希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

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第1章 土佐の以蔵

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 以蔵は難しい顔をしながら目の前に置かれている茶椀に口をつける。苦みの中にほわりと感じる甘み。その味に、以蔵は思わずため息をついた。
 半平太は以蔵が茶を飲む様子を一通り見つめてから、再び口を開く。
「確かに、過激派たちはいろいろと噂が絶えないな。しかし、彼らが討幕派、というのは少し違う」
「え、? 違うのですか?」
「根本にある考えは同じだ。まず討幕派についてだが、がれらがそうである理由は下級武士たちは今の身分制度への不満から、身分が少し上の者達は天皇がいた時代を取り戻したいという思いから。そしてそれらの考えが二つの派閥を生んだ。一つは幕府制を完全に撤廃する考え。この者たちが真の意味で言う討幕派だ。そしてもう一つが、天皇と幕府を統合するという考え。これら二つを、世間は討幕派、と呼んでいる。そしてこの二派はすこぶる仲が悪い」
 なくしたい側と、合わせたい側。たしかにどちらも結果的には幕政を終わらせる、という結果になるかもしれないが、その過程も、それによって出来上がるもの違うだろう。仲たがいするのも同然だ。
「かれらは妖怪混じりや人間の中でも改革を願っている者達の集団だ。彼らは過激派であっても自分たちに反する敵のみを攻撃し、仲間や関係ない者は傷つけようとしな。関係ない者を殺すことは、本意ではないのだろう。攻撃しているのは常に自分たちと意見の合わない者達の様だ」
 半平太は再び茶をすすり、しかし、と続ける。
「最近、妙な噂を耳にするのだ。第三の過激派がいる、と」
 理解に追い付いていけず目を白黒させる以蔵に、半平太は困ったように笑う。
 つまりは、今までの過激派は二派にわかれる討幕派たちの一部でであり、彼らは仲間や部外者を巻き込むとはないということ。そして近頃はそうでない過激派がいるということ。端的に言えば一言なのだが、半平太は少しさかのぼって話をしすぎたらしい。久しぶりに勉強に近いことをした以蔵の頭の中では過激派と倒幕派が混同し始めていた。
 半平太は右へ左へと頭をひねる以蔵に、もう一度一言で分かりやすいように説明すると、彼はようやく納得したような顔を見せる。
「なら、そのもう一つの派閥は何なのでしょうか? 討幕派でないなら佐幕派でしょうか」
「いや、違う。あくまで噂だが……」
 半平太はすっと目を閉じた。
 かたん、と鹿威しが鳴る。
 以蔵は静かに半平太の次の言葉を待った。
 彼は何かに想いを馳せているかのようにほう、と息をつく。その瞳は愁いを帯びていた。
「噂でしかないが……。その第三の過激派は、……人間が妖怪混じり以上に差別し、奴隷同然に扱ってきた、純潔の妖怪たちだ」
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