やがて始まるリベリオン

塚上

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第二章 銀色の聖女

第七話

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 ジーク浩人が放った殺気によって室内は沈黙が続いていた。範囲を限定的に絞るよう意識したことから影響は室内に留まっていた。無作為に放てば蜂の巣を突いたかのような騒ぎになっていたことだろう。

(漫画とかでよくあるやつだけど、まさか上手くいくとは)

 物は試しにといった思いで実行してみたが効果は覿面だった。

(ルークが暴れ出したら面倒だから止めないと。どうせ俺のせいにされるのがオチだしなぁ)

 三年経っても自分本位なところは変わっていなかった。

(それに騎士団入りを前に揉め事は困る。線引きが難しくなるからな)

 浩人が考えているように仮にルークがフォンセルなら原作と同様に騎士になる可能性が高い。ルーク自身が十五歳であり、騎士を目指していることからもゲームの流れ通りと言える。
 
 この世界にDNA鑑定は無い。本人がどうかを判断する手段は名前や見た目、バックグラウンドなどの状況証拠。直感的な部分では魔力の質で判断するのも手だが、浩人はフォンセルの魔力の質を知らない。

(そもそもDNA鑑定があってもフォンセルのデータが無ければ意味無いしな)

 結局のところ、本人かどうかを判断する手段は限られる。騎士に成れるか否か、それも十五歳の最年少として。
 その結果次第で一つの線引きをしたい浩人。だからこそ、このタイミングでくだらない横槍を入れられたくはなかった。

「……ジーク。僕は大丈夫だから話を続けよう」

 室内に満ちていた殺気が治まる。
 極度の緊張感から解放された三人だが動きはない。全員が認識していた。――下手に動けば命が危ないと。

「騎士団の連隊長がどうかしたか?」

「……いや、こちらの……勘違いのようだ。忘れてほしい」

「ふん、くだらん前置きをするな。要件を話せ」

 想定していた複数の手筈と流れが大きく変わっていた。現状では軌道修正を行うのは難しいと内心焦る三人。

「どうした、随分と静かじゃないか? 腹の探り合いはしないのか?」

 言葉を紡ぐことが出来ない。気付けば主導権を握られていた。

「なめるなよ。……の威光があれば俺が素直に従うと思ったか?」

「……それは一体何の話だ?」

「惚けるな。そのフードが発端だろうが」

 浩人から見れば動揺は小さく映る。だがその冷静さが却って怪しく感じる。
 確固たる根拠があるわけではないが、ゲームで似たような場面があったことを思い出していた。

(やり口がほとんど一緒だったからな)

「話が見えない。先程から何を言っている?」

「しらを切るか……。好きにしろ。茶番に付き合うつもりはない」

 席を立つジーク浩人。もうお前達に用は無いと言わんばかりの振る舞いだ。

「……まだ話は終わっていない」

「バカか貴様は。依頼の詳細を聞かなければ受ける必要はないんだろ? 自分の発言を忘れたのか鳥頭?」

 怒涛の連続口撃が続く。ゲームの戦闘で例えるなら軽く五十コンボは超えていただろう。

「まぁ、聞いたところで判断するのは俺だ。公爵家だろうがなんだろうが関係無い」

(もう滅茶苦茶だな。普通に考えたら言いたい事が勝手に変わるってヤバいよな。今更だけど)

 この三年間、何も戦闘能力の向上だけを目標にしてきた訳ではない。生き残るために一番重要なことは強さで間違いないが、率先してトラブルを起こす必要はない。
 発言が自動で辛辣な言葉へ変換されるのはどう考えても悪手になる。下手をすれば相手が国王でも変化は無いかもしれない。可能な限り矯正に努めてきたが成果は乏しかった。

(何故か両親には普通なんだよなぁ)

 半ば諦めの境地。トラブルを回避出来ないなら全てを跳ね返せるくらい強くなろう。それでも厳しいようなら出来る限りの準備を整えて国外へ逃走する。
 
 当初の想定より早まることになるが致し方ない。相手が公爵家ならそれは王族ということになる。いくら悪逆非道のジークであっても、相手が王族に連なる可能性があるなら多少は丸くなると思ったが、ご覧の有り様だ。

 元々リーチのような状況で今回の態度。自らの手でラギアス家に終止符を打つ結果になったかもしれないが、今までのラギアス家みんなが悪いと内心開き直る浩人。
 あらかじめ検討していた逃走プランに移行しようと頭を切り替え部屋を出ようとしていた浩人だったが……。

「待って下さい。こちらの非礼をお詫びします」

 先程まで顔を隠していた人物がフードを外してジークを見据えていた。星を映したかのような煌びやか銀髪の少女。瞳には恐怖の色が残っていたが、それでもジークから目を逸らさない。
 芯の強さは原作と変わっていない。浩人がゲームで何度も見たパーティキャラとの新たな出会いだった。



✳︎✳︎✳︎✳︎



 少女は思い出していた……彼との出会いを。
 初めは調査のために近付いた。依頼という名目で彼の人柄や思想、戦闘力や噂の真意、そして国に仇なす存在であるかどうかを調べるために。
 
 実際に会ってみると噂通り態度は粗暴で貴族とは思えないものだった。そして何より恐ろしい存在だった。
 死線を何度も乗り越えてきた信頼出来る護衛。その二人の存在が希薄に感じる。単独で竜を相手にしているかのような錯覚を覚えた。触れてはならない逆鱗に触れてしまったのだと後で気が付いた。
 
 今思えば彼にとって大事な友人を傷つける行いは何よりも許し難いことだったのだろう。同意を引き出すための不本意な言葉だったとしても後悔が募る。
 
 徹底した選民思想の裏には他者を思う優しさが隠されていた。
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