6 / 8
ひとつ
夕食
しおりを挟むばあちゃんとの話が一区切りついて、気づけば夕飯の時間になっていた。慌ててばあちゃんと一緒にキッチンに立ち、料理を始める。
ばあちゃんにはできれば休んでいてもらいたかったが、僕の料理の腕はまだ発展途上で自信がなかった。
緑色のエプロンを借りて、ばあちゃんに指南を受けながら夕食を作る。今日の夕飯は、夏野菜のミネストローネと母さんが持たせてくれたパン、そしてばあちゃんが昼から煮込んでいたらしい豚肉のミルク煮。それぞれを盛り付け、リビングのテーブルに並べる。
「ばあちゃん、これ昼から作ってくれたの?」
「孫が来るんだから当たり前だよ」
「僕手伝いに来てるんだから、気にしないでいいんだって」
煮込まれた豚肉はトロトロで、濃厚なミルクのソースがパンに合う。僕が頑張ったミネストローネもなかなかだ。
母さんが持たせてくれたパンを切り分けて、ばあちゃんがチーズを乗せてくれた。これが美味しくて、手が止まらない。
「パンもこんなにたくさん。ありがとうね」
「母さんがたくさん持たせてくれたんだ。このパン柔らかくて美味しいよね」
「どのパンも美味しいさ。気を遣わせて悪いね」
「父さんも母さんも心配してたから。でも元気そうでよかったよ」
用意した食事は、談笑の中あっという間に食べ切ってしまった。ほとんど僕のお腹の中に収まってしまったけれど。
「そういえば、父さんがカタリ街は花が有名だって言ってたけれど」
「よく知ってるね。花の栽培と出荷が街の支えなのさ」
「たしかに中央の通りも花がたくさん咲いていたな」
食器を片付け、落ち着いたところでまたハーブティーを煎れる。寝る前だからカモミールティー。部屋いっぱいにカモミールの匂いが満たされていく。一口飲んだところで、話題は父さんから聞いた話になった。
「魔女の御加護って聞いたことある?」
✴︎
魔女の御加護。
それは、ばあちゃんが言うには、カタリ街に言い伝えられる昔話のひとつだそうだ。
「魔女の御加護ってのは、昔は花が咲き誇るこの土地を守る魔女がいたって話さ」
「魔女なんて、本当にいたの?」
「私も知らないくらい昔の話さ。ただその魔女がこの土地に花が枯れないように魔法をかけてくれたおかげで、この街はこんなに小さいながらもやってこれたのさ」
カモミールティーを飲み干し、ティーポットからもう1度注ぐ。
「花が枯れない魔法?」
「もちろん、本当にそんな魔法がかかっているかは誰にもわからない。でもこの土地で、花が咲かなかった年は、今まで一度もないね」
「………」
魔女の御加護。
花が枯れない、不思議な魔法。
本当にそんなものがあるのだろうか。
魔法なんて。
「ばあちゃんは信じているの?」
「当たり前さ。だからこの街の人は、花を大切にするし、魔女の言い伝えもしっかり守るのさ」
「魔女の言い伝え?」
「古い決まりごとみたいなものだね。良ければ明日、街の図書館にでも行って見ておいで」
「え、」
「なに、すぐに見つかるさ」
にっこりと笑うばあちゃん。カップの中のカモミールティーはすっかり冷めてしまった。
「さて、そろそろ寝ようかね」
2人分のカップを片付け、シャワーを借りて、寝る準備を始める。
いつもよりも早い時間だが、今日はバスの移動もあって疲れたのだろうか。ふかふかの客用ベッドに寝転んですぐ、とろとろと眠気がやって来た。
また明日、図書館に行ってみよう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる