!」

 ぐうっと喉の奥に舌先を押し込む、私の嫌いなキスだ。全身を抑え込まれて、咽頭まで犯される。呼吸が出来なくて暴れるが、酸欠になってしまい、すぐに抵抗は消え失せた。喉奥が震えるのもわかる。それに紐付いたように、私の寝ていた官能も呼び起こされてしまった。
 ひくん、とあらぬ場所がモノを欲してひくつく。

「んんっぷ、っはぁ、はぁはっぁ……」

 ようやく喉を犯していた舌が引き抜かれ、私は男の腕に抱かれたまま、大きく呼吸を繰り返す。そんな私をよそに、ユストゥスはまた水差しから水を口に含み、顔を寄せた。こんなことをされたら、手話などなくとも、私にだってユストゥスの意思が伝わる。

「っは、ぁ……」

 まだ呼吸の整わない口を開いて、ユストゥスにキスを求める。ゆっくり流れ込んでくる水は、体温よりちょっと冷たくて、いじめられた喉を優しく癒してくれた。口移しで与えられる水は一度では終わらなくて、何度も繰り返される。私は親鳥に餌を与えられる雛のように、ユストゥスの口づけで喉を潤した。

「は、ぅ……も、」

 もうお腹いっぱいだと首を振ると、ユストゥスはその口に何も含まず、顔を寄せた。間近に見える瞳がぎらぎらしている。判断を間違えるとまた、喉に加虐を与えられそうで、私はユストゥスの後頭部に腕を回して、自ら唇を重ねた。
 ユストゥスの尾が揺れて、ぱさぱさとシーツを叩く。……どうやらこれで良かったらしい。歯列を割り開いてくる舌は、先程とはうってかわって、優しく口の中を舐めてくれた。

 何度か、角度を変えて触れ合った唇が離れていくと、そこがじんじん痺れているような気がする。その違和感に自分の唇を舌先を出し触れて、その感触を確かめていると、ものすごく凝視された。何が言いたいと胡乱げに見返すと、また顔を寄せられる。ああもう。わかったキスすれば良いのだな。しつこいぞ。

 もう一度唇を重ねると、啄むような軽い口づけを繰り返された。これは、別に、悪くない。あのキスだけしないでくれたら、もう好きに……いや!駄目だ!こいつは『やさしいの』をしてくれると言ったのに!それなのに、あんな酷いことをした男だぞ。もっとなにかしてくるはずだ。警戒しておくに越したことはない。

 用心したまま口づけを終えると、嬉しそうな笑顔のユストゥスに、またベッドに押し倒された。手にキスを落として、また言葉を綴る。

「あさご……え、朝にもくれるのか?!」
 こくんと頷いて肯定を示すユストゥスに、そういうことなら、といそいそ身体を起こしかけて、そこで止められた。流石に私も学習している。ユストゥスのやることを邪魔すれば、あの『きもちいいのくるしいの』が待っている。

 仕方なく両肘をついて、少しだけ上半身を起こして眺めていると、ユストゥスは投げ出したままの私の足を左右に開き、その間に身体を置いた。

「あっ……」

 大きな手で半勃ちだった私のペニスを掴み、上下に扱きながら、もう片方の手を秘部に差し入れてくる。周辺を優しく揉み込んだあとに、指を差し入れてきた。思わず天井を見上げる。
 そんなことしなくても、いつでもおちんぽ入れて構わないのに。下手をすれば、また止めてしまいそうだった。だがその後来るのは後悔だと知っているので、そっと耐え忍ぶ。

「あっん、ん、っふ、ん……ゆ、すとぅす……」
 少しばかり、ねだるように名を呼んでしまうのは、許して欲しい。ぐぽぐぽ、広げる音が聞こえる。またユストゥスが顔を寄せて来たので、私はその頬に手を添えて口づけした。

「んっあ、んっあっ……いい、っ」

 腹が太いものを欲しがってうねり、腰が勝手に跳ねてしまう。ああ、これがユストゥスに、反抗の意思と取られないといい。お前の邪魔をしたいわけじゃ……ないっ。
 はやく、はやくあの太いものを入れて、揺さぶって欲しい。こんな、私を見ていても面白くもないだろうに。私は単なるなのに。

「あっ、そこ、だっ……んんっ」

 駄目、なんて言ったらまた、喉を犯される。下唇を噛んで言葉を封じると、ユストゥスは指を抜いて、私の片膝を掬い上げながら、上半身を倒してきた。目を細めている。
 ……これは、一歩遅かったか。くぅ、少しぐらい、嫌がるのも駄目なのか。慣れてないのだから、これぐらい手加減してくれてもいいと思うのだが。
 そう恨みがましく思いながら、私は舌を出して口を開いた。少しでも『きもちいいのくるしいの』の時間が減るよう、なるべく従順に。

 自分で、犯されやすいように、喉を開く。

 ユストゥスは、そんな私の首をしっとりと緩やかになで、ビクつくのを堪能しているようだった。喉が先に陵辱されると思っていたのに、下肢の熱い塊が私の身体を割り開く。あっ、とあげようとした声は、ユストゥスの口の中に消えた。りょうほう、両方一度に、入ってくる……!

 腰と背中に腕を回され、ぐっと身体が密着した。こんな状態で喉を塞がれたら、気を失ってしまいかねない。そう身体を竦めていると、ユストゥスはふ、と笑った。縮こまった舌を引き出され、そのまま絡められる。互いに互いの舌を舐め合うような状態のまま、私はユストゥスに突き上げられた。これは、苦しくない。
 ほっと安心して目を閉じると、私は男の背に腕を回す。

「んんっあ、ふ……んっ、ゆぅ……ぁんん」

 名を呼ぶ声を吸われ、先走りで濡れるペニスをしごかれる。お返しに、私はおまんこできゅっ、きゅっと彼を締め付けた。これは、気持ちよくて好きだ。……ユストゥスも、気持ちいいだろう?

 少し様子が気になってうっすらと開けば、爛々と光る眼差しにぶち当たって、慌てて閉じた。せっかく気分良くおちんぽを味わっているのに、あんな目で見つめられたら、息が詰まってしまう。

「ふ、ぁ……ん、んーっ、ぁうっ」

 あっ。これ以上前を触ったら、出してしまう。や、出る、駄目、ぁあ……っ。

 ユストゥスを深く咥えこんで締め付けたまま、私は精液を吐き出した。連動して、ひくんと跳ねるおまんこが、おちんぽをぬるぬるにしながら甘える。精液ちょうだい?とおねだりしながら、絡みついている。

 たのむ、はやく……っ。

 私の奥をつんつんと突いて穴を堪能していたユストゥスは、私のはしたない催促に少し笑って、ほしかった白濁を与えてくれた。





 ダイニングでの朝食時には、群青騎士もその奴隷も、寮にいる限りはたいてい集まる。出てこないのはディーター先輩ぐらいだ。
 魔肛持ちはほぼ食事を取らないので、水と小さなビスケットで事足りるが、奴隷は普通の人間だから、バランスの良い食事を与えられていた。

 朝からだいぶ精のつく料理が並んでいるが、今朝の私と他の魔肛持ちも一緒なら、奴隷たちは一仕事終えたあとなのだろう、ガツガツと美味しそうに食べている。バルタザールが全員のもとを周り、手話で何かを告げるのを、頷きながら紙に書き取っていた。マインラートだけは早々に食べ終わってしまったのか、エリーアス様の背後にひっそりと立っている。

 テーブルはさすがに騎士と奴隷で分けられていた。騎士である私達は、他の貴族よりマナーにうるさいわけではないが、流石に戦場でもないところでは、ゆっくりと食事を取りたい。
 まあ、水とビスケットだけなので、早々に食べ終わって歓談している状態だが。

「エリーアス様」
「クンツ、どうした?」

 私はエリーアス様が優雅に水を飲み、そのグラスを置いたところで声を掛けた。今日も素晴らしく優艶とした笑みで見返してくれる。私は一息つくと、柄にもなく緊張しながら拳を握り、口を開いた。

「奴隷の変更を頼みたい」

<はあ?!なんでだよっ!昨日も今朝も、天国に連れて行ってやったのに!>
 ユストゥスは、手にしていたフォークをカランと落として立ち上がると、目まぐるしく手話で何かを訴えている。まあ私にはわからないのだが。

「ユストゥスが気に入らなかったのかい?」
<そんなはずはない!すっごくよがって、かわいく震えてたぞ。>
は、私のごはんには向かない。勝手に触ってくるし、嫌がっているのに離してくれない。……エリーアス様、ちゃんと聞いてくれ」
<ちょおおおおっと、愛撫しただけじゃねえか。まだ堅いけど、ちゃんと開発すりゃ、子熊も可愛くなるぜ。……まあ抵抗を封じるために、少し工夫したけど>

 エリーアス様の瞳が基本ユストゥスに向けられていて、ごくたまに私の方も見てくれるような状態だ。ダイニングで皆の前での会話なので、それにライマー先輩が入ってくる。

「え、ユストゥス、お前なにしたの?」
<ベロイラマ。ちょっと酸欠にしてやると、ふにゃふにゃして可愛い>
「ああ、お前お得意の」
「何を納得しているんだライマー先輩!」

 あれならしょうがない、って軽く笑いながら、納得しているライマー先輩に噛み付いていると、「ちょっといいか」と今度はアンドレアス先輩が入ってきた。

「クンツももう研修生じゃなく、正式な群青騎士だから言うけど、ちゃんと手話覚えないと駄目だぞ?彼らに失礼だ」
「そうそう。ちゃんと意志を尊重してあげるべきだよ」

 ジギー先輩までそう諌めてくる。そこまで言われて、私はようやく気づいた。自分が穴だから、彼らまで人ではないように扱っていた。単なる棒だと思っていた。私が騎士として擬態出来るようにしてくれる、ゼンマイ人形に挿して、ゼンマイを巻き上げるための、道具のような存在だと思っていた。
 そうか。と違って、彼らはだったか。
 私は立ち上がると、食事を続けながらこちらの様子を伺っていた奴隷たちに、頭を下げた。

「今まですまなかった。今後は、きちんと手話を覚える。……その、すぐには慣れないかもしれないが、話かけてほしい」
 私がそう謝罪すると、声なく奴隷たちがざわめいていた。

<あの子熊ちゃんが謝った??>
<すごい。どういう心境の変化だ>
<ユストゥス、お前何したんだい?>
 それぞれの手が動くが、正直理解できない今でも、目が追いつかない。これがきちんと分かるようになるのか不安が残る。

<クンツの場合は、エリーがきちんと教えないのが悪いのです>

「ふふ。マインラートは手厳しいね」
 エリーアス様の笑い声に、私は視線をそちらに戻した。見れば、エリーアス様の背後に立っていたはずのマインラートが、テーブルまで進み出て、手を動かしている。

<貴方はあの子を、穴のままにしておきたいのでしょう。理性があるだけの、ただのに>
「よくわかってるじゃないか。さすがマインラート。……ああ、興奮してきた。あとでおちんぽ入れてくれ」

 ……さすがは英雄様だ。朝から爛れていらっしゃる。
 なんだかこのままお開きになりそうな雰囲気に、私は慌てて手を上げた。

「それで!私の奴隷の交換は!」
<あ、まだ言うのか。くっそ今夜覚えてろよ>

 私の懇願に、他の騎士からはユストゥスを見て含み笑いが溢れ、エリーアス様は腕を組んで少し考える素振りを見せた。

「交換、というが、誰と交換を希望するつもりだい?……大柄な君でさえ抑え込められてしまうユストゥスを、他の仲間に押し付けるの?」
「うっ」

 一番痛いところを突かれた。どんぐりの背比べほどではあるが、聞けば身長は、私より大きいものはエリーアス様しかいない。他は私より数センチから10数センチ低い。ばっと視線を向ければ、この場にいるエリーアス様を除く全員が、首を横に振った。

「ほら僕の場合は、エイデンが面倒を見てくれるから」
「俺は穴は平気でも、骨盤がキツイんだよなあ、ユストゥスのは。ジルケでギリ」
「別にこちらは現状で不満はないしね」
「まあ、うん。ユストゥスはクンツが良いと思うぞ」

 口々に、たまに咥えるにはいいんだけど、とユストゥスのことを評している。私はぐっと拳を握った。

「じゃ、じゃあエリーアス様、交換してください」
「うん?ベッカーは君が駄目でしょ?」
「ベッカーではなく、マインラートと」

 元々ユストゥスは、エリーアス様の専属奴隷だったのだ。それならエリーアス様が拒否することはないはず。そう思って、不思議そうにしているエリーアス様に言い切ると、その場が凍った。ライマー先輩が、このバカ、と小さく呟いたのが聞こえた。

 ……えっ?

 腕を組んだままのエリーアス様が、ゆっくりを膝も組んで、少し顎を上げ、こちらに視線を向けてくる。私を見下ろす、英雄騎士。蠱惑に唇の端が上がる。とても楽しそうに、小動物をなぶる目を、私に向けてくる。

「マインラートと交換ねえ。……そうだな、今晩、マインラートを貸そう。それで、ユストゥスとどちらが良いか、君が選ぶと良い。マインラート、君が好きに、クンツを愛してやってくれ」
<それはどこまで、やってよろしいのでしょうか>
「言っただろう、好きにしていいよ」
<NGなし?本当に?壊れるかもしれませんよ>
「だってご指名だもの、クンツが嫌がるはずもないよ。そうだよね、クンツ」

 反射的に頷こうとしていた私は、背後から伸びてきた腕に抱きとめられた。大きな手のひらで口を塞がれる。そのままユストゥスは私の目を覗き込み、ぶんぶんと首を横に振った。その表情は必死だった。

 断れと?でも、ユストゥスとマインラートだったら、マインラートの方が身長も小さくほっそりしている。おちんぽはちゃんと見たのは半勃ちのものだけだったし、そう言えば部屋に来てもらったときも、あまりちゃんと彼の裸を見たことがなかった。太さも人間のものにしては大きい方だが、それでもしっかり咥えられた。別に普通に入れて、出してくれたのだ。

<道具の使用の許可もいただけますか?>
「もちろん。君の素晴らしさを、クンツに教えてあげて」

<はあ。……まあ、エリーにも出来ないことが出来るというのは、それなりに興味をそそられますね。まずは縄を新調しないと。拡張用のディルドはあそこに入れてありますが、尿道プラグはどこにしまったんだか……。いろいろ摘むためのクリップの数と、それに電気を流す魔石の残量も、きちんと確認しないといけませんし。やることがたくさんですね>

 マインラートの手が滑らかに動くたびに、皆なぜか顔が青ざめていく。なに、なにを、マインラートは言っているんだ?わからないのは私と来たばかりのベッカーぐらいだった。ベッカーはどこか困った様子でこちらを見守るに留まっている。
 言い出したはずのエリーアス様すら、どこか引きつった表情で立ち上がり、マインラートから距離を置いた。

「なぜ、君は、そんなものまで……」
<エリーが欲しがったら、使って差し上げようと思いまして、いろいろ用意しました。あとはそう、今回のような、無茶振りした際の、罰ですかね?どれが良いですか?1つぐらいなら貴方も楽しめるでしょう>
「!」

 なぜかエリーアス様が戸惑ったように、バルタザールを見た。部屋の端で状況を眺めていたバルタザールは、急に振られて心底迷惑そうな顔をしている。

「えっと、ここで僕に話振る?確かに寮監だけど……ごめんね、プレイ内容に関しては、君たちにおまかせしてるから、本当に嫌な場合だけ、声かけてよ。その時は忠告するなり、罰則使うなりするからさ。あ、ベッカーくん食べ終わってるね。今日から手話の練習と細々としたルール説明するから、僕に着いてきて」

 眉毛を下げて、両手を合わせたバルタザールは、ベッカーを捕まえると、それじゃあ、とそそくさとダイニングを後にした。それに私は追いすがろうとする。

「待ってくれ。私は本当に……!」
「クンツ!諦めなさい、このまま現状維持だ。現状維持!今日は解散!」

 マインラートによって、じりじり部屋の端に追い詰められながら、エリーアス様はやけくそのように怒鳴った。そんなエリーアス様に、マインラートが優しく手で、言葉を紡いでいる。私のことなどもはや眼中にない。

<エリー。選ばせてあげるだけ、私は優しいと思いませんか?それとも私が決めていいのですか。ねえ、私のエリー?>

 エリーアス様の言葉に、食事を終えても終えてなくとも、それぞれダイニングから出ていく。私もユストゥスに連れ出されてしまった。


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