希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

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第1章 土佐の以蔵

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 夕餉を終え、啓吉が座敷に横になり寝息を立て始めた頃。以蔵は義平に呼び出され、奥座敷に座っていた。
 彼が何か自分の中で大きなことを決心した時、決まって義平は以蔵をこの薄暗い奥座敷vで以蔵と二人向き合うのだ。

 義平は、しばらく以蔵と向かい合った後重そうに口を開いた。


「以蔵。今から伝えることは、代々家主のもにしか伝えないことちや。本当はもっと後になっていうつもりだったがの、さっき武市先生と話してみて気が変わった
んじゃ。以蔵。おまんにわしが知っとる一族のすべてを話そう。それが以蔵の力と、関係するかもしれんきのう」


 お猪口に次いだ日本酒を、吉平はぐびりと飲み干した。
 そして懐かしむような瞳で窓の外を見上げる。以蔵はその様子をじっと見ていた。


「…これは以蔵も見たことがあるだろう」
「……これは……」


 義平はおもむろに箱を二つ取り出した。一つは刀。もう一つは宝玉。どちらも先祖代々我が家に伝わっている代物であった。義平は二つの箱の紐を丁寧にほどき、二を外した。

 数年前にみた宝玉と刀。全く変わらないまま、その美しさを保ったまま、その箱の中に静かに佇んでいる。


「この宝玉と刀はわしらの先祖が使っていた者じゃ。わしらの先祖はおまんも知っての通り鬼。けんど、ただの鬼じゃあ、なかったがじゃ」
「え……。そんなの、聞いてない…」


 義平はふふふと笑って以蔵の頭を撫でる。


「この宝玉と刀を伝える者にしか教えてないきの。以蔵も言うんじゃないぞ。彼女は今でも名は知れているくらい悪名高いことになっているしのう」



 義平はええか、といって少しだけ顔を以蔵に寄せた。


「わしらの先祖であり、この宝玉と刀の見かけ上の所有者と使用者は、奈都様という妖怪混じりじゃ。しかし奈都様にそれらを与えたのは彼の母親であり、妖怪。京の鬼たちの総大将、酒呑童子様じゃ」
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